Simply Dead

映画の感想文。

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『The Statement』(2003)

『The Statement』(2003)

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 マイケル・ケインがナチス・ドイツに協力したフランス人の戦犯を演じる、社会派スリラーの秀作。戦後50年を経て何者かに命を狙われる男の逃走劇と、彼を生かしたまま逮捕しようとする女性判事と陸軍将校の奔走をスリリングに描く。ブライアン・ムーアによる小説『逃走』を、『戦場のピアニスト』(2002)のロナルド・ハーウッドが脚色し、『夜の大捜査線』(1967)の社会派ノーマン・ジュイソンが監督を務めた。「Statement」とは声明文書の意味で、ここでは主人公への制裁宣告書のことをさしている。

 ケインを筆頭とするキャスト陣が何しろ豪華で、彼らの巧演を観ているだけでも飽きない。『フィクサー』(2007)のティルダ・スウィントン、『ゴスフォード・パーク』(2001)のジェレミー・ノーサム、『死にゆく者への祈り』(1987)のアラン・ベイツ、『ブラザー・ハート』(2003)のシャーロット・ランプリング、『バロン』(1989)のジョン・ネヴィル、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)のキアラン・ハインズと、折り紙付きの演技派揃い。フランスが舞台で、登場人物もみんなフランス人なのに、主要キャストはイギリス人ばかりという妙な映画でもある。その違和感に慣れれば楽しめる作品だが、そうでないとキツいかも。

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〈おはなし〉
 第2次大戦中のフランスで、ナチス・ドイツの協力者として多くのユダヤ人を処刑した男、ピエール・ブロッサール(マイケル・ケイン)。50年後、処刑されたはずの彼は、カソリック教会内の政治分子による庇護を受け、素性を隠して南仏で隠遁生活を送っていた。

 ある日、ブロッサールはユダヤ系とおぼしき暗殺者に狙われ、とっさの機転で返り討ちにする。だが、次の追っ手が必ずまたやってくるはずだ。ブロッサールはすかさず逃走を開始し、心臓の持病を抱えた老体に鞭打ちながら、各地を転々とする。はたして彼に未来はあるのか。彼の命を狙う組織の正体とは?

 一方、ユダヤ人の父を持つ野心的な女性判事リーヴィ(ティルダ・スウィントン)は、戦犯ブロッサールを今日まで庇護してきた政府内の大物を突き止めるべく、陸軍大佐ルー(ジェレミー・ノーサム)と共にその行方を追う。戦中のヴィシー政権でナチスに協力しながら、戦後も国内政治の中核に居座り、ブロッサールを守ってきたのは誰なのか。なんとしても彼が消される前に身柄を拘束し、証言を得なければならない。ブロッサールの過去を探るふたりの前に、今も生き長らえる歴史の闇が浮かび上がる……。

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 ブロッサールを演じるマイケル・ケインが、とにかく素晴らしい。過去の罪に追いつめられ、神の加護にすがり続ける老人の焦燥、狼狽、あがきを見事に演じている。『狙撃者』(1971)のジャック・カーターを始め、クールでバイタリティに富んだ人物を多く演じてきたケインとは到底思えない、迫真の哀れさというべきか。「かっこいいマイケル・ケイン」のファンは覚悟して観た方がいい。逆に言えば、およそ観客のシンパシーの対象となりえない戦犯ブロッサールを、老いてなお魅力的なスターであるケインが演じるからこそ、観客はその行く末を案じることができるのだ。時折見せる殺人者としての表情も、さすがにサマになる。ケイン本人は、インタビューで「今まで演じた人物の中でいちばん気に食わん奴だね。フランス人のナチ野郎なんて、私にとっては火星人と同じくらい遠い存在だ」などと語ったりしているが、それでも素晴らしい熱演であることは否定しようがない。

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 共演陣の中では、やはりティルダ・スウィントンの颯爽とした魅力が際立っている。クールな美貌と男っぽいキャラクターが好バランスで、こういう人間味溢れる彼女の芝居をもっと見たいと思わせる。コンビを組むジェレミー・ノーサムのちょっと昼行灯っぽい風情もいい。ハンサムだし演技もうまいし、もうちょっと人気が出てもいい俳優だと思う。出番は少ないが、ブロッサールの別れた妻を演じるシャーロット・ランプリング、フランス首相を演じるアラン・ベイツの好演も印象的。ブロッサールの捜査を巡ってベイツとスウィントンが会話を交わすシーンは、洒脱ながら見応えがあって素晴らしい。劇場作品としては、これがベイツの遺作となった。

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 この作品が面白いのは、ユダヤ人虐殺という大罪を犯した男に対し、カソリック教会が親身になって世話をし続け、神父たちが臆面もなく同情の態度を示すという描写だ。それはブロッサールが熱心なカソリック信徒であり、“シュヴァリエ・ド・サン・マリー”という謎の一派に名を連ねる重要人物であり、教会に影響力のある「大物」の強い意向が働いているからだ。そのおかげで、彼の罪は実質的に許されている。それは決して「神の愛」などではない。そんな教会の歪んだ体質を、ハーウッドの脚本はシンプルに浮かび上がらせることに成功している。

 監督のノーマン・ジュイソンはユダヤ人であり、そのメンタリティを作品中に反映させることも多いが、本作では「許されざる者」ブロッサールをつとめて冷静に、一個の弱い人間として描いている。単純な悪人として断罪せず、神父の一人に「当時の彼は、多くの若者がそうであるように愚かだったのだ」という台詞まで言わせ、その評価はあくまで観客に委ねられる。この冷静さは、老境に達したジュイソンだからこそ描き得た境地ではないだろうか。

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 ジュイソンの演出はきわめて職人的で、そつがない。無駄やケレンを排したオーソドックスな語り口で、テンポのいいエンタテインメント作品に仕上げている。題材の重さに比べるとやや軽めな印象も含めて、近年のジョン・ブアマン作品を思い出した(あそこまで削ぎ落としてはいないけど)。撮影はジュイソン監督の息子で、仏製アクション『ザ・コード』(2002)の撮影も手がけているケヴィン・ジュイソンが担当。風光明媚なフランスの風景を、プレーンな映像で美しく捉えた画作りに好感が持てる。

 せっかくの良作なのに、日本未公開はもったいない。歴史や宗教に明るくないと分からない部分も多かったので、できれば字幕つきでもう一度観てみたいと思った。

・DVD Fantasium
DVD『The Statement』(米国盤・リージョン1)

・Amazon.co.jp
原作本『逃走』(DHC出版)


製作/ロバート・ラントス、ノーマン・ジュイソン
監督/ノーマン・ジュイソン
原作/ブライアン・ムーア
脚本/ロナルド・ハーウッド
撮影/ケヴィン・ジュイソン
美術/ジャン・ラバス
編集/アンドリュー・S・アイゼン、スティーヴン・E・リフキン
音楽/ノーマン・コルベイル
出演/マイケル・ケイン、ティルダ・スウィントン、ジェレミー・ノーサム、アラン・ベイツ、シャーロット・ランプリング、ジョン・ネヴィル、キアラン・ハインズ、フランク・フィンレイ、マット・クレイヴン

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