Simply Dead

映画の感想文。

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『WALL・E/ウォーリー』(2008)

『WALL・E/ウォーリー』
原題:WALL・E(2008)

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 信頼のブランド、ピクサーによる最新作は、やはり掛け値なしの傑作だった。こんなにもシンプルでありながら、寓意に富み、全方位的なエンタテインメントとしてもよく出来ているとなると、もう文句のつけようがない。まあ、途中で一瞬「それはムキミで宇宙空間に出しちゃダメ!」と突っ込みたくなる場面もあるけど、そういう些末な欠点が映画の完成度にほとんど影響しないのが凄い。当然のことながら泣いた(前半のサッチモでまず決壊、終盤ダダモレ)。

 映像全体の質感は、実写と見紛うような緻密さと、アニメらしい記号的なシンプリシティを行ったり来たりする印象で、なかなか新鮮。特にミニチュアワークのようにしか見えない都市の廃墟や、ガレージの小物類のチェコアニメみたいな質感には驚いた。こういう新しいビジュアルを毎回見せてくれるのが、ピクサーのエラいところだ。

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 驚いたのは、かなり直球のラブストーリーだったこと。そして相変わらずヒロインの描き方がうまい。『カーズ』(2006)では推定30代の自立したキャリアウーマン、前作『レミーのおいしいレストラン』(2007)では勝気なツンデレ娘、そして今回に至っては……なんでこう毎回オタクのツボをうまいことグイグイ押してくるのか。恥も外聞もなく言わせてもらうと、もうホントやんなっちゃうぐらい可愛い。劇場で身悶えする一部観客層の姿が目に浮かぶようである。

 ウォーリーとイヴとの間に情熱的な恋が盛り上がっていくプロセスの描写は、心憎いまでにうまい。だが、それと平行して、彼らの影響で始まったもうひとつの恋を映し、数百年を経て再び人間が人間らしさを取り戻していく過程を同時に描くというシナリオの構造は、もっとうまい。しかも、それを本当にさりげなく、最低限の描写でやるのだ。心の底から「うめえなー」と感嘆し、打ちのめされた。

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 未来SFの基本的使命のひとつである「現代社会への警鐘」を、監督のアンドリュー・スタントンは声高に叫ぶでもなく、グロテスクなビジュアルで提示するでもなく、ユーモラスな風刺画としてさらりと見せる。そこが素晴らしい。ゴミの山と化した29世紀の地球を映し出す前半も、最新鋭の宇宙船で暮らし続けてすっかり退化した人類が登場する後半も、問題意識や危機感をことさら押し付けたりせず、実に軽妙なタッチで「なんとかしないとこうなっちゃうぜ」と教えてくれる。明るく朗らかな皮肉と諦観に満ちたデストピア造形というのは、描写的にもセンス的にも、マイク・ジャッジ監督の秀作『26世紀青年』(2006)と共通するものを感じた。

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 この映画には台詞がほとんどない。金属製のロボットたちが見せる動作やまなざし、そして二言三言のごく限られた台詞のニュアンスで全てを伝える。こういう映画を観ることは、観客にとってもすごく健全なことだと思うのだ。頭の体操ではないけれど、シンプリシティとは「簡単」と同義語ではない。観客のイマジネーションを刺激し、伸ばす役割もある。この映画の美徳は「分かりやすさ」ではなく、その簡潔な表現にこめられた多くの意味を、観客が自然と考えることができるからこそ優れているのだ。作品の内容自体、人間の感性の退化に警鐘を鳴らすものでもある。そういうところも、いちいちよく出来ているなあ、と思った。

 アニメーションとしての出来栄えは言うまでもなく素晴らしい。無機物の表現に長けたCG技術を存分に活かして作り出された、主人公ウォーリーの豊かな“表情”は言わずもがな。切なくキュートな眼差しには、思わず『ザ・フライ』(1986)に出てくるブランドル・フライを重ね合わせてしまう(もちろん最大限にいい意味で)。むしろ、その“表情”が失われる瞬間の描写の巧さに息をのんだ。ベン・バートによる音響デザインも、魅力的なキャラクター作りに大いに貢献している。対するイヴもまた、クリオネを思わせるシンプルなデザインのボディ(Mac風)で縦横無尽に飛び回る姿が美しく、後半のアクションをほとんど担う予想外の活躍ぶりが楽しい。そこに「目」というマンガ的な感情表現を与え、むしろウォーリーよりも喜怒哀楽がダイレクトに伝わるキャラクターにしたバランスにも感心させられた。声もシンセサイザーで加工された音なのだけど、ムチャクチャ人間的で愛らしい。さすがベン・バート。他のキャラクターたちもいちいち魅力的で、個人的にはパンチドランク・ロボ(?)が好きだった。

 声優はあまり登場しないが、印象が薄いわけではない。人間側代表といえる艦長役ジェフ・ガーリンの熱演は後半のキモだし、ピクサー作品の常連声優ジョン・ラッツェンバーガー、そしてマイク・ジャッジの代表作『キング・オブ・ザ・ヒル』でおなじみのキャシー・ナジミーも、抑えた演技がとても効果的だ。『Futurama』第4シリーズに特別出演したシガーニー・ウィーヴァーを、ほとんど似たような役で起用するあたりも洒落が利いている。

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 もうひとつ特筆すべきは、トーマス・ニューマンの音楽。キャラクターの感情・心情の大部分を台詞以外の要素で表現しなければならない本作において、エモーショナルかつ柔軟な広がりを持つオーケストラ・スコアで見事にドラマを補完しきったニューマンの仕事は、ジマー&ニュートン=ハワードの『ダークナイト』(2008)と並んで今年最高レベルだと思う。いつもはテーマ曲のアレンジを反復して印象を作っていくミニマリストというイメージがあり、正直、観る前は不安要素のひとつだったくらい。もちろん、その持ち味も随所に出ているけど、こんなにも音楽的な広がりを見せてくれるとは思わなかった。一瞬、ジョン・ウィリアムズかと思うような瞬間もあって、本当に嬉しい驚きだった。

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監督/アンドリュー・スタントン
原案/アンドリュー・スタントン、ピート・ドクター
脚本/アンドリュー・スタントン、ジム・リアドン
プロダクションデザイン/ラルフ・エグルストン
サウンドデザイン/ベン・バート
音楽/トーマス・ニューマン
声の出演/ベン・バート、エリサ・ナイト、ジェフ・ガーリン、ジョン・ラッツェンバーガー、キャシー・ナジミー、シガーニー・ウィーヴァー
実写パート出演/フレッド・ウィラード

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