原題:The St.Valentine's Day Massacre!(1967)

禁酒法時代のシカゴで、ギャングたちがマシンガンで一斉に“処刑”された1929年の「聖バレンタイン・デーの大虐殺」事件を題材にした、実録ギャング映画の佳作。監督はBムービーの帝王、ロジャー・コーマン。暗黒街の抗争劇がいかにして血まみれの結末を迎えていったかを、ナレーションを効果的に使ったソリッドな演出できびきびと綴っていく。脚本はSF雑誌「アメージング・ストーリーズ」の元編集者で、テレビドラマの脚本も数多く手がけたハワード・ブラウン。アル・カポネを始め、殺し屋から巻き添えを食って死んだ修理工まで多数のキャラクターを登場させ、それぞれの背景を説明しつつ巧みに交通整理し、クライマックスへと導いていく手腕が見事。
本作はコーマンが大手映画スタジオの20世紀フォックスに招かれて撮り上げた初めての“Aムービー”でもある。低予算のAIP作品ではなかなか組めないセットをふんだんに使った20年代シカゴのビジュアルも見どころだ。
刺激的なバイオレンス描写を差し挟みながら、ギャング同士の抗争劇をテンポよく綴る本作を観ながら真っ先に思い出すのは、もちろん『仁義なき戦い』(1973)である。スピーディーな筋運びや実録物スタイルの形式もそうだが、人物やドラマに対する乾いた態度も似ている。深作欣二はきっとこの映画を観ていたに違いない、と思わずにはいられない。ヤクザ者の下卑た人間性や病んだ暴力性を「当然のこと」としてスクリーン上に映し出す現代感覚のリアリズムは、コードに縛られたメジャースタジオの“お上品な”監督には真似のできない、直截的でためらいのない悪意が迸っていて痛快。早撮りの達人らしい「コクのなさ」も小気味いい。
▼アル・カポネ役のジェイソン・ロバーズ

マイク・ホッジス監督のファンとしても、この映画は見逃せない。『ブラック・レインボウ』(1989)のジェイソン・ロバーズと、『電子頭脳人間』(1974)のジョージ・シーガルの共演作だからである。アル・カポネを演じるジェイソン・ロバーズは、実物のカポネ本人を意識した強烈なメイキャップを施し、さながらアンソニー・クインとハンフリー・ボガートを足して2で割ったような風貌で、凶暴な熱演を見せている。本物のカポネは丸顔なので似ているわきゃあないんだけど、そんなことはお構いなしの迫力で観る者を圧倒する。瓢々とした味わいのある演技派ロバーズが、こんなにテンションの高い(暑苦しい)芝居をしているのも珍しい。
▼右がピート役のジョージ・シーガル

対するジョージ・シーガルは、若さに任せてカポネの組織に喧嘩を売る凶犬ヤクザ・ピートを悠々と快演し、本作で最も鮮烈な印象を残す。この人もまた、しょぼくれた中年を演じさせたら最高という従来のイメージを覆す、爬虫類のような芝居で嬉々としてチンピラになりきっている。そのユーモラスな憎々しさは絶品。金遣いの荒い愛人と延々とケンカを繰り広げるシーンも面白い(こういう場面をちゃんと盛り込むのが偉い)。また、カポネと敵対するボス役を『キッスで殺せ』(1955)に主演したラルフ・ミーカーが演じ、チョイ役でブルース・ダーンも顔を見せる。『血のバケツ』(1959)の常連ディック・ミラーももちろん出演。
そしてクライマックスは待ってましたの大虐殺!……なのだけど、それまでの展開同様にアッサリてきぱき手際よく処理されてしまうので、今見ると呆気なくも思える。コーマン門下のフランシス・フォード・コッポラ監督が、後に同じ事件をモデルに『ゴッドファーザー』(1971)で描いた、とことんドラマチックなクライマックスほどには当然盛り上がらない。しかし、さんざん無感情な演出を貫いておきながら、映画の幕切れで「暴力の連鎖は今も終わったわけではないのだ! ジャジャーン」みたいな心のこもらない警句でシメるのは、さすがコーマン師匠! という感じで素晴らしかった。
どうでもいい話だけど、この映画はレーザーディスクの初期にCBS/FOXが発売したLDオンリー商品のひとつだった。他にはジョン・G・アヴィルドセン監督の『ジェネシスを追え!』(1980)とか、リチャード・レスター監督の『ローヤル・フラッシュ』(1975)とかがあった。僕はたまたまブックオフで見つけて、もう寿命ギリギリのディスクで観たけど、わりかし画質もよくてトリミングも気にならなかった。とはいえ今月にはノートリミング版のDVDが発売されるので、なんの価値もなくなってしまうけど。
・Amazon.co.jp
DVD『聖バレンタインの虐殺/マシンガン・シティ』
製作・監督/ロジャー・コーマン
脚本/ハワード・ブラウン
撮影/ミルトン・クラスナー
音楽/アルフレッド・ニューマン
出演/ジェイソン・ロバーズ、ジョージ・シーガル、ラルフ・ミーカー、ジーン・ヘイル、クリント・リッチー、ブルース・ダーン、ディック・ミラー

