Simply Dead

映画の感想文。

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『ノーカントリー』(2007)

『ノーカントリー』
原題:No Country for Old Men(2007)

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 面白かった。久々にコーエン兄弟の実力を感じられたし、今までの作品にはなかった新境地も見せてもらって、まだまだ新しいことはやれるんだなあと勇気が湧いた。特に今回は、カーター・バーウェルの音楽にまったく頼らず、緊張感あふれるテンポのいい画面展開だけで観客の興味をグイグイ引っ張っていく。その見事な演出に感動した。最近はどうもキレが鈍ってきていた気がしたので、本来のスリラー作家としての本領発揮ぶりは嬉しい。コミカルなテイストは普段より抑えめだが、ほのかなユーモアも忘れてはいない。

 そして、相変わらず暴力のデザインが素晴らしい。ひとつひとつの打撃の食らい方、飛び散る血の見せ方(あるいは隠し方)が、とにかく惚れ惚れするほどかっこよかった。空気ボンベという新手の殺人道具の描写も面白い。こういう新しいエモノを発見したときのコーエン兄弟は本当に嬉しそうだ。

 こういったタイプの作品だと、これまではかなり「画!」という主張の強いスタイリッシュな画面作りをしてきたコーエン兄弟だが、『ノーカントリー』ではさらに無駄なくシェイプアップされた演出スタイルに進化している。緻密に計算されたかっこいい構図から、すぐにそっけなく人物主体のショットに(移動もしくはパンで)移行できる、活劇的な潔さを獲得しているのだ。撮影監督ロジャー・ディーキンスの仕事がまた際立っている(『ジェシー・ジェームズの暗殺』同様、カメラオペレーターを兼任)。本作にも出演しているトミー・リー・ジョーンズの監督作『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(2005)にも共通する、荒れ地の光の捉え方が興味深かった。

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 キャスティングはもう、言うまでもなく完璧だ。巷で話題のハビエル・バルデムの迫力は、まさに絶品。ホントに劇中とんでもなくブサイクに見えるショットもあって、『ハモンハモン』(1992)や『ゴールデン・ボールズ』(1993)からは随分遠くへ来たもんだなあと思いつつ、流暢で研ぎ澄まされた英語の台詞回しも含め、動物的で重量感のある芝居が美しかった。主人公ジョシュ・ブローリンの70年代アクション俳優然とした精悍な侘まいもいい。きびきびしたアクションとミニマルな感情表現が魅力的。南部訛りを見事にマスターしたスコットランド人女優ケリー・マクドナルドの演技も特筆ものだ。脇に回って最大限の存在感を発揮するウディ・ハレルソンのスターぶりも素晴らしかった。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)では無軌道な殺人鬼を演じていたのに、本作では……。

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 トミー・リー・ジョーンズも、監督作『メルキアデス?』で自ら決定付けた、古きアメリカの記憶を皺に刻む“フロンティアの男”のアイコンとしての役割を、見事に果たしている。コーエン兄弟が近年とみにこだわっている「アメリカの神話性」を今回託されたのが、ジョーンズの存在感ではないだろうか。ただし、路頭に迷わせるために。

 あの後半の見せ方には、やっぱり唖然とした。それまで凄くワクワクしながら観ていただけに、ポカンとするしかなかった。あれがよかったとは思わないけども、ショッキングなやり方で観客を作品のテーマへ導いてみせる手口としては成功しているとは思う。どう理解していいか分からない=どうこの世の中を生きていけばいいのか分からない、という困惑が、この映画の最後で観客がたどり着くべき気分だからだ。映画的に心地好い省略などでは、もはやない(できるのにしない)。こういう荒業はポッと出の新人監督には許されない暴挙だろうし、逆に、あれだけ「フォーム」にこだわってきた作家のコーエン兄弟がやるからこそ、この暴力的なまでのスッ飛ばし方が効くのだと思う。

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 『セブン』(1995)でさえ、デイヴィッド・フィンチャー監督はモーガン・フリーマン扮する老刑事に微かな希望を呟かせたのに、コーエン兄弟はジョーンズの所在なさげな表情で映画を断ち切ってしまう。まさしく老人が所在を失う世界の物語だから当然だ。いろんな意味で挑戦的で、少なくとも2回は観なくては、という気持ちにさせる映画だった。

・Amazon.co.jp
DVD『ノーカントリー』スペシャル・コレクターズ・エディション
原作本『血と暴力の国』 by コーマック・マッカーシー(扶桑社ミステリー)


製作/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、スコット・ルーディン
監督・脚本/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作/コーマック・マッカーシー
撮影監督、カメラオペレーター/ロジャー・ディーキンス
プロダクションデザイン/ジェス・ゴンクール
衣装デザイン/メアリー・ゾフレス
編集/ロデリック・ジェインズ(ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン)
音楽/カーター・バーウェル
出演/ジョシュ・ブローリン、ハビエル・バルデム、ケリー・マクドナルド、トミー・リー・ジョーンズ、ウディ・ハレルソン、ギャレット・ディラハント、テス・ハーパー、スティーヴン・ルート

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