Simply Dead

映画の感想文。

『トゥー・ハンズ/銃弾のY字路』(1999)

『トゥー・ハンズ/銃弾のY字路』
原題:Two Hands(1999)

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 『ダークナイト』(2008)のヒース・レジャーの演技は、確かに素晴らしかった。結局今まで3回観ているけど、何度観てもジョーカーが出てくるだけで嬉しくなってしまう。でも、そこにいるのはジョーカーその人であって、僕の知っているヒース・レジャーではなかった。外見や立居振舞いの作り込みに加えて、あの印象的な声と喋り方まで変えられてしまうと、まるで彼だと認識できない(宙吊りにされるシーンでかろうじて地が分かるくらいだ)。いつも観終わると、彼の“素”が出ている作品に触れたいと思い、2度目の『ダークナイト』のあと、オーストラリア時代の主演作『トゥー・ハンズ』を観てみた。

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〈おはなし〉
 オーストラリアの大都市シドニーにある歓楽街キングス・クロス。ストリップ小屋の呼び込みをしている青年ジミー(ヒース・レジャー)は、町を牛耳るギャングのボス・パンド(ブライアン・ブラウン)に呼び出され、大金を送り届ける仕事を言いつけられる。初の大仕事に意気込むジミーだったが、届け先のアパートには誰もいない。実は、受取人の女が心臓発作で死んでいたとは知る由もなく、ジミーは暇潰しに近くの海水浴場へ。そこで彼は、先日ひと目惚れした友人の妹アレックス(ローズ・バーン)の姿を見かける。思わず預かった札束を砂浜に埋め、パンツ一丁で海に飛び込むジミー。が、単なる人違いだった。がっかりしながら砂浜に戻ると、金が消えていた……。

 ジミーは慌てふためき、パンドに「金は失くしたけど必ず返す」と正直に伝え、しばらく身を潜めようと、今は亡き兄の妻ディアドリ(スージー・ポーター)の家に匿ってもらう。ヤバイ知り合いの大勢いる彼女の計らいで、ジミーは銀行強盗計画に混ぜてもらうことに。パンドの手下たちに見つかる前に金を工面しなければ、間違いなく殺される。

 そんな時、ジミーのもとにアレックスから電話が。今夜よかったら町でデートしない? というのだ。町には当然、パンドの息のかかった連中がうようよしている。しかし、ジミーはどうしてもアレックスの誘いを断れなかった……。

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 オーストラリア映画界の俊英、グレゴール・ジョーダンが監督と脚本を手がけた初長編『トゥー・ハンズ』は、いかにもポスト・タランティーノ世代のB級バイオレンス・コメディといった感じの、憎めない佳作だ。ギャングの金を失くした青年の奮闘、最悪の状況で芽生える淡い恋、彼を捕えようとする非情なギャングたちの追跡劇、そしてたまたま大金をせしめた不良姉弟を見舞う悲劇。複数のストーリーラインが同時に走り続け、オージー流の仮借ない暴力とオフビートな笑いを散りばめながら、やがて血まみれの大団円へと収束していく。チープな犯罪者たちが繰り広げる暴走の連鎖によって、トリッキーな犯罪活劇を組み上げるシナリオが秀逸だ。かといって奇をてらったプロット優先型の映画にはしておらず、未熟な若者の成長と恋模様を見つめる青春映画としてまとめ上げているのも、好感が持てる。

 多少荒っぽいところはあるが、若手作家らしい意欲が全体にみなぎっているのがいい。新人監督のデビュー作ならこれくらい飛ばしてくれなきゃ楽しくない。冒頭から、主人公の兄の幽霊が語り部として登場したりする捻りのきいたユーモアは、『ゼイ・イート・ドッグス』(1999)あたりも思い出させる。やけに所帯じみたギャングや犯罪者たちのリアルな日常描写、シドニーの歌舞伎町ことキングス・クロスの空気を切り取ったロケーション撮影も面白い。『トゥー・ハンズ』は、オーストラリアの「貧すれば鈍する」を地で行くトラッシュ・ピープルの生活ぶりを辛辣に切り取り、チャンスに恵まれない若者たちの現実を映しだした社会派映画でもある。

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 当時18歳のヒース・レジャーが演じるのは、うっかりミスで人生最悪のドツボにはまる主人公ジミー。良くも悪くも未熟で無垢な青年を真摯に演じ、初々しく新鮮な魅力を放ちながら、しっかりスクリーン映えするたたずまいにスターの資質を感じさせる。ラストシーンで見せるはにかんだ表情のキュートさは女性ファン悶絶必至だろう。この映画での演技が認められ、彼はハリウッドに招かれてジュリア・スタイルズ共演の傑作青春映画『恋のからさわぎ』(1999)、そして同郷のメル・ギブソン主演の大作『パトリオット』(2000)に抜擢。そこからメキメキ頭角を表していったことは言うまでもない。本作のグレゴール・ジョーダン監督とは、オーストラリアに実在した伝説のアウトロー、ネッド・ケリーを描いた『ケリー・ザ・ギャング』(2003)でも組んでいる。

 『トゥー・ハンズ』では、もうひとり重要な人物が鮮烈なデビューを飾っている。近年では『28週後…』(2007)やTVドラマ『ダメージ』で活躍している女優、ローズ・バーンである。この映画では田舎から出てきた一見垢抜けないヒロイン・アレックスを演じているが、これがもう、びっくりするほど可愛い(当時19歳)。染めた金髪が伸びて半分くらい黒髪になっている野暮ったさもプラスに思えるくらい。恋に胸躍らせる少女をとても自然に愛らしく演じていて、ヒース・レジャーとのカップリングも非常に画になる。彼女もまた本作で注目され、『ホワイト・ライズ』(2004)でジョシュ・ハートネットの相手役を演じたりして着実にキャリアを積み重ねていき、現在に至っている。

 いちいちキャラの濃い脇役陣の顔触れも印象的。商売人風の地元ギャング・パンド役を絶妙に演じる名優ブライアン・ブラウンを始め、その冷酷な手下アコを怪演するデイヴィッド・フィールドなど、適材適所の配役が効果を上げている。個人的にはステファン・エリオット監督の怪作コメディ『ウープ・ウープ』(1997)でハチャメチャなヒロインに扮したスージー・ポーターが、主人公の窮地を助ける面倒見のいい強盗妻ディアドリを余裕たっぷりに演じているのがツボだった。『トゥー・ハンズ』は、映画におけるキャスティングの大切さを改めて教えてくれる。

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 犯罪アクションと青春映画とブラックコメディがミックスされた、不思議な手触りの娯楽作『トゥー・ハンズ』は、オーストラリアを代表する映画賞AFIアワードで作品賞・監督賞・脚本賞など5部門を受賞。日本でもビデオが発売されたが、残念ながら今では入手困難になっている(とりあえず新橋のツタヤにあるのは見つけた)。必見の傑作というほど大袈裟なものではないにしろ、ぜひともDVD化してほしい秀作ではある。

 この映画を観たあと、3度目の『ダークナイト』を観た。そこにはハリウッド進出10年目を前にして、自分自身を徹底的に変えてやろうと意気込む若手俳優の野心が迸っていた。ゲイリー・オールドマンは『ダークナイト』のヒース・レジャーについて、「役者がキャリアを重ねる過程で、突然、音速を突き破るような演技を見せることがある。ヒースはまさにそれだった」と語っている。それだけの負荷を強いる演技スタイルを維持していくには、その身も心も、あまりに繊細すぎたのかもしれない。無骨で寡黙なカウボーイを演じた『ブロークバック・マウンテン』(2005)でも、その抑えた芝居には常に痛ましい繊細さを湛えていた。『トゥー・ハンズ』は、そんな彼の芝居の原点を知ることができる重要な作品である。

・DVD Fantasium
DVD『トゥー・ハンズ』(米国盤・リージョン1)


製作/マリアン・マッゴーワン
監督・脚本/グレゴール・ジョーダン
撮影/マルコム・マカロック
出演/ヒース・レジャー、ローズ・バーン、ブライアン・ブラウン、デイヴィッド・フィールド、スージー・ポーター、スティーヴン・ヴィドラー
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