Simply Dead

映画の感想文。

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『明日なき銃弾』(1978)

『明日なき銃弾』
原題:Tomorrow Never Comes(1978)

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〈おはなし〉
 職探しのため、婚約者を残して旅に出た若者フランク(スティーヴン・マクハティ)が、久々に町へ帰ってきた。そこで彼を待っていたのは、家を失い、婚約者ジェイニー(スーザン・ジョージ)も誰かの愛人になっているという残酷な事実だった。酒場でケンカしたフランクは、大怪我を負いながらもジェイニーを探し出す。そこは町の有力者ロバート・リン(ジョン・オズボーン)の別宅だった。フランクは人が変わったようにジェイニーを激しく詰問する。その時、メイドの通報で警官が駆け付け、もみ合っているうちにフランクは拳銃を奪い、警官を撃ってしまった。

 たちまち警官隊に包囲され、フランクはジェイニーを人質にして立て篭ることに。要求はリンを連れてきて謝罪させること。そこへ、本日付で引退するベテラン刑事ウィルソン(オリヴァー・リード)がやってきた。町の名士リンの名を傷付けないためにも、さっさと狙撃してカタをつけようとする同僚たちのなかで、ウィルソンだけは穏便な事件解決を強く主張するが……。

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 イギリス=カナダ合作の社会派スリラードラマ(撮影はカナダ)。腐敗した地方都市を舞台に、犯人と人質の関係になってしまう不幸なカップルの愛憎、彼らを捕えようとする警察側の内部対立・葛藤などが、ある暑い一日の出来事として描かれていく。脚本は原案も兼ねるデイヴィッド・パーサル&ジャック・セドンと、クロード・シャブロル監督がカナダで撮った『血塗られた構図』(1978)のシナリオを手がけたシドニー・バンクスが共同執筆。

 監督はピーター・コリンソン。一番有名な作品はマイケル・ケイン主演のケイパーアクション『ミニミニ大作戦』(1969)だが、個人的には『Straight On Till Morning』(1972)や『恐怖の子守唄』(1975)など、神経症的なサイコスリラーが得意な監督という印象が強い。本作でも、主人公が酒場のケンカで負った頭の怪我が原因で、無軌道な凶行に走るという設定を織り込んだりしている。やっぱりそういうテーマが好きなのだろうか。

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 世間にも恋人にも裏切られた精神的ダメージに加え、実際に脳にもダメージを受けてしまった主人公は、ダブルパンチで自制心と判断力を失っていく。それと平行して、脳出血のためにいつ死ぬか分からないというタイムリミット・サスペンスも描かれる。その辺りの芸の細かさには、単なる篭城ものスリラー以上の新味を感じた。前半のケンカの場面で、ぶちのめされて血だるまになった主人公が警報音みたいな唸り声を上げ続ける、このリアリティは一体なんだろうと思ったら、そういう展開のためだったのかと後半で気付かされる。殴った方の相手が「ごめんよ、ここまでやるつもりじゃなかったんだ」と狼狽する後味の悪さもまたリアル。

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 また、全編にペシミスティックなムードを漂わせながら、捻ったユーモアや風変わりな展開を盛り込んだりして、やっぱり妙なテイストを漂わせているのがコリンソン監督らしい。立て篭り犯の目の前で刑事がビールを飲んで渇きを煽ったり、モルヒネ入りビールの運び役に犯人の知り合いの少年を使ったり、町の大物を武装した犯人のもとへあっさり連れていったり。「いいのか、それ?」と思うような展開が多く、やや無理のあるところも目立つ。それに、ヒロインの人物造形が浅いため、籠城するカップルのドラマがさほど盛り上がらないのも難点。とはいえ、フランク役のスティーヴン・マクハティを始めとする俳優陣の熱演、含みのあるストーリーのおかげで、それなりに飽きさせない。高層ビルと田舎町が平然と同居するロケーションも、独特の効果を生んでいる。

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 最後まで良心的解決に賭けようとする刑事ウィルソン役には、名優オリヴァー・リード。『セブン』(1995)のモーガン・フリーマンを思わせる、厭世的でありながら意固地なヒューマニストでもある男の葛藤を、やたら貫禄たっぷりに演じている。正義の人を演じても内面が全然読めないエキセントリックな人物に見えてしまうところがリードらしい。

 不幸にも凶悪犯として追い詰められる青年フランクを熱演するのは、地元カナダ出身の俳優スティーヴン・マクハティ。鬼気迫る狂気と追い詰められた男の悲しみを見事に演じている。彼はのちにデイヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)で、冒頭に登場する強盗殺人犯コンビの片割れを演じ、強烈なインパクトを残した。人質となるヒロイン役は『わらの犬』(1971)の被虐系女優、スーザン・ジョージ。本作でも相変わらずヒステリックに泣き叫んでいるが、だいぶ顔もむくんで首周りもたるんできており、しどころのない役を支えるだけの魅力には欠けている。

 嫌味ったらしい若手刑事役で印象を残すのは、『ソルジャー・ボーイ』(1972)のポール・コスロ。他にもドナルド・プレザンスやレイモンド・バー、劇作家のジョン・オズボーンといった魅力的なキャストが脇を固め、役者の顔触れを見ているだけでも飽きない。フランクと知り合いの少年ジョーイを演じる子役、サミー・スナイダーズの妙な巧さも印象的。彼は本作のほかに、カナダ=西独合作のTVシリーズ『ハックルベリー・フィンと仲間たち』(1980)でトム・ソーヤー役を演じたり、ホラー映画『ザ・ピット』(1981)に主演したりしているとか。

▼米国盤DVDジャケット
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 オリジナル版の上映時間は109分。日本版ビデオは86分。短縮版では、フランクとジェイニーの密室内でのやりとりや、現場を取り巻く野次馬たちの反応などが少しずつカットされている。特に、ジェイニーがリンとの馴れ初めをフランクに告白するシーンが切られているのが惜しい。ただでさえキャラクターの薄いスーザン・ジョージには、ちょっと損な編集だ。しかし、一番の違いは音楽である。

 本作の音楽を手がけたのは、ロイ・バッド。オリジナル版のオープニングでは、バッドが作曲し、マット・マンローが唄うメロウな主題歌「Alone am I」が流れる。しかし日本版ビデオでは、なぜかマイク・ホッジス監督の傑作『狙撃者』(1971)のテーマ音楽が使われているのだ。同じバッド作曲でも、両者のイメージは全然違う。さらに中盤の酒場のシーン、そしてエンディングでも、『狙撃者』のスコアが流用されている。

▼『明日なき銃弾』サウンドトラックCDジャケット
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 どうしてそんなバージョンが存在するのか。おそらくプロデューサーのマイケル・クリンガーが、バッドの書いた曲に不満だったからではないか。もしくは、映画全体の仕上がりに対して「パンチが足りない」と判断して、大幅なカットと音楽の差し換えをおこなったのかもしれない。クリンガーは『狙撃者』のプロデューサーでもある。当時のザックリした考え方では、少なくとも海外マーケット向けのプリントについては、他作品の曲の流用も可能だったのだろう(今は権利問題がうるさくて無理だと思うけど)。『明日なき銃弾』のオリジナルスコアは、実に甘く切なく美しい曲だが、インパクトには欠ける。超クールでインパクト絶大な『狙撃者』のテーマは、確かにスリラー映画のタイトル曲としては最強だが、ホッジス・ファンとしてはやっぱりどう聴いても『狙撃者』のテーマにしか聴こえないので、合ってるようで合ってないような微妙な違和感が漂う。それもまた面白かった。

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 ちなみに町の大物リンを演じるジョン・オズボーンは、『狙撃者』でもニューカッスルの街を牛耳るギャングのボス、キニアーを演じている。多分クリンガーとの繋がりでキャスティングされたであろう本作でも、異様な迫力を漂わせて冷酷な人物を怪演。『狙撃者』とは芝居が全然違うので驚いた。

 現在アメリカなどで発売されているDVDはオリジナル版で、音楽もバッドが本作のために書いた曲が全編に使われている。そういう意味では、日本版ビデオはかなりレアなバージョンと言えるだろう。なんでこんなことを知ったかというと、以前、同じビデオメーカーから出ていた『鏡の中の女』(1975)を観た時に、この映画のビデオ予告編が収録されていて、その音楽がまるっきり『狙撃者』だったので「ええっ」と思い、希少品の中古ビデオを大枚はたいて買って観てみたら、やっぱり『狙撃者』のスコアが本編にもバッチリ使われていたので、また面食らったという次第。こんなことを確認するためだけに6千円近くも使ってしまって、何やってんだかなあ……とは思った。

▼日本版ビデオのジャケット
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・DVD Fantasium
DVD『明日なき銃弾』オリジナル版(米国盤・リージョン1)

・Amazon.co.jp
CD『明日なき銃弾』サウンドトラック(輸入盤)
CD『狙撃者』サウンドトラック(輸入盤)


製作/マイケル・クリンガー、ジュリアン・メルザック
監督/ピーター・コリンソン
脚本/シドニー・バンクス、デイヴィッド・パーサル、ジャック・セドン
原案/デイヴィッド・パーサル、ジャック・セドン
撮影/フランソワ・プロタ
音楽/ロイ・バッド
出演/オリヴァー・リード、スティーヴン・マクハティ、スーザン・ジョージ、レイモンド・バー、ドナルド・プレザンス、ジョン・オズボーン、ポール・コスロ

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