Simply Dead

映画の感想文。

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『ミラクル7号』(2008)

『ミラクル7号』
原題:長江七號(2008)

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 いい。すごくいい。昔懐かしい家族向け娯楽映画の復権を宣言するかのような、クラシックで端正なファンタジーコメディの良作であり、映画監督チャウ・シンチーの演出が隅々まで堪能できる作品だ。自身の出演シーンは最小限に抑えているので、「スター俳優チャウ・シンチー」のファンにとっては物足りない内容だろうが、裏方に徹した比重が増えたおかげで、これまでの単独監督作のなかでは最も無駄なく引き締まったフィルムに仕上がっている。

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 前2作ではドル箱コメディスターの義務として、自身の演技やギャグにも注力せざるを得なかったせいか、どこか故意にバランスを崩して逃げ道としている印象があった。今回は、そのストイシズムへの欲求を一気に開放させたかのように、より簡素でウェルメイドな娯楽映画作りを目指している。完成度としては『喜劇王』(1999)にも近い。チャウ・シンチーの演出家としての力量、映像・演技のコレオグラファーとしての才能は、本作でさらに研ぎ澄まされたと言えるだろう。マンガに多大な影響を受けたデフォルメ重視の演出はかつてない完成度を達成しており、カメラワークや芝居の段取りも透徹したシンプリシティと歯切れ良さを実現している。デジタル合成の自然さも過去最高レベルだ。

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 お話自体は、まさに王道かつシンプル。モロに藤子不二雄。今風のコミカルな要素も採り入れつつ、基本的なストーリー展開は非常にクラシカルで、余計な脱線は極力していない。ギャグについても、ウンコだのゴキブリだの、「女装した巨漢の男の子が可愛い女の子の声で喋ったら問答無用におかしい」だの、きわめてベーシックなところで押さえている。きっと終生こだわり続けるであろう“貧乏”というモチーフは今回も揺るぎないが、時代錯誤的に貧しい家庭を映すにしても、やはり淡々としている。シンチー演じる父親の登場シーンと絡めた、お弁当の中身の見せ方がさりげなくも実に上手い。

 映画パロディは『マトリックス』シリーズに『M:I?2』(2000)、そして『叫』(2006)と幅広いが、前作同様に自作を正面からネタにする思いきりはすごいと思った。まさか前作のクライマックスを完コピするとは! さらには『0061/北京より愛をこめて!?』(1994)を思わせる秘密道具まで登場したりして、ちょっと懐かしかった。

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 主人公の少年を演じるシュー・チャオ(実際は女の子)は、本当にバカで幸薄いハナタレ坊主にしか見えず、同級生を演じる子供たちもみな素晴らしい。さすが新人発掘にかけては目利きのチャウ・シンチーだけあり、彼らの生き生きとした演技が本作最大の見どころとなっている。それを楽しむためにも、この映画は絶対、一度はオリジナルの北京語音声で観なければならない(DVDはそのまま再生すると広東語の吹替版になってしまうので要注意)。そうするとチャウ・シンチーやラム・ジーチョンの声は本人ではない吹き替えになってしまうので、ファンには嬉しくないかもしれないが、あくまで子供たちの映画であるからして、彼らの肉声で台詞を聞いた方がいいに決まっている。

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 老若男女が楽しめるシンプルなストーリー、笑って泣ける子供映画というグローバルに通用するジャンルへの進出に、チャウ・シンチーが本気で勝負をかけてきたことが窺える。本作が北京語を主言語として製作されているのも、それを如実に示していよう。大陸でヒットさせることが大作映画の重要条件である今、広東語を第一言語とするのは時流に逆行するのだ。『レッドクリフ』(2008)を例に出すまでもない。

 そういった広い市場への意識と共に、やはりこの作品はチャウ・シンチーのなかでは今どうしても撮らなければいけない映画だったのではないか、という気がする。余分な要素を削ぎ落としたシンプルな題材で、映画監督としての己の技量を試し、本当にやりたいことを根源的に見つめ、自身のエッセンスそのものをフィルムに定着させることが、世界に打って出る際の“証明”として必要だったのではないか。そこまで大げさではないにしろ、原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』(2007)と同じように、チャウ・シンチー監督の『ミラクル7号』は決して息抜き的作品ではなく、むしろ真っ向から自分自身と向き合った渾身の勝負作とみるべきだと思った。

 傑作とか野心作ではないが、パーソナルな意欲作であり、胸にしみる良作だと思う。エピローグでは相米慎二監督の『お引越し』(1993)のラストを思い出して、泣いた。

▼来日時のシュー・チャオ(可愛い!)とチャウ・シンチー
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DVD『ミラクル7号』コレクターズ・エディション


監督/チャウ・シンチー
脚本/チャウ・シンチー、ヴィンセント・コク、ツァン・カンチョン、サンディ・ショウ、フォン・チーチャン
撮影/プーン・ハンサン
音楽/レイモンド・ウォン
出演/シュー・チャオ、チャウ・シンチー、キティ・チャン、リー・ションチン、ホアン・レイ、ヤオ・ウェンシュエ、ハン・ヨンホア、ラム・ジーチョン

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