Simply Dead

映画の感想文。

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『28週後…』(2007)

『28週後…』
原題:28 Weeks Later...(2007)

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 傑作。とにかく脚本がよくできてる。緊張感の途切れない演出も素晴らしいし、役者もみんないい。ダニー・ボイル監督のヘタクソな演出に唸った前作『28日後…』(2002)よりも百倍面白い秀作だ。なんなら前作を観ないまま本作から観てもらっても一向に差し支えない。今のところ2008年のベスト1(ちょっと早いけど)。

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 舞台は前作『28日後…』と同じく、強力な伝染性ウィルスによって人々が発狂し、あっという間に壊滅状態に陥ったイギリス。さっきまで普通に生活していた隣人が、血肉に飢えたゾンビまがいの暴徒と化すという、ジェームズ・ハーバートの恐怖小説『霧』を思わせる世界だ。感染者はやがて飢餓で死に絶え、数少ない生存者はロンドン中心部に集まって復興を目指す。だが、沈静化したはずのウィルスが再び発生。人々は狂暴な感染者の群れのみならず、味方であるはずのNATO軍による「理性的措置」にも襲われながら、ロンドン脱出を試みる。

 スケールの大きいパニックシーンや都市破壊、そして凄絶なスプラッタ描写をふんだんに盛り込みながら、『28週後…』は実にストレートかつ計算の行き届いた“悲劇”として作られている。映画の中では数々の悲惨な出来事が起こるが、その前後の組み立てが非常に丹念かつ見事なのだ。オデュッセイア的な一直線の物語に、ドラマティックな不運の連鎖を巧みに配置する構成力の素晴らしさは、近頃ちょっと例を見ない。ホラー映画の見せ場である死や流血を、単なるショックシーンに終わらせていないのだ。

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 もちろん本作は、血反吐をまき散らしながら狂人の群れが襲ってくるホラームービーであり、緊迫感に満ちたサバイバルストーリーである。そんな企画において、監督に抜擢されたフアン・カルロス・フレスナディージョは、ストイックかつシリアスな演出で、家族や人間性といった普遍的なテーマを強固に貫く。念願の再会を果たした一家族が、文字通り血みどろに引き裂かれるエクストリームな崩壊劇を通して。人の善意や正義感といったものが、次の瞬間には無惨に断ち切られ、叩き潰されるさまを容赦なく映しながら。

 それでも人は人らしくあろうとし、みんなが助かるために懸命に努力し、あと一歩のところで血だるま・火だるまになって死んでいく。どんな皮肉な末路が待とうとも……。これこそが“悲劇”である。ヒューマニズムと深い諦観が混然一体となった本作の悲劇性は、うっとりするほど魅力的だ。そのシビアな諦観はまた、かつてなかった新鮮な終末観を提示してもいる。

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 『28週後…』は、もし人類が破滅を迎えるなら、それは「人間性」によって導かれるのではないか、という物語でもある。

 この映画の登場人物たちは、過酷なサバイバルの中で人間らしい愛情や善意を見せた途端、悲運に襲われる。普通なら尊ぶべき行為が地獄絵図の引き金となる。だからといってその行為を愚かだとか迂濶だとかいった分かりやすい悪意でせせら笑うのではなく、「人間だから仕方がない」という穏やかな諦めをもって描いている。そこが新しい。

 狡猾で冷酷な人間だけが生き延びる、という紋切り型の映画にもなっていない。一度は妻を見捨てて生き残った夫も、再会した妻に涙ながらに抱きついて許しを乞うた結果、最悪の事態を招く。NATO軍は一般人も巻き込んだ非情な掃討作戦を強行するものの、結局は誰かの良心が作戦に穴を開ける……。人類はその特質である善意をもって、ひたすらに滅びの道を転がり落ちていくのだ。性善説にもとづいた終末ホラー、というのは珍しいのではないか。

 ゆえに、陰惨な内容であるにもかかわらず、殺伐としたドライな映画にはなっていない。むしろ優しさや愛情や弱さといったヒューマニズムを丹念に描き込んであるからこそ、悲劇性や恐怖はより際立つ。そして罪のない少年少女をドラマの中心に据えることで、視点に瑞々しい純真さも加わっている。ジョン・マーフィの悲哀に満ちた音楽がまたいい具合に無常観を盛り上げてくれる。つくづくよくできた映画だと思う。

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 ホラーとしての満足度も高い。盛大に血が吹き出す残虐描写や、感染者たちのアクション指導も徹底していて、襲撃シーンは前作を遥かに凌ぐ迫力だ。また、前作はビデオ撮りだったが、今回はフィルム感のあるドキュメンタリータッチの映像が効果を上げている。全力疾走する人物にぴったり横付けして追うカメラワークも面白い。『28日後…』で最も魅力的だった、誰もいないロンドン市街のシュールな雰囲気も、今回はよりスケール豊かに映像化されている。

 ゾンビ映画の命題とも言えるアクチュアルな軍批判/大国批判もしっかり盛り込んである。逃げ惑う人々に対してNATO軍が無差別銃撃を行うシーンでは、誰しも一度はニュース映像で見たことのある、敵味方の区別もつかない軍による弾圧のイメージが巧みに再現される。中盤のロンドン市街が火の海と化す爆撃シーンは、中東諸国への無差別攻撃を揶揄しつつ、大戦中のイギリス国民の悪夢を再び蘇らせるようであり、不気味な美しさすら湛えていて素晴らしい。

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 出演者も全員が好演。ロバート・カーライルの頑張りには頭が下がる。『ホワイト・ライズ』(2004)の切ないヒロイン役が印象深いローズ・バーンの好演も嬉しかった(全然イメージ違うけど)。米軍特殊部隊のスナイパー役に扮したジェレミー・レナーもかっこいい。でも個人的にいちばんインパクトが強かったのは、姉タミーを演じたイモージェン・プーツ。あまりに美人すぎてノックアウトされてしまった。顔のパーツがいちいち派手なのでモデル系の人なのかと思ったら、演技もちゃんとできるし、泣き顔も綺麗。この人の顔を見ているだけで飽きなかった。

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 ダニー・ボイルの力量では到底、ここまで力強い映画は撮れなかっただろう。スペイン勢へのバトンタッチは正解だった。英国製ホラーとしては、『ディセント』(2005)に並ぶ傑作だと思う。珍しく劇場で2回も観てしまった。これからもホラー映画のオールナイトなどで繰り返し上映されてほしい、心に残る名作だ。

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DVD『28週後…』特別編


監督/フアン・カルロス・フレスナディージョ
製作/エンリケ・ロペス=ラビニュ、アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
製作総指揮/ダニー・ボイル、アレックス・ガーランド
脚本/ローワン・ジョフ、フアン・カルロス・フレスナディージョ、エンリケ・ロペス=ラビニュ、ジーザス・オルモ
撮影監督/エンリケ・シャディアック
プロダクションデザイン/マーク・ティルデスリー
編集/クリス・ギル
音楽/ジョン・マーフィ
出演/ロバート・カーライル、イモージェン・プーツ、マッキントッシュ・マグルトン、キャサリン・マコーマック、ローズ・バーン、ジェレミー・レナー、ハロルド・ペリノー、イドリス・エルバ


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