Simply Dead

映画の感想文。

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『フロンティア』(2007)

『フロンティア』
原題:Frontiere(s)(2007)

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 真っ赤。久々にとことんブルータルで、徹底的にしつこいスプラッター描写を観せてもらったなあ、という清々しい感動を覚えた。いかにもリュック・ベッソンのプロデュース作らしく、お話や設定に関しては「?」マークが脳裏に絶えず点滅してしまうような内容ではあるけど、それでも刺激に飢えたホラー映画ファンはまず必見の快作といっていい。どこがいいのかと訊かれたら「真っ赤なところ!」と元気に答えたくなってしまう映画だった。

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 何度も言うがストーリー面で期待してはいけない。面倒事を起こして都会から脱出し、国外逃亡を図る移民系の若者グループが、立ち寄ったド田舎の宿屋でキチガイ食人一家に襲われるという、ただそれだけの物語だ。導入部は『憎しみ』(1995)を思わせる暴動シーンから始まり、右傾化していくフランス社会の終末的ビジョンが厭世感たっぷりに描かれるので、「おお、スプラッターホラーに社会派テーマを盛り込むなんて、なかなか意欲的じゃないすか」と思って期待すると、後半しれっとスルーされる。その後にも面白そうな趣向や設定は次々と出てくるのだが、どれも出オチみたいなもので、それらが巧みに結び付いて鮮烈なテーマを浮かび上がらせたりはしない。ただ「これとこれを組み合わせたら、なんとなく意味ありげで面白そうだから」という気分だけ。もっと言うと「敵が元ナチスで人食いだったら最強じゃね?」ぐらいの浅はかさで、思いつきっぱなしのまま突っ走るシナリオなのだ。

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 監督・脚本を手がけたのは新鋭ザヴィエ・ジャン。とりあえず論理的にホンを組み立てる能力に乏しいことは分かった。しかし、演出面ではそんなチョンボを補って余りある力量を発揮している。主人公たちが極限状況に追い込まれていく緊迫感の凄まじさ、仮借なきバイオレンス描写のつるべ打ちには、観客をねじふせてしまうだけの馬鹿力がある。人食い一家に捕まったヒロインが、豚小屋の泥と糞にまみれながら脱出を図るシーンを筆頭に、徹底的に女優をいたぶることでただならぬ切迫感を生んでいる。ダリオ・アルジェント伝来の「美女いじめ」の伝統を本作では今時珍しいほど実直に、エクストリームに踏襲しているのだ。加虐描写もいちいち痛く、なおかつバラエティに富んでいる。それだけにヒロインが凄絶な反撃を開始する終盤のカタルシスは素晴らしい。盛大な血飛沫・銃弾・爆炎の祭典と化すクライマックスに至ると、もはや話がアレなことなんてすっかり忘れて画面に没頭してしまう。『MINDGAME』ではないが、頭の中に浮かぶのは「楽しい!」の一言。ハードコアなスプラッターホラーを観に来て、まさかアンディ・シダリス映画のような展開に出会えるとは! という驚きも手伝って、なんとも愉快な気持ちにさせてくれる。

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 とにかく全編ヒドイ目にしか遭わないヒロインを熱演するのは、カリーナ・テスタ。過酷で悲惨な状況に追い込まれるほどに、映画前半の地味な印象からは打って変わって、メキメキと美しく魅力的に変化していくのが面白い。終盤でついにキチガイ一家を向こうに回し、全身に真っ赤な血を浴びて奮戦する彼女の姿には、不思議な神々しさまで宿る。『悪魔のいけにえ』(1974)のマリリン・バーンズにも匹敵する迫真の演技と言ったら大袈裟だろうか。対するフロンティアーズ御一同の面構えもいちいち素晴らしく、特に親父役のジャン=ピエール・ジョリスは、登場した瞬間から強烈な悪の存在感を漲らせていて圧巻。スキンヘッドの筋肉バカ息子に扮するのが、『ジェヴォーダンの獣』(2001)でイケメン主人公を演じていたサミュエル・ル・ビアンであるというのにも驚く。もう後戻り不能かと思うくらいの変貌ぶりだが、新作『パブリック・エナミー・ナンバー1』(2008)では元の優男に戻っていた。タイプの違う3姉妹を演じる女優たちも、それぞれ魅力的に病んでいる。

 個人的には、同じく田舎を舞台にしたスラッシャーであり、フランスでのホラー映画ブームの火付け役になった『ハイテンション』(2003)なんかよりずっと好印象だった。両作ともヨーロッパコープ製作で、話が破綻しているという点でも共通しているが、「ホンには穴を作っとけ!」みたいな社訓でもあるんだろうか? ともあれ、最後にいらんツイストでガッカリさせる『ハイテンション』より、ダメな部分は多いものの、中盤以降の真っ向スプラッター勝負でガンガン失点を取り返してくる『フロンティア』の方が、観終わった後の充足度は高かった。都内の劇場公開は終わってしまったが、なるべくなら映画館で、シネマスコープの大画面と5.1chサラウンドの大音響で楽しんでほしい作品だ。

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 フランスの田舎は怖い。本作を観ながら思い出したのは、ジャン・ヴォートランの小説を映画化した『狼獣たちの熱い日』(1983)。そこでも、片田舎に暮らす変態一家の狂った人間模様が、彼らに捕われた異分子=リー・マーヴィン扮する老ギャングの目を通して、この世の地獄のごとく描かれていた。A・D・Gの『病める巨犬たちの夜』など、ノワール小説でもしばしば扱われてきた未開の領域を、ザヴィエ・ジャン監督はついに完全なるバイオレンス・ホラーの舞台にしてしまった。「フランスにもテキサスと同じ悪夢がある」と。

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DVD『フロンティア』スペシャル・エディション


監督・脚本/ザヴィエ・ジャン
撮影/ローラン・バレ
美術監督/オリヴィエ・アフォンソ
編集/カルロ・リッツォ
音楽/ジャン=ピエール・タイエブ
出演/カリーナ・テスタ、オレリアン・ウィイク、パトリック・リガルド、サミュエル・ル・ビアン、モード・フォルジェ、エステル・ルフェビュール、アメリ・ドール、ジャン=ピエール・ジョリス、シェムズ・ダマニ、ダヴィッド・サラチーノ

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