Simply Dead

映画の感想文。

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『L.A. Confidential(Pilot)』(2000)

『L.A. Confidential(Pilot)』(2000)

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▲From "Mulholland Drive", Mellissa George

 デイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(2001)で、リンダ・スコットの「I've Told Every Little Star」に合わせて口パクで歌うブロンド美女を覚えているだろうか。アンジェロ・バダラメンティ扮するギャングの「This is the girl.」のひと声で、監督の意向をさしおいて主演女優に抜擢される“ラッキーガール”、カミーラ・ローズを。全ての女優志望者の憧れであり敵である存在を、現実離れした美貌で演じた彼女の名は、メリッサ・ジョージ。アレックス・プロヤス監督の『ダークシティ』(1998)では娼婦役で美しいヌードも披露した、オーストラリア出身のモデル兼女優である。

 言うまでもなく、『マルホランド・ドライブ』は元々1999年にTVシリーズとして製作されていたが、パイロット版が完成した時点で放映局ABCネットワークの首脳陣がその出来に難色を示し、オクラ入りとなってしまう。初めてビッグタイトルの主役に抜擢されたナオミ・ワッツの一世一代の力演は、闇に葬られることになった。そんなハリウッドの不条理な悲劇を、彼女と同郷のメリッサ・ジョージは立て続けに経験することになる。

 ジェームズ・エルロイによるノワール・エピックを映画化した『L.A. コンフィデンシャル』(1997)は、「無名のオーストラリア人俳優が主演のフィルムノワール大作なんて金を注ぎ込むだけ無駄」という大方の予想に反し、興行的にも批評的にも大成功を収め、アカデミー脚色賞/助演女優賞も獲得した。制作会社のリージェンシーとワーナーブラザーズは、続けてこの作品のTVシリーズ化を企画。2000年にパイロット版が製作された。

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 脚本は『ワイルド・バンチ』(1969)のウォロン・グリーン。暗黒のL.A.史とともに謎に満ちた物語が進行する原作小説のスケール感を、今回はたっぷりした尺で表現できるはずだった。映画版よりもいくらか遡った時点からストーリーを始め、登場人物たちの辿る変化をじっくり見せていこうとした意図も窺える。

 映画同様、主役格のバド・ホワイトとエド・エクスリー役には比較的無名の若手俳優を起用し、3番目のキーパーソンであるジャック・ヴィンセンズ役には、ほんの少し有名な俳優……キーファー・サザーランドを据えた。映画ではキム・ベイシンガーが演じた“ファム・ファタル”リー・ブラッケン役には、見事なブロンドの髪と、少女のような可愛らしい顔立ちと、美しい肢体をもつ若手女優、メリッサ・ジョージを抜擢。原作や映画と違い、TV版のリンはアリゾナ州の田舎からハリウッドに出てきたばかりの女優志望の女の子として登場する(さすがにヒロインがいきなり娼婦というのはTV的にマズかったのか、順を追って彼女の転落を描こうとしたようだ)。それは、奇しくも前年に彼女が出演した『マルホランド・ドライブ』で、ナオミ・ワッツが演じた主人公と同じ設定だった。そして舞台も同じL.A.であり、時代は同作で重要なモチーフとなっていた1950年代(フィフティーズ)。両者が脳裏で結びつかない方が難しい。

 しかし、完成したパイロット版は制作会社の判断で放映されないままに終わり、当然シリーズ化の話も立ち消え。撮るだけは撮ったパイロット版も、『シエラデコブレの幽霊』(1965)のように海外でだけオンエアされることもなく、『ツイン・ピークス』インターナショナル版(1989)のように無理やり単発作品にお色直しされることもなく、ただ倉庫の奥深くにしまい込まれた。

 パイロット版『L.A. Confidential』は、そんなに酷い出来だったのだろうか? 実際に観てみると、確かに映画版に比べて冴えない仕上がりではある。圧倒的にパンチが足りない。特に手痛いのは、キーファー・サザーランド演じるジャック・ヴィンセンズのキャラクターが、なんともヤワでありきたりな“悩める刑事”に書き換えられ、その魅力を失ってしまっている点だ。視聴者の共感を得るためか、その内面にある弱さやモラリスティックな面が強調されており、映画版のジャック=ケヴィン・スペイシーが醸し出していたヒップな不良性は完全に排除されている。そんな毒抜きされたキャラクターのジャックが、このTV版では、バドやエドをさしおいて主人公扱いなのだ(少なくともパイロット版を観る限りでは)。

 バド役のジョシュ・ホプキンズはタフなイメージはあっても色気に欠け、逆にエド役のデイヴィッド・コンラッドはあまりにハンサムで身綺麗すぎた(映画版のラッセル・クロウ、ガイ・ピアースと比較するのも気の毒だと思うが)。メリッサ・ジョージも、そのイノセントな美しさを振りまくだけで、演技力が発揮されるのは次回以降という感じ。ただ、後半のパーティーの場面で、初めてバドと言葉を交わすくだりはやはり魅力的だ。映画版に拮抗しうる素晴らしい演技を見せているのは、タブロイド雑誌の編集長シド・ハジェンス役のプルート・テイラー・ヴィンスと、大物実業家ピアース・パチェット役のエリック・ロバーツのみ(映画版ではそれぞれダニー・デヴィートとデイヴィッド・ストラザーンが演じていた)。劇中に登場するマリリン・モンロー役の女優が、ベタすぎる物真似も含めて色っぽくていいのだが、クレジットがないので名前が分からない。

 エリック・ラニューヴィル監督の演出はいかにもTVムービー的で、そつなく手堅いが悪い意味で古くさいところもあり、率直に言って凡庸だ。ノワール味もゼロ(映画版のカーティス・ハンソンの演出もその点に関しては興味が希薄だったが)。虚栄と犯罪の町ロサンジェルスの危険な魅力、そしてLAPDのタフでピカレスクな男たちの世界を、原作のように生々しく表現するまでには至っていない。というか、エルロイ本人や原作ファンが最も避けたかった「ヤワな映像化」というものを、文字どおり実現させてしまっている。

 しかし、この程度のクオリティのTVムービーなんて山程ある。まあ初回はこんなもんだろうとか、普通に退屈せず観られるかなとか思えるレベルには達しており、決して「お粗末」と呼ぶほどのものではない。問題はそれが『L.A. コンフィデンシャル』という傑出した「映画」と比較されてしまったことだ。迫力不足、予算不足、ディテール不足、カリスマ不足などと文句を言われても致し方ない。おそらくは、このままシリーズ化してもいい結果には結びつかないという判断で、もうひとつの『L.A. Confidential』は水子のごとく葬られた。ハリウッドではよくある不幸だ。

 一度ならず二度までも出演作がオクラ入りとなり、ブレイクの機会を逸したメリッサ・ジョージの落胆はいかばかりだったか。もし『L.A. Confidential』がシリーズ化され、彼女がヴェロニカ・レイク似の娼婦として変身していく過程が描かれていたら、どんなに凡庸な演出でもスリリングなものになったのではないかと夢想してしまう。そして、キャリア的にしばらく決定打を欠いていたキーファー・サザーランドにとっても、口惜しい結果だったに違いない(翌年にスタートした『24 -twenty four-』でのブレイクは、まさに悲願が報われた思いだったろう)。

 一方、同様の悲運に遭った『マルホランド・ドライブ』パイロット版は、のちにフランスのスタジオ・カナルからの援助で、追加撮影と再編集を施した劇場長編として劇的な復活を遂げる。いちどは葬られかけたナオミ・ワッツの名演も、メタフィクショナルな要素をもった追加部分でさらに増強され、作品は新たな深みをもって見事に蘇ったのである。スタジオの気まぐれと不条理に翻弄され、ハリウッドの露と消えていく女優の卵たちへの鎮魂歌として。だが、メリッサ・ジョージにスポットが当たることはなかった。

 『ダークシティ』『マルホランド・ドライブ』そして幻のTV版『L.A. Confidential』といった錚々たるタイトルの中で、絵に描いたような金髪のオール・アメリカン・ガールを演じながら、儚い印象だけを残してセルロイドの波間をたゆたうメリッサ・ジョージは、まるでハリウッドランドをさまよう亡霊のごとく神秘的で、美しく、愛おしかった。そんな彼女も、近年ようやく実体として認識できるほど(←失礼)活躍が目立ってきている。人気TVシリーズ『フレンズ』『エイリアス』への出演を経て、リメイク版『悪魔の棲む家』(2005)の妻役、ジョシュ・ハートネット主演のホラーアクション『30 Days of Night』(2007)のヒロイン役と、ジャンル映画ファンにも馴染み深い顔になりつつある。その未来に幸多からんことを、と願わずにはいられない。

 2003年、アメリカのケーブルTV局「Trio」でオクラ入りTVドラマの特集番組が放映され、そこで初めてパイロット版『L.A. Confidential』は一般視聴者の目に触れた。そして、今年9月に発売された米国盤『L.A. コンフィデンシャル』DVDには、映像特典としてパイロット版が収録され、待望の初ソフト化も果たした。日本でも、来年1月リリースの『L.A. コンフィデンシャル』ブルーレイ・エディションの特典として、初お目見えする予定だ。

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Blu-ray『L.A. コンフィデンシャル』ブルーレイ・エディション
DVD『マルホランド・ドライブ』


原作/ジェームズ・エルロイ
製作総指揮・脚本/ウォロン・グリーン
演出/エリック・ラニューヴィル
出演/キーファー・サザーランド、プルート・テイラー・ヴィンス、ジョシュ・ホプキンズ、デイヴィッド・コンラッド、メリッサ・ジョージ、エリック・ロバーツ

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