Simply Dead

映画の感想文。

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『グーグーだって猫である』(2008)

『グーグーだって猫である』(2008)

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 原作ファンでこの映画を観て喜ぶ人は、あまりいないんじゃないだろうか。『デトロイト・メタル・シティ』(2008)のように原作を読んでいない観客にも広くアピールする作品を目指したようにも見えるが、監督・脚本を務めた犬童一心は、原作者の大島弓子への過剰な思い入れと自主映画まがいのファンシーな演出をフィルムにぶちまけ、シンプルな生活エッセイを余計なオリジナル脚色でゴテゴテと厚塗りし、散漫でこっぱずかしい人情喜劇にしてしまった。この映画を観て喜ぶ人がいるとすれば、誰よりもまず犬童監督自身で、次に監督のファン、小泉今日子ファンと、上野樹里ファンだけだろう。

 原作の『グーグーだって猫である』は、マンガ家・大島弓子と飼い猫たちの生活を綴るエッセイマンガだ。絵本のように簡潔なスタイルの絵によって、淡々とシンプルに、瓢々とユーモラスに、何もなさげでいろんなことが起きる小さなドラマが紡がれていく。いい意味でさばさばした語り口が小気味良く、飾らない率直さは「少女マンガの巨匠」らしからぬ親しみを感じさせてくれる。そして、なにげない日々の生活のヒトコマも、癌を患った作者の闘病記も、等しく冷静かつ穏やかな筆致で描かれる。全ては日常である、というように。

 時に読者の胸を深々とえぐり、痛ましい心の闇や残酷な真実に辿り着きながら、最後には一筋の光明が投げかけられる。当たり前の感情表現を突き抜けたエモーションへと読者を導く物語を、大島弓子はシンプルに、軽やかに、優しいユーモアをこめて描いてきた。それは感情のままに展開を走らせず、抑制を保ちながら巧みに感動へ導くということだ。そのスタンスは自身の生活記録マンガでも変わらない。僕は『毎日が夏休み』や『ダイエット』からのファンだけど、やっぱり最初に惹かれたのは、ストーリーの深さはもちろん、その絵柄と語り口のシンプリシティ、そして軽やかな抑制のセンスにあった気がする。それは少女マンガを見慣れない中学生男子にもスッと馴染んだ。

 恥ずかしさに身悶えしつつ映画版『グーグー』を観ながら、長年の大島弓子ファンとして知られている犬童監督と、自分の抱く大島さんへの思い入れに、ものすごい落差があることを改めて思い知った。80年代に入ってから大島作品の絵柄は劇的に変わり、ストーリーや感情表現とも併せて、よりシンプルでクールなかたちに削ぎ落とされていった。風通しのいい世界、とでもいうか。僕が主に好きになったのはそのあたりの作品群で、犬童監督はきっと『綿の国星』とか『四月怪談』とか、70年代の作品に影響を受けているのだろう(それらもまた名作であることに異存はない)。そして『グーグー』は、さらにまた新しい大島弓子の誕生とも言える、もっと肩の力を抜いて、より日常の地平に近付いた作品だった。しかし、犬童監督は今回の映画で、大島弓子への愛や憧れをぶつけるのに一所懸命になって、原作のよさを完全に見誤ってしまった感がある。

 小泉今日子が演じるマンガ家・小島麻子は、いつまでも美しく、シャイでナイーヴで浮世離れしていて、慈愛と優しさに溢れた癒し系の女性として描かれる。どうも、美化されすぎている気がしてならない。少なくとも僕の思う大島弓子像とは一致しない。ともあれ、シナリオの要求に応えるという意味では、小泉今日子も上野樹里も完璧である。森三中も悪くない。だが、時代錯誤な変わり者の青年に扮する加瀬亮のおかしな演技、『檸檬のころ』(2007)からひとつも進歩していない林直次郎の大根芝居はいただけない。

 演出家としては精神年齢までタイムスリップしてしまったらしく、80年代前半の学生映画のようなスラップスティック・ギャグを大っぴらに展開させてしまう。今時そんなことをやっていいのは大林宣彦だけだし、それを映画表現として成立させられる怪力の持ち主も大林宣彦だけだ。上野樹里が赤面必至の大演説を繰り広げるシーンは、いくら眠くても目が覚めるだろう。こんなの大島弓子作品じゃないやい、と言いたくなる。大島さんが前に飼っていた猫のサバも、マンガと同じく擬人化されて登場するのだが、なんでそれがミンストレルなのか?(常に顔が影で覆われているという設定なのだが、撮り方がうまくないのでアル・ジョルスンにしか見えない)。僕、サバの出てくる生活マンガ、大好きなのに……。

 そんな一方的なテンションとスクリューボール的演出で語られる大島弓子愛を、黙って見せられるこちらとしては、ただ所在なく、眉間にシワを寄せ続けるしかなかった。まあ、大島さんの名前を外して観れば、多彩なキャストの顔ぶれと吉祥寺の名所案内を眺めているだけで飽きない映画ではある。猫も可愛いし。

 だけど、これはリスペクトではない。原作を私物化したラブレターだ。正直「この監督、本当に大島弓子のファンなんだろうか?」と思わずにいられなかった。

・Amazon.co.jp
原作本『グーグーだって猫である』 by 大島弓子


監督・脚本/犬童一心
原作/大島弓子
撮影/蔦井孝洋
音楽/細野晴臣
出演/小泉今日子、上野樹里、加瀬亮、森三中(大島美幸、村上知子、黒沢かずこ)、林直次郎、伊阪達也、楳図かずお、マーティ・フリードマン、大後寿々花、小林亜星、松原智恵子

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