Simply Dead

映画の感想文。

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『Dark City:Director's Cut』(1998-2008)

『Dark City:Director's Cut』(1998-2008)

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 『ダークシティ』は大好きな映画だ。ビデオで初めて観て以来、LDやDVDで何度も繰り返し観ている。去年の夏に大阪へ行った時も、西成にある映画館トビタシネマで『ダークシティ』が久々にスクリーン上映されると知って、それを観に行くのが旅のメインイベントのようなものだった。知らない土地の場末感漂う劇場で、真夏の朝イチの回からおっちゃんたちと一緒に観る『ダークシティ』は、また格別だった。主人公と同じように、その地に属さない、誰でもない人間として映画を観られたから。映画がつまらないと怒りだすという(?)お客さんたちも、みんな画面に集中していて静かなもんだった。

 その『ダークシティ』が10年の時を経て、10分長いディレクターズ・カットとして復活。単に未使用カットを足しただけのエクステンデッド・バージョンではなく、細かい再編集と追加CG処理を施したリニューアル・バージョンである。大きな変更点もいくつかあるが、それよりはカット単位での変更が多く、細かく拾っていくと結構キリがない。以下が、比較的大きな公開版との違い。

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●冒頭のシュリーバー博士によるナレーションがない
●オープニングで、町の時間が止まるシークェンスがない
●町を彷徨うマードックが自分の指紋(渦巻)を見つめるカットがある
●マードックを匿う娼婦・メイに娘がいる描写がある
●殺されたメイの娘が描いた絵から、バムステッド刑事は“ストレンジャー”の存在を知る
●マードック、シュリーバー、バムステッドの3人がシェルビーチに向かう車中で、マードックが“チューン”を使い、抵抗するシュリーバーを苦しめる
●クライマックスの超能力合戦でVFX(CG)が増えている
●音楽が全体的に少なくなっている

 そのほか、細かい描写や台詞が足されていたり、あるいは抜かれていたり、カットの順番が入れ換えられていたりする。初公開版では全編ひっきりなしに鳴っていた音楽も、今回のバージョンでは部分的に消され、あるいはボリュームを下げられるなどしていて、印象としては随分と落ち着いた映画になったなぁという感じがした。

darkcity_dc_rufus02.jpg

 追加CG処理で特に目立つのは、クライマックスの超能力合戦。重力を無視して上空に舞い上がっていく瓦礫などのディテールが足されたほか、短剣を突き刺されたミスター・ブックの頭部から体液めいたものが溢れ出すエフェクトも足されている。後者に関しては、回転しながら宙をすっ飛んでいくというアクションのインパクトが薄らいでしまい、あまりいい改変とは思わなかった。ただ、画面のスペクタクル感は確かにディレクターズ・カット版の方が増している。

 アレックス・プロヤス監督にとって、公開版で最も不満だった部分は、映画会社からの要請で付け加えたオープニング・シークェンスらしい。特にシュリーバー博士のナレーションは、どんな台詞にすれば映画にとって最小限のダメージで済むのか、録音現場でもずっと悩みながら作業していたのだとか。ナレーションについては、確かにない方が絶対にいいと思うのだけど、町の時間が止まっていく秀逸なイメージも落としてしまったのはちょっと惜しい。メイに娘がいて殺人を目撃するという描写も、はっきり言って蛇足だと思ったが。

darkcity_dc_maysroom.jpg

 今回のディレクターズ・カット版でも、もちろん作品自体の強烈な魅力は失われていない。見事なプロダクションデザイン、ノワール調の撮影、俳優の演技もすべて素晴らしい。だが、決定的に公開版からは失われてしまった要素がある。僕が『ダークシティ』でいちばん凄いと思っていた部分が。それは、あまりにもテンポのよすぎる編集だ。これだけ入り組んだ内容であるにもかかわらず、公開版はスタッフクレジットこみで上映時間100分しかないのだ。

 とにかく展開が速い。予告編かダイジェスト映像という勢いでモンタージュが積み重ねられ、主人公を取り巻く謎や登場人物の紹介、世界観の提示が行われていく。『ダークシティ』が優れているのは、キャラクターも舞台設定もいわゆるハードボイルドやノワールの定型を巧みに踏襲し、非常に明快なイメージで作られているからこそ大胆なストーリーテリングが可能になっているという点だ(同時に、この世界がクリシェで構築された虚構であるという意味も効率的に伝えている)。

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 アレックス・プロヤスという監督は、そのあたりの「少年ジャンプ」的感覚というか、アイディアとしては目新しくないけれども斬新なデザインセンスで再構築した異世界のありようを、世界中にいる不特定多数の映画観客たちに分かりやすく伝えるという手腕にかけては、まさにメジャー級の力を持っていると思う。何よりビジュアルが単純にかっこいい。特に、ジェニファー・コネリー扮するヒロインがナイトクラブで歌い出す初登場シーンの、有無を言わさぬコンティニュイティには毎回観るたびに魂を持っていかれる。

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 僕にとって『ダークシティ』を観る愉しみは、その効率的という形容すら通り越したスピーディーな語り口に圧倒されること。さながらダイジェスト映像を観ているような感覚は、そのうちこれが登場人物たちの永刧に繰り返されている記憶のダイジェストではないか、というサスペンスまで生んでいく。それら矢継ぎ早にたたみかけられる展開を繋ぐ上で大きな役割を果たしているのが、ひっきりなしに鳴り続けるトレヴァー・ジョーンズの音楽だ。ひたすら劇的なスコアがサスペンスフルな予感を高め続け、見せ場や伏線が連続しているような錯覚を与える。それはもはや通常の映画のストーリーテリングではない。『ダークシティ』公開版は、構造的にも、ちょっと他に類を見ない映画なのだ。

 だから、今回のディレクターズ・カット版が10分長いと知った時は、自分の好きな『ダークシティ』ではなくなってるかもしれないな、という予感もした。そして実際、その通りだった。作品の魅力は損なわずにディテールアップされ、音楽は適材適所で鳴り、より「映画らしい映画」になった。それも悪くはないと思うけど、やっぱり個人的には「型破りな映画」だった公開版がベストだと思った。それが監督の意図にそぐわない編集だったとしても。

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 ちなみに、この映画はプロヤス監督の母国であるオーストラリアで撮影されており、スタッフのみならず俳優陣にも現地の人間が多い。メイ役のメリッサ・ジョージもそのひとりで、本作の後には『マルホランド・ドライブ』(2001)でマフィア一押しの女優カミーラ・ローズを演じ、さらに長年オクラ入りにされていたキーファー・サザーランド主演のTV版『L.A. Confidential』(2000)のパイロットでヒロイン役も演じた、ツイステッド・ノワール世界に縁深いブロンド美人。最近はリメイク版『悪魔の棲む家』(2005)や、ジョシュ・ハートネット主演のホラーアクション『30 Days of Night』(2007)などで立て続けにヒロイン役を演じており、長年の下積みが報われようとしている。そして、ストレンジャーのひとりミスター・ウォール役のブルース・スペンスといえば、『マッド・マックス2』(1981)のジャイロ・キャプテン。やたら細長い顔と長身のルックスは一度見たら忘れられない。ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『緑のアリが夢見るところ』(1984)の主演でも知られている。狂気に陥る刑事ワレンスキーを演じたコリン・フリールズは、スコットランド出身だが少年時代にオーストラリアへ移住し、以降もそこで演劇活動を続けている。マイルス・デイヴィスと共演した『ディンゴ』(1991)や、『エンジェル・ベイビー』(1995)などが有名。妻はジュディ・デイヴィスである。

 関係ないが、ミスター・ハンドを演じたリチャード・オブライエンの代表作『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)の監督ジム・シャーマンも、実はオーストラリア人だったりする。

・DVD Fantasium
DVD『Dark City:Director's Cut』(米国盤・リージョン1)

・Amazon.co.jp
DVD『ダークシティ』(公開版)


製作/アンドリュー・メイソン、アレックス・プロヤス
監督・原案/アレックス・プロヤス
脚本/アレックス・プロヤス、レム・ドッブス、デイヴィッド・ゴイヤー
撮影監督/ダリウス・ウォルスキー
プロダクションデザイン/パトリック・タトプロス、ジョージ・リドル
視覚効果監修、ミニチュア監督/アンドリュー・メイソン
編集/ダヴ・ホーニグ
音楽/トレヴァー・ジョーンズ
出演/ルーファス・シーウェル、ジェニファー・コネリー、キーファー・サザーランド、ウィリアム・ハート、リチャード・オブライエン、イアン・リチャードソン、メリッサ・ジョージ、ブルース・スペンス、コリン・フリールズ

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