Simply Dead

映画の感想文。

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『The Lost』(2005)

『The Lost』(2005)

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 傑作。素晴らしい。『オフシーズン』『隣の家の少女』などの作品で知られるアメリカのホラー小説家、ジャック・ケッチャムの長編『黒い夏』を映画化したバイオレンス・スリラー。かつて殺人を犯しながら法の手を逃れた不良青年が、その狂気をエスカレートさせ血まみれの惨劇へと突き進むまでの物語を、スモールタウンの群像劇として丹念かつパワフルに描いた力作である。製作を『MAY/メイ』(2002)のラッキー・マッキーが手がけ、彼の大学時代のルームメイトで自主映画仲間のクリス・シヴァートソンが監督・脚本を務めた。2005年にはすでに完成していたが、映画祭などでの限定上映を経て、3年後の2008年にようやく一般公開。ケッチャム映画化ブームが本格化した今年になって、ついに陽の目を見た。その間に、監督のシヴァートソンはリンジー・ローハン主演の猟奇スリラー『I Know Who Killed Me』(2007)でメジャーデビューを果たしたものの、こちらは批評・興行ともに惨敗。その年のサイテー映画賞“ゴールデンラズベリー賞”を総なめにしてしまった。

 ラジー賞監督のお蔵入り映画かよー、と思って甘く見る人もいるだろう。構わない。油断するがいい。まず間違いなくファーストカットで「これは只事ではない」と気がつき、クライマックスまでに心拍数は倍に跳ね上がり、エンドロールではただ打ちのめされ呆然と画面を見つめているはずだ。

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 “考えうる限り最悪の結末”へ向かって紡がれる、内なる闇を抱えた者たちによるアンサンブルドラマ『黒い夏』は、ケッチャムの力量が存分に発揮された集大成的作品だ。その巧みな筆致の文体にみなぎるどす黒い邪悪な感情を、シヴァートソンは忠実な脚色と骨太な演出によって、ほぼそのままフィルムへ置換することに成功している。『The Lost』は、現時点で完成しているケッチャム文学の映画化作品の中で、最も達成度の高い傑作である。

 オーディションで選ばれた若手俳優たちの瑞々しい演技と存在感、挑戦的な映像技巧をたっぷり盛り込んだシネマスコープのビジュアル、人間の暗部をしかと見据えたブラックユーモア、そして卓抜した選曲・編集センス。様々な登場人物が交錯するドラマを手際よくさばきながら、ハリウッドメジャーでは映像化しえないエクストリームな描写の数々も真摯な姿勢で映像化し、阿鼻叫喚のクライマックスも容赦なく描き切った。低予算のインディペンデント作品であるため、撮影や録音などの技術的な粗さもそこかしこに見受けられるが、それでも上映時間119分を全く飽きさせない堂々たる問題作に仕上げたシヴァートソンの手腕は、称賛に値する。かのトビー・フーパー御大も「Must See(必見)」と太鼓判を押したほどだ。

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 驚くべきはキャスティングの見事さ。なんと言っても主人公レイ・パイ役に抜擢されたマーク・センターの素晴らしさに尽きる。タチの悪いカリスマ性と爆発寸前の狂気をたぎらせた悪の申し子を、ひたすらエネルギッシュに下品に凶悪に演じきっていて痛快。満を持して凶行に走るクライマックスでの爆発的なテンションの高騰ぶりも圧巻だ。成功するも失敗するもレイ・パイのキャスティング如何によって決まる企画だっただけに、原作ファンとしては満足のいく結果になって凄く嬉しい。

 レイの狂気に巻き込まれる悲劇の三人娘を演じる女優陣も、それぞれ魅力的。中でも、都会からやって来たセクシーで気丈な美少女キャサリン役のロビン・シドニーの存在感が群を抜いている。語彙が足りなくて申し訳ないが、ムチャクチャいい女なんでビックラこいた。レイの殺人を目撃しながら恋人として付き合い続けるジェニファー役のシェイ・アスターも、ヤンキー上がり風の安っぽさと幸の薄さを漂わせて熱演。レイを即座に嘘つきのスケコマシと見破る聡明なヒロイン、サリーに扮したミーガン・ヘニングのキュートな魅力も光っている。三者三様のキャラクター分けが、キャスティングの時点でちゃんとできているのが素晴らしい。DVDの音声解説によると、メインキャラそれぞれにキーカラーを設定してあるという(例えばレイ・パイは黒、キャサリンは赤、ジェニファーは青といった具合)。

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 主要キャストのほぼ全員が無名ながら、演技力のレベルは非常に高い。レイの腰巾着ティム役は、『エレファント』(2003)で銃撃犯の一人を演じたアレックス・フロスト。おどおどした冴えない少年を、ちょっと抑えた芝居で演じているのがいい。レイの逮捕に執念を燃やし、結果的に彼を凶行に追い込んでいく刑事シリングを演じるマイケル・ボウエンの憎々しさも秀逸だ。その他、映画ファンにも知られている有名キャストといえば、冒頭で虐殺されてしまう少女の一人を演じるマイナーアイドル女優のミスティー・マンデー(本作ではエリン・ブラウン名義)、死んだ少女の母親役のディー・ウォーレス・ストーン、そして元警官でサリーの年上の恋人であるエドを演じるエド・ローター(!)くらいか。ちなみに原作者のジャック・ケッチャムも、映画前半に登場するバーテン役でカメオ出演している。

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 原作の時代設定は1969年だが、映画では予算の都合からか、より現代に近い時代に変更されている(90年代前半くらいか?)。原作では、ヒッピー・ムーブメントの真っ只中でエルヴィスに心酔する時代遅れ気味の不良青年レイ・パイが、ラジオでマンソン・ファミリーによるシャロン・テイト惨殺事件のニュースを聞き、天啓を得るという皮肉に満ちたシーンが重要なターニングポイントとなっている。が、映画版からは当然そのシーンは削除され、その点は個人的にいちばん残念なところではあった。しかし、物語終盤でレイがシャロン・テイト事件について言及し、“再現”を試みるシーンは映画にもしっかり残されているので、原作ファンは安心されたし(できねえか)。

 とにかくもう、ものすごく感動してしまった。同じケッチャムの『老人と犬』を原作にした秀作『Red』(2008)の方を先に観ていたので、こっちはあまり期待していなかった分、ぶっとばされた。ぜひ日本でもノーカット版で公開してほしい。

・DVD Fantasium
DVD『The Lost』(米国盤・リージョン1)

・Amazon.co.jp
原作本『黒い夏』 by ジャック・ケッチャム(扶桑社ミステリー)


製作/ラッキー・マッキー、マイク・マッキー
監督・脚本/クリス・シヴァートソン
原作/ジャック・ケッチャム
撮影/ゾーラン・ポポヴィク
プロダクションデザイン/クリス・デイヴィス
衣装/リサ・ノルシア
音楽/ティム・ルティリ
出演/マーク・センター、シェイ・アスター、ロビン・シドニー、ミーガン・ヘニング、アレックス・フロスト、マイケル・ボウエン、エリン・ブラウン(ミスティー・マンデー)、ルビー・ラロッカ、ケイティ・キャシディ、エド・ローター、リチャード・リエール、ディー・ウォーレス・ストーン、ジャック・ケッチャム

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