Simply Dead

映画の感想文。

『ロード オブ ライブ』(2008)

『ロード オブ ライブ』(2008)

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 7年ぶりの新作オリジナルアルバム「すべて時代のせいにして」を完成させた泉谷しげるが、各地でライブを敢行する姿を記録した音楽ドキュメンタリー。ただし、演奏する場所はライブハウスやステージでなく、路上だったり線路際だったり、川岸だったり川の中だったり、映画館だったり教会だったりする。時には単身ギター1本で、また時にはバンドメンバーを率いて、その場に居合わせた通行人や観衆をパワフルな狂騒へと巻き込んでいく。まさしく路上の歌い人と化した泉谷しげると仲間たちが繰り広げる、自由で型破りな道行きを綴るロードムービーだ。これは楽しい。

 監督は泉谷しげる本人が務め、プロデューサーも兼任。TBSで放映された音楽番組「R?ゼロ」用に撮影された映像と、自身のスタッフによる追加撮影部分によって構成されている。10月初めのオールナイトイベント「60×60」でDVDが先行発売され、劇中にも登場する黄金町シネマ・ジャックで初めて劇場公開された。多分、これからもツアー先などで上映イベントやDVD販売があるのではないだろうか(今のところ一般発売はされてない模様)。

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 “ロード オブ ライブ”とは、還暦を迎えた泉谷しげるが掲げる新たなライフワーク。簡単に言うと「町おこしツアー」だ。様々な表情を持つ町々の個性に注目し、その町の歴史や特色を知り、綿密なロケハンと現地の自治体とのコミュニケーションを経てライブを行い、地域の活性化に繋げようという試みなんだとか。同時に、自分の歌がその町や人々の季節となり得るかをテーマに、音楽を町へ放し、空に返す行為でもあるという。しかし、映画ではそういった説明はほとんど語られず、モノローグも最低限に抑えられ、ただその一見破天荒でゲリラ的なライブ活動の数々がテンポよく綴られていく。多くの言葉を弄するより、全てがアクションで示されるのが清々しい。市井の情景を演奏の場として、パフォーマーと聴衆の間にある隔たりがとっぱらわれていくさまは、映像だけで十二分に伝わる。

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 圧巻はやはり、4年に一度開かれる三社祭に沸く『青べか物語』の町・浦安に乗り込み、川べりでライブを敢行した際の映像。川の両岸と橋の欄干に張りついた祭りの大観衆と共に、「舞いだ!」コールを連呼するダイナミックな盛り上がりが圧倒的だ。そして、盛大に桜散る目黒川の底に下り、バンドメンバーと共に「春夏秋冬」を演奏するシーンも美しい。個人的にもよく通る場所で、桜の季節になると「これ川底から見たら綺麗なんだろうなあ」と思っていた景観でもあるので、なんだか嬉しかった。

 同時に新作アルバムのレコーディング風景も映し出される。とにかく妥協を許さず、それでいてスタジオ録音が嫌いで、3日間で収録を済ませたというのが凄い。ミュージシャンの演奏に満足いかなければ容赦なく怒号を上げ、出前ピザを注文すれば頼んだはずのイモが来てない! と言ってキレるなど、いまだ衰えぬ凶犬ぶり(?)もしっかり見せてくれる。最近はTVドラマでの俳優業などのおかげで、優しいおじいちゃん的なイメージが強くなってしまったが、なんのなんの、相変わらずリアルに面倒なオッサンであったという事実が分かって嬉しい。

 イモ事件はともかく、基本的にその怒りは「いいものを作る」「いい音を出す」というアーティスティックなこだわりから発生しているものだ。イメージと現実の齟齬からくる苛立ちが常にあり、そこで手前勝手なことをする奴、人の言ったことを聞けない奴、妥協と怠慢で音楽を台無しにする奴は許せない。映画の前半には、7年前に行われたライブ公演後に「ちゃんと演奏しろ!」とベーシストの横っ面をひっぱたく映像も挿入される。最も荒れていた時期の自分を振り返るように。

 そして、今また“ロード オブ ライブ”というかたちで演奏を続ける泉谷しげるの姿は、どこか心穏やかで、リラックスして音楽を楽しんでいるように見える。悪い意味で「丸くなった」というのではなく、自分の思う音楽ができているという手応えがあるからではないだろうか。屋外で演奏すればもちろん音質の限界やハプニングといった不自由さは免れないが、それを超えた開放感と高揚感がきっとあり、その清々しさが映像にも表れているように思える。だから、『ロード オブ ライブ』は音楽映画として、観ていてとても気持ちがいい。

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 池尻の専門学校で個展とミニライブを行ったり、黄金町で謎の金魚おじさんに出会ったり、ゲリラ豪雨に襲われたりしながら、最後に辿りつく場所は横浜の教会。そこで泉谷しげるはアルバムにも収録されていない新曲「頭上の脅威」を、荘厳なパイプオルガンの音色をバックに歌いあげる。今の世界と人への思いを切々と吐露するような、祈りのようなその歌をもって、映像の中での旅はひとまず締めくくられる。しかし現実の“ロード オブ ライブ”ツアーはいまだ継続中だ。次は一体どの町へ現れるのだろうか。

 黄金町シネマ・ジャックでの上映前にはミニライブが行われ、劇中でも流れる「業火」「すべて時代のせいにして」「春夏秋冬」「頭上の脅威」「時よ止まれ、君は美しい」の5曲が演奏された。アコースティック・ライブなのかと思っていたら、ちゃんとPAもドラムセットも入っていて、5人編成バンドで爆音演奏してくれたので凄く楽しかった。正直、『戦後最大の誘拐 ─吉展ちゃん事件─』(1979)を観るのが目当てで来ていたので、思いっきりハネるには心の準備が足らなかったけど……。それはともかく、さっきまで盛り上がっていた曲が映画の中でまたすぐに聴けるのは、なんだか嬉しかった。

 でも、やっぱりライブの方が断然いい。誰か知り合い誘って行きゃよかった。

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CD「すべて時代のせいにして」(通常版)
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製作・監督・音楽/泉谷しげる
映像監督/清水怜
編集/泉谷しげる、清水怜
出演/泉谷しげる、藤沼伸一、人時、大島治彦、中西康陽、後藤香織
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