Simply Dead

映画の感想文。

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『What Is It?』(2005)

『What Is It?』(2005)

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 カナザワ映画祭2008「フィルマゲドン」上映作品。個性派俳優クリスピン・グローヴァーの初監督長編であり、彼自身によるライブパフォーマンスとセットになった巡業興行「ビッグ・スライドショウ」でしか観ることのできない貴重な映画である。ある種の人々にとっては“Disturbing”(不安にさせる、心をかき乱す)としか形容しようのない強烈なフィルムであり、クリスピン・グローヴァーの体内に脈々と流れる「アングラの血」の濃さをまざまざと感じさせるデビュー作だ。一応、内容をかいつまんで説明すると、以下のような話になる。と思う。

 昼間の墓場で不毛な闘争を繰り広げるダウン症の人々。一方、愛するカタツムリを衝動的に殺してしまった青年は、その死を嘆く仲間のカタツムリの号泣に耐えかね、家から飛び出してしまう。行き場を失くした彼は近所をさまよい、女たちの蔑んだ視線を浴び、カタツムリに無情な塩の雨を降らせ続けるのだった。その頃、闇に覆われた異界からこの世を統べる神(=作者)は、美しい女たちや美青年をはべらせて地上の愛憎劇を操っていた。シャーリー・テンプルとナチスの魅力的な合体が王国のシンボルだ。そして巨大な真珠貝から脳性麻痺を患った全裸の男がビーナスのごとく現れる。動物の面を被った裸女たちは神々に奉仕するべく、彼のペニスを丁重にしごく。そんな中、ミンストレル(黒人の扮装をしたヴォードヴィリアン)の男はマイケル・ジャクソンに憧れ、毎日カタツムリのエキスを注射すれば、いつかカタツムリになれると信じていた。やがて、王座をめぐる物語に驚愕の結末が訪れる!

 こちらの表現力が拙くて申し訳ないが、別に支離滅裂な妄想を書いているわけではなく、実際ちゃんとストーリーはあるのだ。ただ、あまりに発想が奇抜だったり、神経を逆撫でするような強烈なイメージが連続したり、素人俳優たちのスリリングな演技に圧倒されたり、意図的に無秩序な繋がりの編集になっていたりするので、観ているうちに頭がワヤクチャになってしまうのである。最後に残るのは、奇怪でアンモラルな悪夢を観てしまったような印象であり、えもいわれぬ禍々しさと面白さを併せ持つイメージとエモーションのかけらたちだ。

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 出演者の大半は、主人公の青年を演じるマイケル・ブレヴィスを始め、ダウン症の人々である。健常者のキャストで撮っても差し支えないシナリオを、あえてダウン症の人たちを起用して映像化し、暴力シーンや濃密なラブシーンや動物虐待やコスチューム劇などを演じさせている。いわゆる良識派の人々が見たら顔をしかめ、「面白半分に障害者を使って搾取している」などとも批判されかねない試みだろう。しかし、そもそも本作『What Is It?』の企画当初の目的としては、彼らに創作活動の現場に参加してもらい、何らかの経験値や刺激を得てもらおうというソーシャルワーク的な意図があったという。その上であえて反社会的で過激なアートフィルムを作っているのが『What Is It?』の特筆すべき点だ。健常者の俳優が演じても誰も文句を言わないセックス&バイオレンスを、ダウン症の人々が演じるだけで何をそんなに怒ることがあるのか? もし不快感を覚えたとしたら、その理由を自分自身に問い質してみてはどうか? という、クリスピン・グローヴァーの巧みな挑発でもあるのだ。キャスト陣も、まあ多分「ワケわかんねえな」と思いつつ、監督の共犯者として挑発的なフィルム作りを楽しんでいたに違いない。

 同時に、地上にはびこる暴力と闘争、愛の渇望と不和を、ダウン症の素人俳優たちが演じることによって、メタフォリックな効果も生んでいる。ダークな神話である本作に、彼らがイメージ的に背負っている聖性とイノセンスがもたらしたものは大きい。可哀想なカタツムリたちに延々と塩をふり続ける主人公を、もし健常者の俳優が演じていたら、意味が違ってしまっていたはずだ。

 グローヴァー自身も、地獄の底を思わせるハリボテチックな異界の“神=作者”の役で出演。そして、グローヴァーの監督2作目『It Is Fine! Everything Is Fine.』(2007)で主演と脚本を務めた脳性麻痺患者のスティーヴン・C・ステュアートが、同じく“神”の1人に扮し、全編一糸まとわぬ姿で熱演を見せる(クライマックスでは驚愕のアクションというかアクシデントも披露)。また、『ザ・クラフト』(1996)などで知られる女優フェアルーザ・バルクが、声優としてカタツムリの声を演じ、凄まじい絶叫を延々と聴かせてくれる。さらに、「Apocalypse Culture」など世紀末思想やサタニズム/カルト関連書の出版・編集を手がけているL.A.アンダーグラウンド・カルチャーの有名人アダム・パーフリーが、マイケル・ジャクソンに憧れるミンストレル役を怪演。他の出演者たちが素のままでもインパクト絶大な人たちばかりだったので、逆に浮かないようにするため黒く塗ったらしい。

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 クリスピン・グローヴァーは、昨今の何もかもが明白で空っぽな印象しか残さないハリウッド映画とは真逆の、観終わったあとで観客が「今観たものはなんだったのか?(What Is It?)」と、心の中で問わずにいられないものを作りたかったという。その意味ではこれ以上、名が体を表わしている作品もないだろう。

 そして、これほど徹底してデモーニッシュでアンモラルで挑発的でデカダンで反社会的な、完璧に観る者を選ぶアングラフィルム(その上映形態も含めて)を、今時ここまで正面きって作り上げた気概も特筆すべきだ。本作の字幕を担当した柳下毅一郎氏も書いていたが、これは「正しくLAアンダーグラウンドの教養にのっとった、ケネス・アンガーの正統な後継者たる作品」だ。『マジック・ランタン・サイクル』とB級怪奇映画とセクスプロイテーション映画とニュージャーマンシネマの合体。ルイス・ブニュエルとヴェルナー・ヘルツォークとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーとデイヴィッド・リンチの洗礼を受けた、ある種のエリートにしか作れない映画だ。音楽にもチャールズ・マンソンやアントン・ラヴェイの曲が使われ、正しい血筋と教養を感じさせる。押さえどころがいちいち完璧で、単なる「ごっこ遊び」に陥っていない。

 それでいて飄々としたユーモアが随所に漂い、生真面目一辺倒ではない「遊び」の感覚を保っているのが素晴らしい。おカタい人が観れば憤慨するような過剰な描写の数々にも、突き抜けたコミカルな痛快さがある。本作や「ビッグ・スライドショウ」を観ると、クリスピン・グローヴァーという人が想像以上にクレバーでブラックなユーモアセンスの持ち主だということが分かるはずだ。

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 撮影も美術も特殊効果も限りなくチープな味わいに溢れているが、たまにおそろしくカッコイイ瞬間があったりするのであなどれない。特に印象深いのは、主人公がカタツムリの泣き声に耐えかねて戸外に飛び出し、「……戻れない」とつぶやいて門に背を向けて歩き出すカット。その構図のカッコよさと音楽の盛り上がりときたらもう、ここで映画が終わってもいいと思えるくらい素晴らしかった(始まってすぐのシーンだったけど)。

 金沢へ来る前に見たインタビュー映像で、監督自身が「好きな映画作家はルイス・ブニュエル、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ヴェルナー・ヘルツォーク、スタンリー・キューブリック」と語っていたのを覚えていたので、それらの人々のことを思い浮かべながら観ていた。発想の源はもちろんヘルツォークの『小人の饗宴』(1969)だし、ブニュエル的なシュールと現実の混濁する瞬間も山ほどあるし、主人公の無軌道な「乱暴者」ぶりはかなりファスビンダーっぽいと思った(黒いジャンパー着てるし)。キューブリックとの共通点は見つけにくいが、とりあえず音楽には『時計じかけのオレンジ』(1971)でおなじみ、パーセルの「クイーン・メリー葬送曲」が印象的に使われている。

 噂通り『What Is It?』は、クリスピン・グローヴァーという人の強烈な個性をおなかいっぱい味わうことのできる、類を見ないフィルムであった。「ビッグ・スライドショウ」という限定上映方式がまことに似つかわしい、一期一会の怪作である。しかし、その翌日に観た第2作『It Is Fine! Everything Is Fine.』は、その衝撃をさらに上回る傑作だったのだ……。


監督・脚本・音響・編集/クリスピン・グローヴァー
美術/デイヴィッド・ブラザーズ
撮影/ワイアット・トロル
音楽/チャールズ・マンソン、オーランド・ギボンズ・パーセル、リヒャルト・ワーグナー、アントン・ラヴェイ
出演/マイケル・ブレヴィス、クリスピン・グローヴァー、カルロス・リチャードソン、リサ・フスコ、ケリー・スウィデルスキ、ロビン・アダムズ、リン・コンリー、エリック・イエーツ、リック・ウィットマン、スティーヴン・C・ステュアート、ジョン・インシナ、アダム・パーフリー、フェアルーザ・バルク

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