
今から500年後の地球は「バカの惑星」になっていた! という恐るべき未来を描いた爆笑SFコメディ。もちろん『猿の惑星』(1968)のパロディだが、あながち笑い事でもないんじゃ……と思わせる、現代のリアルな不安を切り取った秀作である。監督は『ビーバス&バットヘッド』や『キング・オブ・ザ・ヒル』などの人気アニメを生み出した異才、マイク・ジャッジ。実写長編映画としては『リストラ・マン』(1999)に続く待望の第2作だ。本作ではナレーションを多用したトールテイル(ホラ話)のような語り口で、異世界に放り出された主人公の災難と冒険をテキパキと綴っていく。
主演はハリウッドNo.1のかませ犬俳優、ルーク・ウィルソン。「世界一知的な娼婦」となるヒロインに扮するのは『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006)での好演も印象深いマヤ・ルドルフ。ダックス・シェパードを始め、未来世界のバカたちを演じる役者のツラ構えと熱演も見ものだ。『ようこそ☆おちこぼれカレッジ』(2006)のジャスティン・ロング、『スパイダーマン3』(2007)のトーマス・ヘイデン・チャーチ、マイク・ジャッジ作品の常連俳優スティーヴン・ルートもカメオ出演。

ちなみにダックス・シェパードといえば、恋人ケイト・ハドソンとの熱烈キス写真がスクープされ、それを見たオーウェン・ウィルソン(ルークの兄)が自殺未遂! という罪なウワサを背負う男。のちにダックス自身もこっぴどくフラれたらしい。『Idiocracy』にはルークとオーウェンの兄アンドリュー・ウィルソンも飛び道具的キャラで登場(役名はビーフ)。世界は狭い。
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〈おはなし〉
西暦2005年。陸軍資料室勤務のジョー(ルーク・ウィルソン)は、全てにおいて平均的な男。出世欲もなく、家族も恋人もなく、いなくなったところで誰も気にとめない人物である。そんな素質が軍上層部の目にとまり、彼は人体実験の被験者として1年間ポッドの中で人工冬眠することに。「軍のやることだから安心さ」となんら疑いを持たず、同じく被験者にされた街娼リタ(マヤ・ルドルフ)と共に眠りに就くジョー。だが、実験はあるスキャンダルがもとで中止となり、2人が眠るポッドは粗大ゴミとして葬り去られた……。
時は流れて、西暦2505年。ある日、グランドキャニオンのごとく積もり積もったゴミの山がふとした拍子に崩れ、濁流となって町に押し寄せる。そのゴミの中から現れたのは、人工冬眠から目覚めたジョーであった。彼は間もなく衝撃の事実を知る……500年の間にアメリカでは少子化傾向が進み、代わりにホワイトトラッシュの子孫ばかりが繁栄。さらにハイテク社会が人々の生活を怠惰に導き、テレビとジャンクフードが思考力を奪っていった。もはや地上に、ジョーよりIQの高い人間は生き残っていなかったのだ!
ジョーはバクレツに頭の悪い青年フリトー(ダックス・シェパード)の助けを借り、同じく覚醒したリタと共に、タイムマシンで2005年に戻ろうとする。さすがに500年も経てばタイムマシンくらい開発されているはずだ! しかし、社会が彼ら異分子を放っておくはずがなかった。警察に捕えられたジョーが連れて行かれた先は、なんとホワイトハウスだった!
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見どころはやはり、マイク・ジャッジならではのシニカルなセンスで構築された未来世界。国民は全てハイテクに依存した怠け者で、テレビ漬けのため思考力や機知のかけらもない。みんな知能指数は似たり寄ったりなので、誰でも弁護士や医者になれる。主人公が普通の言葉遣いで喋っていると、なんとなくインテリっぽく聞こえるので「カマくせえ!」と一斉にバカにされる。
▼未来の人々には主人公が右のように見えている

ファミレスの看板には卑猥な言葉が平気で書かれてるし、スターバックスは風俗店になっている(メニューが秀逸!)。飲料水は全てゲータレードで、農業用水にまでゲータレードを使っているので、食糧危機も深刻化。マッチョな黒人大統領は元プロレスラーだ(名前はカマッチョ)。いちばん笑ったのは、ウェイン町山さんも「映画秘宝」のポッドキャストで言っていたけど、FOXニュースチャンネルのキャスターが筋肉ムキムキのボディビルダーだったという場面。20世紀フォックス製作の映画なのに!
▼歴代大統領がプリントされる紙幣も、500年後にはこんな感じ

マイク・ジャッジが偉いのは、「めんどくさい」という思考回路が世界を破滅に導く、という真実を鋭く突いている点だ。めんどくさいから本は読まない、めんどくさいから他者と関わらない、めんどくさいからプライドを捨て自堕落になる、めんどくさいから子どもを教育しない、めんどくさいから性病検査には行かない、めんどくさいから世界がどうなっても構わない。そして文明は滅びていく。別にアメリカのホワイトトラッシュや発展途上国のスラムに限った話ではない。日本でもそういった短絡的思考による犯罪や、自動キャッシングマシン普及のおかげで簡単に借金漬けになる大人は増える一方だ。マンガ的なカリカチュアで描いてはいるものの、行き着く先はこうなのだという終末ビジョンは極めてリアルな危機感を伴っている。『猿の惑星』よりずっと真実味がある話だ。
自分も含めて、世の中が便利になるにつれ、だんだん脳のはたらきが鈍化しているんじゃないか、と思うこともある。普段の生活の中でも、たとえば電車の自動改札をPASMOとかで通り抜けようとしてゲートが閉じてしまった時、ネアンデルタール人みたいな勢いでカードをバンバン叩きつけている人を見たりすると、「あっ、イディオクラシーきてるな」と思う。

マイク・ジャッジは一貫して、エリート富裕層とは程遠い今のアメリカの市民像を、痛烈な風刺精神でリアルに描き続けてきた。MTV漬けのバカ少年コンビを主役にした『ビーバス&バットヘッド』、テキサス在住の平凡な白人一家とその周辺の珍騒動を綴る『キング・オブ・ザ・ヒル』、無気力なサラリーマンの反逆を描いた『リストラ・マン』。そこはかとない愛を込めつつ、つとめて突き放した視線で彼ら(というか僕ら)凡人の存在を世間にアピールしてきたマイク・ジャッジも、さすがに「もうちょっと、ちゃんとしようぜ」と言う時代になったのだ。もちろん堅苦しい説教ではなく、すこぶる愉快なコメディとして上手にメッセージを投げかけてくれる。まさしく人類のためになる良作だと思うのだが……。
アメリカではろくすっぽ宣伝もされないまま限定公開され、口コミが広がるのも待たずにさっさと劇場から引き上げてしまった。日本ではビデオスルーすらされない始末。これを企業の陰謀と言わずして何と言おう?
ちなみに、最後はアメコミヒーロー映画かと思うような超かっこいいラストが待っているので、エンドクレジットが終わるまで見逃さないように。
・DVD Fantasium
DVD『Idiocracy』(米国盤)
製作/マイク・ジャッジ、エリサ・コプロヴィッツ
原案・監督/マイク・ジャッジ
脚本/マイク・ジャッジ、イータン・コーヘン
撮影/ティム・サーステッド
プロダクションデザイン/ダーレン・ギルフォード
音楽/セオドア・シャピロ
出演/ルーク・ウィルソン、マヤ・ルドルフ、ダックス・シェパード、テリー・アラン・クルーズ、デイヴィッド・ハーマン、ジャスティン・ロング、トーマス・ヘイデン・チャーチ、スティーヴン・ルート、アール・マン(ナレーター)

