Simply Dead

映画の感想文。

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『黒いピーター』(1963)

『黒いピーター』
原題:Cerny Petr(1963)

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 第30回ぴあフィルムフェスティバルの「巨匠ミロス・フォアマンの世界」上映作品。『アマデウス』(1984)や『ラリー・フリント』(1996)などで知られるミロシュ・フォアマン監督がチェコ時代に手がけた長編第1作で、日本国内で「字幕つきで」スクリーン上映されるのは今回が初めてだとか(無字幕での上映は昔あったらしい)。どんな映画か全然知らなかったけど、デビュー作らしい初々しさに溢れた青春映画で、続く『ブロンドの恋』(1965)『火事だよ! カワイコちゃん』(1967)と同じく、独特の突き放した視点とオフビートな笑いに満ちたコメディだった。ここでもやはり音楽がふんだんに使われ、そして(カオスの源たる集団の場として)ダンスパーティーが登場する。素人俳優の個性的な「顔」の揃え方も、いきなり天才的だ。

 脚本はヤロスラフ・パポウシェクとフォアマンの共同執筆。『男の傷』(1981)のイヴァン・パセル(アイヴァン・パッサー)も助監督として参加している。即興演出を多用し、ドキュメンタリー風に生々しい瞬間を切り取りつつ、緻密な組み立てを感じさせる作品である。

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 主人公は、やりたいことが見つからないまま社会に放り出されてしまった若者ペトル(英語読みだとピーター)。食料品店で万引き監視係をしながら、口うるさい親に説教されたり、気になる女の子と煮えきらないデートを重ねたり、停滞した日常が淡々と過ぎていく。「明日から君は大人だから」と言われ、望まない仕事に就き、なんの野心も目的も持てないまま、ただぼんやりと日々を過ごすだけ。そんな若者のメランコリーが、本作ではとてもリアルに描かれている。社会との向き合い方でも、女の子との接し方でも、ただ好きこのんで無愛想にしているわけじゃない。どうしたらいいのか分からないのだ。だからって他人に訊く素直さも持ち合わせていない。冒頭、店で万引き犯らしき男を見つけて追いかけていったペトル君が、声もかけられずに延々と尾行を続けてしまうシーンには、そんな青春期の痛みがコミカルに分かりやすく表現されていて、秀逸だ。

 『黒いピーター』では、主人公ペトルと父親の会話を通して、世代間のズレも笑いと共に映し出す。若者のアンニュイだけでなく、親に代表される上の世代の当惑や混乱もしっかり同等に描くのが、フォアマン演出の特徴である。作品を追うごとに、だんだんと若者よりもオッサン世代の混乱を描く方に熱が入っていき、消防署員たちの催したパーティーがアナーキーなカオスへと至る傑作『火事だよ! カワイコちゃん』を経て、渡米第一作の『パパ/ずれてるゥ!』(1971)ではそれが頂点に達する。ヒッピー文化は自然に存在するものとして淡々と映し出されるのに対して、中年の親たちがどんどん不自然な状況へと突っ走っていく描写は、ひたすら細かく計算され、意地悪な愛に満ちているのだ。

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 で、この映画でいちばん面白いのは、主人公とガールフレンドにいちいち絡んでくるレンガ職人見習いのバカ2人組。特に、その言動にひとつも一貫性がないチェンダ青年のキャラクターが凄すぎる。その存在感たるや、ほとんど主人公を食う勢いだ(演じるウラジミール・プホルトは『ブロンドの恋』でヒロインが恋するピアニストの青年を演じていた)。彼がダンスパーティーで別の女の子に声をかけようとして、実に複雑怪奇なプロセスを経て玉砕するくだりは爆笑もの。コミカルな状況を巧みに仕掛けてオフビートな笑いへと導くフォアマン演出の真骨頂と言える名シークェンスだ。ちなみに主人公カップルに絡んでくるバカ2人という構図は、のちの『パパ/ずれてるゥ!』でもナイトクラブの場面で繰り返されていた。妙にアグレッシブな仕掛け役と、やる気のない相棒というキャラ設定まで一緒。そういえば『ブロンドの恋』の前半にも……。

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 佳作ながら、実になんとも面白い映画だった。だけど、日本で観られるのはこれが最後のチャンスだと思っていいらしい。『パパ/ずれてるゥ!』も同様に、今回の上映を見逃すとしばらくお目にかかれないという。特に『パパ/ずれてるゥ!』は、欧米でもソフト化されていないし、劇場で観るとまたひと味違う傑作なので、未見の方はぜひこの機会を逃さないでほしい(両作品とも、プリントがびっくりするほど綺麗だった)。『パパ/ずれてるゥ!』は7月30日に、『黒いピーター』は7月31日に、渋谷東急であと1回だけ上映される。


監督/ミロシュ・フォアマン
脚本/ヤロスラフ・パポウシェク、ミロシュ・フォアマン
撮影/ヤン・ネメチェク
助監督/イヴァン・パセル
出演/ワディスワフ・ヤキム、パヴラ・マルティンコヴァ、ヤン・ウォストルチル、ウラジミール・プホルト
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