Simply Dead

映画の感想文。

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『カインド・ハート』(1949)

『カインド・ハート』
原題:Kind Hearts and Coronets(1949)

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 貴族の血を引きながら貧しい生活を強いられてきた青年紳士が、爵位を得るために他の後継者たちを次々に抹殺していく……。英国イーリング・コメディを代表する名作のひとつが、ついに日本で初ソフト化。喜劇映画史上でもなかなか類を見ない、おそろしく冷酷なサクセスストーリーがひたすら優美に展開する、しびれるような傑作だ。

 監督・共同脚本はロバート・ヘイマー。死刑執行を控えた主人公の回想録という形式を取り、極めて冷静かつエレガントな語り口で、大胆不敵な連続殺人とおかしな出世劇をテンポよく描いていく。シンプルで抑制の利いたトーンを貫き、急ぎもせず遅れもしない演出の歩調が心地好い。全編に底意地の悪さを行き渡らせつつ、しれっと突拍子もないギャグをかましてきたり、観客の倫理観もマヒしてきたところでショッキングな殺害シーンを用意したりする(それでも画面には一滴の血も映さない)。さらに、ラブシーンでは濃密な色気まで立ち上らせるのが凄い。特にエンディング。あの導入でこのラストか! というアダルトなムード、セクシーな洒落のめし方にはぶっ飛ばされた。

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 主役を演じるデニス・プライスの冷血漢ぶりが何しろ痛快。モラルなど最初からインプットされていない怪物のようなキャラクターを、軽妙かつ知的に、嫌味にならない上品さで悠々と演じ上げている。機械のように無駄のない動作、そして素晴らしい美声も驚愕モノ。自身も高貴の生まれながら役者を目指したという人だから、こんな役はお手の物だっただろう。2人のヒロインを手玉に取る色男ぶりにも説得力がある。スペインの奇才ジェス・フランコ監督の作品や、マイク・ホッジス監督の『Pulp』(1972)で見せた怪優のイメージが強かったけど、若い頃からすでに相当な個性派だったことがこの映画ではっきり分かった。

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 1人8役を演じ分けるアレック・ギネスの変身も見どころ。見事なメイキャップの助けを借りて様々なキャラクターになりきり、ただひたすら主人公に殺されていくだけという役者冥利に尽きる(?)仕事を心底楽しんでいる。老人役や高慢な貴族役などは、さすがに自家薬籠中のものといった感じだが、中でも飛び道具的に出てくる女性運動家のキャラクターが凄い。まあ元がアレック・ギネスだから美人にはなり得ないものの、いきなり杖で窓ガラスを割ったりする無茶苦茶なキレキャラで、気球に乗ってビラを撒きに行って主人公に矢で撃ち落とされるという壮絶なオチを迎える。登場シーンが少ないのが残念。でも、いちばんいいのは、8人の中で最も素に近い状態で演じたキャラ……平凡で善良な、殺されなくてもよさそうな好人物だったりする。

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 タイプの違う2人のヒロインを演じるジョーン・グリーンウッド、ヴァレリー・ホブソンも魅力的。特に、主人公の幼なじみで、彼に相通じる打算的な性格を併せ持つ、シベラ役のグリーンウッドが絶品だ。シニカルで背徳的なラブシーンの素晴らしさは忘れがたく、映画の終盤は彼女が全てをさらっていく。

 白黒ながら絵画のような撮影は、『ラベンダー・ヒル・モブ』(1951)も手がけたダグラス・スローカム。ユニバーサル・セレクションの1本として発売された日本盤DVDは、字幕の省略とタイミングにちょっと違和感を覚えるところもあるが、画質も音質も良好。そもそもリリースされたこと自体が快挙である。この調子でアレクサンダー・マッケンドリック監督の『The Man in White Suit』(1951)とかもソフト化してほしい。(追記:09年に『白衣の男』として、めでたく初DVD化)

・Amazon.co.jp
DVD『カインド・ハート』

 ちなみに米クライテリオン社から2006年に発売された2枚組エディションDVDには、アメリカ公開版の別エンディングが収録されていた。(以下、ややネタバレ)


 ……といっても、ラスト1カットが差し替えになっているだけで、意味的には変わらない。要するに、よりはっきりと主人公に法の裁きが下る事を強調した終わり方になっていて、オリジナル版のスマートな締め方に比べると、なんとも野暮ったい感じがした。クライテリオン盤は、映画本編も目に痛いほどシャープで美しいが、特典ディスクの内容も盛りだくさん。イーリング・スタジオの歴史を綴った長編ドキュメンタリーと、アレック・ギネスが出演した貴重なTVトークショーの映像が収録されていて、非常に面白い。

・DVD Fantasium
DVD『Kind Hearts and Coronets』クライテリオン・コレクション(米国盤)

製作/マイケル・バルコン
監督/ロバート・ヘイマー
脚本/ロバート・ヘイマー、ジョン・ダイトン
原作/ロイ・ホーニマン
撮影/ダグラス・スローカム
出演/デニス・プライス、ジョーン・グリーンウッド、ヴァレリー・ホブソン、アレック・ギネス
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