Simply Dead

映画の感想文。

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『聖女はロック・シンガー』(1989)

『聖女はロック・シンガー』
原題:Glory! Glory!(1989)

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 リンゼイ・アンダーソン監督が晩年にアメリカで撮り上げたTVムービー(製作はイギリス)。ショービジネス化した現代の宗教を痛烈に皮肉ったブラックコメディで、アンダーソンへのトリビュートフィルム『Never Apologize』(2007)でも取り上げられていない、いわば幻の作品だ。元々はミニシリーズだったのか、2時間半を越える長尺だが、観ている間ほとんど時間を感じさせないくらい、ムチャクチャ面白かった。

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〈おはなし〉
 CCCことコンパニオン・オブ・クライスト教会は、主宰者のスタッキー牧師による熱烈な説教で人気を集めるマンモス教団。だが、ある日スタッキー師は脳卒中で倒れ再起不能に。新たに息子のボビー・ジョー(リチャード・トーマス)が跡を継ぐが、あまりにクソ真面目な説教のおかげで、信者の支持も寄付金の額も激減。このままでは教団が潰れてしまう! 答えを求めて夜の町をさまようボビー・ジョーは、たまたま入った酒場でロック歌手のルース(エレン・グリーン)と出会い、そのパフォーマンスに釘付けになる。聴衆を引き付け、熱狂させるパワフルな魅力、これだ!

 ボビー・ジョーは渋るルースを口説き落とし、教団のテレビ番組に出てもらうことに。たちまちカリスマ的な人気を獲得していくルース。教団の経営を長年支えてきたレスター(ジェームズ・ホイットモア)は思わぬ救世主の登場に大喜び。彼の采配で、ルースはライブやPVのみならず、信者に癒しの奇跡を施すヒーリングショーにまで才能を発揮し、ついに全国放送のトーク番組にまで招かれる。だが、これまで麻薬・姦淫・堕胎と数々の罪を重ねてきた彼女は、なぜ自分が“神の御使い”に選ばれたのか迷い始めていた……。

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 アメリカのいわゆる“バイブルベルト”で繰り広げられる宗教ビジネスの狂騒を、英国人リンゼイ・アンダーソンは毒気たっぷりに見つめ、徹底的にこきおろす。熱心な信者が見たら激怒しそうなバカ騒ぎをラジカルに描きながら、その描写はどこかユーモラスで愛がある。神の使徒の名をかたる人々が、欺滿に満ちた俗物であればあるほど、アンダーソンの人間愛はより深まっていくのだ。自分の信義を裏切り、あらゆるものに嘘をつき、利益を求めて突っ走る人々を映し出す時の、水を得た魚のごとく活き活きとした演出ときたらどうだろう。やがて標的は気まぐれで利己主義的なメディアへと移行し、その下劣さを暴いていく。

 宗教と資本主義、神と人間の距離というテーマを中心に据えた長大なサタイアを、アンダーソンは『オー・ラッキーマン!』(1973)にも通じるファンタジックで寓話的な展開も織り込みながら、いたって軽妙なタッチで語りきる。その手腕が実に見事だ。優れた現代アメリカ論・宗教論でありつつ、コメディ映画としてもムチャクチャおかしい。音楽のクオリティも高く、ヒロインが歌うナンバーはCD化してもいいくらいだし、劇中で流れるPVなんて安っぽさも含めて本当に80年代にMTVで流れていそうな絶妙な出来(さすが、ワム!のコンサートフィルムを撮ったこともあるアンダーソン監督)。やっぱりここまで本気でやってこそサタイアは本物の命を得るのだ、と思った。

 ただ、本作で描かれた「ロックンロールで宗教ビジネス!?」というプロットに関しては、現在のアメリカでは当たり前のことになってしまって、特にツイストにも風刺にもなっていない。敬虔なクリスチャンのロックバンドやパンクバンドなどはざらにいて、果てはギャングスタラッパーまでいる始末(そのあたりのことは町山智浩さんの著書「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」に詳しい)。だから別の言い方をすれば、本作は「時代を先取りしていた」とも言える。さすがに教団側が歌手にコカインを渡したり、堕胎の手配をしたりするところまでは現実化していない……と思うが。

 なんといっても本作の目玉は、主演のエレン・グリーン。まさに神がかり的な迫力でカリスマ性に溢れたアバズレ女・ルースを熱演し、リアルに観る者のハートを「もっていく」のである。酒焼けしたようなハスキーボイス、本物のロック歌手といっても通用する確かな歌唱力、四文字言葉を連発する下品でパワフルな台詞回し、全てが圧倒的だ。この人どこかで見たような……と思ったら『レオン』(1994)の序盤でいきなりゲイリー・オールドマンに撃ち殺されるアバズレ母ちゃん役の人だった。というか、ミュージカルリメイク版『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986)のセクシーで薄幸なヒロイン、オードリーじゃないか! 不覚!! 慌てて『リトルショップ?』を見直したが、あちらでは完全に声をハイキーに作っているので、『聖女はロック・シンガー』の方が素に近い彼女の実力が出ていると思う。実際、ブロードウェイなどで活躍するミュージカル女優であるらしく、舞台版『リトルショップ?』の初演やミュージカル版『ヤング・フランケンシュタイン』にも出演しているとか。

 そして、教団運営を陰で支えるレスター役のジェームズ・ホイットモアが、あまりに素晴らしすぎる。組織の維持と金儲けと保身のためならどんな汚い手でも使う老法律家を、ちょっと怖くなるぐらいコミカルに、可愛らしく、嬉々として怪演しているのだ。クスリの世話に堕胎の手配、盗聴・恐喝・横領と次々に罪を重ねながら、罪悪感をまるで抱かないキャラクターがいっそ清々しい。近年ではフランク・ダラボン監督の『ショーシャンクの空に』(1994)などで味のある老優ぶりを見せていたが、こんなに楽しい芝居をする人だとは知らなかった。

 この2人に挟まれて、今にも消え入りそうな存在感でつまらない主人公ボビー・ジョーを演じているのが、リチャード・トーマス。『宇宙の七人』(1981)や『IT/イット』(1990)に主演していたと聞いても「え、誰?」と思ってしまうような影の薄さが、本作ではとても効果的に活かされている。終盤では本当に出番が激減するのだが、きっちりクライマックスはもっていくのが素晴らしい。

 後半、ヒロインが中年の魅力ぷんぷんのTVジャーナリストと恋に落ちるくだりになると、それまでの勢いが失速してしまう感はある。が、ドラマ的にはクライマックスに繋がる重要な部分なので、最終的には気にならない。アンダーソンの風刺精神が炸裂したアイロニカルな大団円が強烈だ(ある意味ベタとも言えるくらい、誰が見ても額面どおりに受け取れないようになっている)。アンダーソン作品のファンなら思わず『オー・ラッキーマン!』のラストを思い出すだろう。

 僕の好きな英国人監督マイク・ホッジスも、やはり80年代にアメリカのバイブルベルトを舞台にした作品をいくつか撮っている。人気ラジオ伝道師の血塗られた過去を描くTVムービー『新ヒッチハイカー/トーク・レディオ』(1985)と、霊媒ショーを行う孤独な美女が企業の陰謀に巻き込まれていく傑作『ブラック・レインボウ』(1989)だ。どちらも宗教ビジネスと「本物と偽物」が重要なモチーフとなっている。生まれも作家性も違う2人だが、本作を観た後ではどこか共通点を感じずにいられなかった。

 「映画はエピックでなければならない」というアンダーソンの信条にもとづき、この映画もまた、ある組織とそれに翻弄される個人の興亡史(?)をたゆたう流れのように描いた、見応えある傑作になっている。日本ではRCAコロンビアからビデオが出たきりで、もちろん現在は廃盤。英米でもDVD化されておらず、VHSテープがプレミア価格で取引されている。できるだけ多くの人の目に触れてほしい秀作だけに、残念な状況だ(とりあえず渋谷のTSUTAYAにはレンタルVHSが置いてある)。


製作・脚本/スタン・ダニエルズ
監督/リンゼイ・アンダーソン
原案/スタン・ダニエルズ、ボニー・ドーア、ラリー・ホーヴェイ
撮影/マイク・ファッシュ
音楽/クリストファー・デドリック
出演/エレン・グリーン、リチャード・トーマス、ジェームズ・ホイットモア、ウィンストン・レカート、バリー・モース、ジョージ・ブザ
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