Simply Dead

映画の感想文。

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『ブレードランナー』ワークプリント(1982)

『ブレードランナー』ワークプリント
原題:Blade Runner(1982)

bladerunnerworkprint_title.jpg

 先日めでたく発売された『ブレードランナー』アルティメット・コレクターズ・エディションDVD。そのリリースの報せが全世界を駆け巡った時、おそらく最もマニア心をくすぐったのが、この「ワークプリント」収録のニュースだったろう。公開前のテスト試写で上映され、当時の観客からさんざんな反応を得たことから、再編集・ナレーション追加・エピローグ追加を余儀なくされたという、曰く付きのバージョン。のちにこれが限定上映された際に大きな反響を呼び、ディレクターズ・カット版が製作されるきっかけとなった。以降、リドリー・スコット監督はこの「ワークプリント」のコンセプトに立ち戻り、「最終版」そして「ファイナル・カット」を製作している。それは研きあげられる前の原石であり、のちの全てのバージョンから失われた独自のトーンもそこにあるはずだった。

 ワークプリントというのは映画が完成する前に作られる荒繋ぎの試作品であり、普通は試写などで使われる以外は、門外不出のものである。本来なら、映画の作り手の立場としては、わざわざ観客の目に触れていただかなくてもいいものなのだ。音楽などに仮トラックとして他作品の素材や無許可の素材を使っている場合もあり、そのままでは権利関係的にソフト化できないこともある。『ブレードランナー』のワークプリントはまさにそうだった。それがこうしてオフィシャルなかたちでリリースされること自体が異例だし、『ブレードランナー』ファンの間で「ワークプリント」の存在が特別大きなものであった、という証左でもある。

 クオリティについては全然、期待していなかった。一時は劇場で隠し撮りした劣悪な海賊版テープも出回っていたらしいが、そこまでとは言わなくても、なんならタイムコード入りのビデオ素材でも構わない(逆にそっちの方が雰囲気出るかな?)とか思っていたくらいだ。しかしDVDでは非常に鮮明なリマスタリングが施されており、「ワークプリント」単品でもしっかり商品になりそうな状態だった。そしてドキドキしながら観てみると……なるほど、全然違う!

▼相当ヒドイ目に遭っていたことが分かるホールデン(モーガン・ポール)
blade_runner_holden.jpg

 前に「ファイナル・カット」を観た時、カッティングも『ブレードランナー』の大きな魅力のひとつだ、と書いた。「ワークプリント」ではそのカッティングが若干ユルいのである。例えばホールデンがリオンに撃たれるシーンでは、隣室のデスクに叩きつけられるカット尻が妙に長かったりする。あれは一瞬だからこそ鮮烈だったのに(まあロストフッテージが長く見られるのは嬉しいけど)。逆にレイチェルがリオンを撃ってしまう場面は、撃ったあとの余韻が短すぎる。全体的な印象としては、わりと普通のハリウッド映画っぽい編集になっていた。

 いくつかの印象的なキーショットも存在しない。冒頭の眼の中に映り込むロサンジェルスの光景、デッカードの部屋で髪をほどき始めるレイチェル、等々。ワークプリントのランニングタイムは110分と、他のバージョンより6?9分ほど短めである。オープニングも簡潔な別バージョンだし、エンドクレジットが省略されているせいもあるが、ここから完成版までの間に、編集でかなり細かく膨らませたことが分かる。

blade_runner_rachel.jpg

 また、音響面での違いも顕著で、最終的なダビングを行う前なのでSEが違ったり、ボリューム調整やエフェクトが不完全だったりするところも多々ある。他のバージョンとは音楽が異なるシーンも少なくない。特に目立ったのは、デッカードとレイチェルのラブシーン、そしてデッカードとロイの対決を描くクライマックスだ。

 前者はレイチェルが弾くピアノの曲から違っていて、続く強迫的なキスシーンにかかるスコアも、やや陰鬱な印象を与える曲になっている(ちょっとハンス・ジマーっぽい)。クライマックスに至っては、ヴァンゲリスの曲は全く使われておらず、仮トラックとしてジェリー・ゴールドスミス作曲の『猿の惑星』や、ジェームズ・ホーナー作曲の『モンスター・パニック』や『キラーハンド』などの音楽が使われている。ここだけ急に、普通のサスペンス・アクションのようなオーケストレーション・スコアが盛大に鳴り響き始めるので、えらい違和感がある。さらに、DVDはワークプリントとはいえ音響もかなりクリアーになっているので、はっきり聞こえる分、余計おかしい。『ブレラン』愛好家はまずズッコケる部分だと思う。

 ここでは完全に権利元の違う音源が使われているので、その手続きをクリアして(つまりかなりの権利金を支払って)そのまんまソフト化しているのだから、スゴイとしか言いようがない。要するに全く作品のためになっていない部分に、ファンの期待に応えるため、えらい金と労力を注ぎ込んでいるのだから。

▼監督と主演スター、誤解を招きそうな撮影中のひとコマ
blade_runner_strungle.jpg

 まあ、マニア以外の人が観て面白いものかどうかは分からない。なるほどこりゃまさに未完成版だな、と誰もが思える内容だからだ。しかしファンとしては、そのちぐはぐさを見るのが、逆にすごく面白い。どれほど撮影フッテージが素晴らしくても、編集や音響設計によって映画の印象がどう変わっていくか。ポスト・プロダクションでどのようにして映画が洗練されていくのか。これほど分かりやすく、分析するのが楽しい証拠フィルムもないだろう。

 ワークプリントならではの美点・オリジナルな特徴もいくつかある。音声解説を担当した「メイキング・オブ・ブレードランナー」著者のポール・M・サモンによると、他のバージョンとの違いは70ヶ所以上にものぼるという。以下はアメリカのファンサイト「BLADE ZONE」を参照しながら、個人的に気になった相違点。

●オープニングタイトルが別バージョン。シューッと画面の真ん中を切り裂くスリットから、赤の大文字で「HARRISON FORD」「BLADE RUNNER」とだけ出る。予告編で使われていたのと同じ、2カットだけの簡潔なタイトルデザイン

●レプリカントの解説は、辞書の引用を模したシンプルなもの。世界設定の説明はない

●ロスアンジェルスの空撮ショットに、タイレル社管制官のアナウンスが被さる(のちにデッカードたちがタイレル社を訪れる場面でも使われている)

●ロスアンジェルスの街を見つめる眼のアップショットがない

●タイレル社・外観から、面接室の窓へクロースアップしていくカットがない

●リオンに撃たれたホールデンが壁をぶち破って隣室のデスクに叩きつけられ、キーボードに頭をぶつけるカットが長い。なぜかファンのプロペラが下に落ちてきている

●デッカードが屋台で注文するエビライスの中身が見られる

●デッカードがうどんを食べるカットが長い

●ブライアントの印象的な台詞「昔ながらのブレードランナーが必要なんだ。あんたのマジックが欲しいのさ」がない

●デッカードたちがリオンの部屋を調べに行くシーンで、部屋に入る時にホテルの管理人が「コワルスキ」と声をかける(ファイナルカットも同様)

●エレベーターの中で他人の気配に気付き、銃を向けるデッカード。ワークプリントではレイチェルが「デッカード」と小さく声をかけた瞬間に振り返る。ちょっと無粋な感じ

●デッカードがユニコーンのイメージを思い描くシーンがない

●コンピュータで写真を拡大していくデッカード。窓辺に座るロイの姿に「やあ、ロイ」と声をかける

●ゾーラの拡大写真をプリントアウトしたデッカードが「ゾーラか、プリスか?」と呟く

●アブドゥル・ハッサンとデッカードのやりとりが他のバージョンと違う。タフィー・ルイスの店についても言及しない

●街頭ディスプレイのホッケーマスクダンサーのシーンがある(ファイナル・カットで復活)

●タフィーの店でかかっている音楽が違う

●ゾーラのダンスの前口上が長い

●デッカードがゾーラに締め付けられたネクタイをほどくショットがある

●ゾーラを殺したあと、デッカードが酒を買うシーンで「If I didn't care」というオールドソングが流れる(劇場特報でも使われた)。他のバージョンで流れているのは「One more kiss」という別の曲

●リオンが撃たれるシーンで聞こえる銃声が完成版と違う。撃たれたリオンがデッカードにもたれかかるカット、レイチェルが恐る恐る歩み寄るカットもない

●デッカードのアパートで、レイチェルが弾くピアノの曲が違う

●レイチェルが髪をほどくために頭に手をやるショットがない

●デッカードとレイチェルのラブシーンに流れる音楽が他のバージョンと違う、やや暗いトーンの曲になっている

●ロイがタイレル社長に言う台詞が「Fucker」ではなく「Father」になっている(ファイナル・カットも同様)

●ロイがタイレル社長の目を潰すカットが短い。が、眼窩から血が溢れ出す瞬間は入っている

●ロイが逃げようとするセバスチャンに「Sorry,Sebastian...Come,come」と言う(ファイナルカットでは復活)

●終盤のブラッドベリ・アパートを舞台にしたシークェンスの音楽が、ヴァンゲリス作曲のスコアではなく、全て仮トラックになっている

●ロイがデッカードの指をへし折るアップショットがある

●デッカードがロイに折られた指を元に戻し、痛みに叫びを上げるカットが別テイク

●ロイが自分の掌に釘を突き刺すカットが少ない

●浴室の壁をぶち破って頭だけ出したロイが、デッカードに「痛いか? 痛くないよな」と言う

●ロイの死を見守るデッカードの顔に、彼のモノローグが被さる。ここでは「劇場公開版」「完全版」の無味乾燥なナレーションとは異なる、美しく効果的な台詞が聞ける。曰く――「死にゆく彼の姿を一晩中見ていた。長く、ゆっくりと死は訪れた。彼はあらゆる手段をもって、それと闘ったのだ。涙も見せず、投げ出すこともなく。彼は最期の瞬間まで自分の人生を愛していた。一分一秒、痛みでさえも愛おしく感じただろう。そして、彼は死んだ」

●ラストシーンはエレベーターに乗り込むレイチェルとデッカード。「THE END」のテロップのみで、エンドタイトルはない

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 「ワークプリント」収録の5枚組アルティメット・コレクターズ・エディションは、まさにファン必携のアイテム。3時間半にも及ぶメイキング・ドキュメンタリー「デンジャラス・デイズ」は、秘蔵映像満載の圧倒的なボリュームで、1日中観てても全く飽きない。オクラ入りになった追加ナレーションを中心に構成された「未公開シーン集」も、ある意味すごかった。だから他のものが全然観れない……困った……。

・Amazon.co.jp
DVD『ブレードランナー』製作25周年記念 アルティメット・コレクターズ・エディション(5枚組)【初回限定生産】


監督/リドリー・スコット
原作/フィリップ・K・ディック
脚本/ハンプトン・ファンチャー、デイヴィッド・ピープルズ
製作/マイケル・ディーリー
撮影監督/ジョーダン・クローネンウェス
プロダクションデザイン/ローレンス・G・ポール
アートディレクター/デイヴィッド・スナイダー
衣装デザイン/チャールズ・ノード、マイケル・カプラン、ジャン“メビウス”ジロー(ノークレジット)
特殊撮影効果監修/ダグラス・トランブル、リチャード・ユーリシッチ、デイヴィッド・ドライヤー
ヴィジュアル・フューチャリスト/シド・ミード
マットペインティング/マシュー・ユーリシッチ
編集監修/テリー・ローリングス
音楽/ヴァンゲリス
出演/ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ、ウィリアム・サンダーソン、ジョアンナ・キャシディ、ブライオン・ジェームズ、ジョー・ターケル、エドワード・ジェームズ・オルモス、M・エメット・ウォルシュ、ハイ・パイク、ジェームズ・ホン、モーガン・ポール
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