Simply Dead

映画の感想文。

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『秘密組織・非情の掟』(1974)

『秘密組織・非情の掟』
原題:The Nickel Ride(1974)

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 ジェイソン・ミラーが『エクソシスト』(1973)の翌年に主演した暗黒街ドラマの佳作。製作・監督は『悪を呼ぶ少年』(1972)のロバート・マリガンで、脚本はのちに『インサイダー』(1999)などを手がけるエリック・ロス。撮影監督は『ブレードランナー』(1982)の名匠、ジョーダン・クローネンウェス。日本ではTV放映された。

 ミラー演じる主人公クーパーは、ニューヨークの下町で裏稼業を取り仕切り、住民の相談役として一目置かれている男。世間はどんどん世知辛くなり、面倒事は増えるばかりだが、それでも仲間や愛妻に支えられてなんとかやってきた。ところがある時、上部組織との関係に亀裂が入り、立場が悪くなった彼は、ほとぼりを冷ますために妻と休暇に出かける。が、そこに追手の影が……。

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 前半ではクーパーの誕生日を背景に、主人公を取り巻く人間模様を活写し、後半では彼がノイローゼに陥っていく姿を主観的演出でサスペンスフルに描いていく。通常の犯罪映画のように対立関係をカットバックで映したりすれば、神経質で用心深い主人公の行動もストーリー上の説得力をもつだろう。が、本作では徹底して主人公ひとりの目線に限定されているため、パラノイアックな内面だけが強調される。それは常に疑心暗鬼と隣り合わせで生きるしかないギャングのリアリティでもあるだろうし、シビアな現実社会で生きることに疲れた中年男の焦燥も重ねられている。

 そして、後半のショッキングな悪夢のシーンを境に、主人公クーパーは虚実を見失っていく。観客もまた同様に。現実か幻想か判別のつかない状態で導かれる、クライマックスの緊迫感が見事だ。その辺りのセンスは『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(1967)や『グッドフェローズ』(1990)後半の錯綜感に近いが、ロバート・マリガンはそれを一切あざとく見せず、正攻法の演出で押しきるところが渋い。中年ギャングの憂愁を綴るような導入から、神経症的な心理劇に至り、フィルムノワールとして幕を閉じる。ジョン・G・アヴィルドセン監督の力作『セイブ・ザ・タイガー』(1973)を思い出した。

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 やはり撮影監督ジョーダン・クローネンウェスの仕事が際立っている。それほど画質のよくない海賊版で観ても明白なほど、その光の作り方は独特だ。自然光も室内灯も、押しつけがましくないナチュラルなリアリティを感じさせながら、やたらと美しい。スモークなどを使って巧みに空気感をデザインし、人物の肌にもなめらかな光沢を持たせる技が随所に光る。暖色よりは明らかに寒色好みのクールな質感が、渋すぎるノワール世界を美しく満たしている(夫婦喧嘩のシーンとかそこまで綺麗に撮らんでもいいのに、とも思うけど)。なにげに犯罪スリラーとクローネンウェスの相性はよく、『ローリング・サンダー』(1977)、『男の傷』(1981)、そして『ステート・オブ・グレース』(1991)と傑作が多い。ちなみに本作の美術は『ブレードランナー』のローレンス・G・ポールだ。

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 ジェイソン・ミラーは言うまでもなく素晴らしい。オールバックの中年ギャング姿がなかなかサマになっている。妻にひっぱたかれて反射的にぶん殴ってしまうアクションが、あまりに素早すぎて強烈(さすが元ボクサー、ってそれは『エクソシスト』の役柄か)。ぶん殴られても尽くし続ける薄幸妻サラを演じるのは、『ローリング・サンダー』のリンダ・ヘインズ。脇役のキャラクターもいちいち立っているが、中でも主人公の親友でバー&グリルを切り盛りするパディ役のヴィクター・フレンチが素晴らしかった。味のあるオヤジ俳優をやたら集めて自由な演技をさせるというのも70年代的だ。馴れ馴れしいテキサス男ターナーを演じる、サム・ペキンパー作品でおなじみの名脇役ボー・ホプキンスの芝居も印象に残る。

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 なお、この映画は1974年のカンヌ国際映画祭に出品されたが、同じ肌触りをもった(より分かりやすくパラノイアックな)フランシス・フォード・コッポラ監督の『カンバセーション/盗聴』(1974)にグランプリをかっさらわれた。以来、一度もソフト化されず、文字通り明暗を分ける結果となった。


製作・監督/ロバート・マリガン
製作総指揮/デイヴィッド・フォスター、ローレンス・ターマン
脚本/エリック・ロス
撮影/ジョーダン・クローネンウェス
美術/ローレンス・G・ポール
音楽/デイヴ・グルーシン
出演/ジェイソン・ミラー、リンダ・ヘインズ、ヴィクター・フレンチ、ボー・ホプキンス、ジョン・ヒラーマン、リチャード・エヴァンズ

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