Simply Dead

映画の感想文。

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『放・逐』(2006)

『放・逐』(2006)
英語題:Exiled

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 ジョニー・トー監督の最高傑作。ここに来て今年のベストワンに出会ってしまった。今、俺がこの映画について言える事といったら、「干涸びるくらい泣いた」とか「かっこよすぎて爆死しそうになった」とか、実に抽象的な言葉でしかない。とにかく観てもらわない事には素晴らしさが伝わらない映画なので、仕方ない。

 もし無理矢理、解説みたいなもんを付け加えるとしたら……『放・逐』では、ジョニー・トー監督がこれまでこだわり続けてきた男たちの絆のドラマが、完全にファンタジーとして昇華されている。リュ・スンワン監督が『相棒 シティ・オブ・バイオレンス』(2006)で惜しくも到達しきれなかった領域へ、完璧に届いているのだ。おなじみのガンアクションも、もはやクールでもリアルでも地味でもない。『レジェンド 光と闇の伝説』(1985)ばりの熱く壮麗なファンタジーである。そして今や観客の心をしびれさせるのは銃撃戦そのものではなく、戦いの火蓋が切られる一瞬前の舞台設計、そのバロック的でありつつ透徹した演出なのだ。

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 何よりも本作『放・逐』は、『鎗火(ザ・ミッション 非情の掟)』(1999)でジョニー・トー作品にイカれてしまった者にとって、最高の贈り物である。アンソニー・ウォン、ン・ジャンユー、ラム・シュ、ロイ・チョン、そしてサイモン・ヤムといったキャストを再集結させてくれたことだけでも嬉しいが、『放・逐』は僕らが『鎗火』で胸打たれたエッセンスをも蘇らせ、より成熟した語り口で増幅させているのだ。言葉など必要なくても通じ合う絆。忠義を裏切っても守るべき友情。悪戯心を捨てきれない男たちの少年性。それらを再び、『鎗火』の彼らが演じてくれるのである。あのぶきっちょな笑顔で。新加入メンバーのニック・チョンも、監督の期待に応えて好演を見せている。

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 重要なのは、本作が決して「力作」ではないということ。演出も、役者の芝居も、いい具合に肩の力が抜けている。それでいて隙がない。ストーリーもまたシンプルで、ユーモアに溢れ、「そりゃないよ?」と笑わせつつも完璧だ。一見いきあたりばったりな無駄のなさというか。中盤の意表をつく展開から、まさかのリッチー・レン登場へ至る一連のシーンは最高におかしいが、これも伏線あっての賜物。写真や空き缶といった小道具の使い方も心憎いばかりだ。普段のジョニー・トーなら忘れてしまいそうな娼婦のエピソードまで見事に回収しているのには驚かされた。そこに生硬さは微塵もない。

 最近はどの作品にも濃厚なノワール要素(心の闇)が感じられたジョニー・トー作品だが、『放・逐』にはそれが希薄で、ひたすらクラシックな男のロマンを美しく奏でることに力が傾けられている。『鎗火』ファンにはそれが嬉しい。もちろん『PTU』(2003)や『エレクション』二部作(2005?06)の厳しさにも打たれるわけだが、正直言って、生涯愛すべき癒しの1本となりうるのは『鎗火』であり『放・逐』である。今月発売された「映画秘宝」のオールタイムベストで、滝本誠氏が早々に『放・逐』をランクインさせていたのも頷ける。

 『放・逐』は、ジョニー・トーが満を持して挑んだ『ワイルド・バンチ』(1969)のリメイクとも言える。その難関を実に軽やかな演出タッチで達成している点が凄い。そういえば「1人の女を救いに行く5人の男」というプロットは、その昔、竹中直人が石井隆監督に持ちかけた『GONIN』(1995)の原案によく似ていると思った(こっちは4人だけど)。

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 東京フィルメックスではチケットが取れずに見逃してしまったので、英文字幕の輸入DVDで観たが、ちょっと後悔した。これは絶対にスクリーンで観た方がいい。来年の劇場公開が心から待ち遠しい。

追記:2008年12月、『エグザイル/絆』という微妙なタイトルで劇場公開。


製作・監督/ジョニー・トー
脚本/セット・カムイェン、イップ・ティンシン
撮影/チェン・チュウキョン
編集/デイヴィッド・リチャードソン
出演/アンソニー・ウォン、ン・ジャンユー、ラム・シュ、ロイ・チョン、ニック・チョン、ジョシー・ホー、サイモン・ヤム、エレン・チャン、リッチー・レン

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