Simply Dead

映画の感想文。

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『ロバート・アルトマンのヘルス』(1980)

『ロバート・アルトマンのヘルス』
原題:Health(1980)

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 ロバート・アルトマン監督の長編劇映画の中で、最も観るのが困難だった作品のひとつが、この『ヘルス』である。そもそもアメリカでの初公開時には、出資元の20世紀フォックスが配給を拒否し、仕方なくアルトマンと当時のフォックスのマーケティング担当者だったマイク・カプランが自主公開したという、曰く付きの作品だ。以後、その運命は一向に好転しないまま現在に至っている。回顧上映でお目にかかることもなく、いまだにアメリカでもDVD化されず、昔どこかでビデオが出ていたという話も聞かない。いわば80年代のアルトマンの不調を象徴するかのような1本なのだ(後にそれは不当な評価だったことが判明するが)。さすがにこれは永遠に観られないかな……と思ったら、WOWOWであっさり放映してしまった。しかもスコープサイズのノートリミング版、微妙なビデオノイズ感のある出処不明なマスターで。

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〈おはなし〉
 フロリダのとある豪華ホテルでは、H.E.A.L.T.H.こと「健康によってもたらされる幸福と力と長寿」協会のコンベンションが行われていた。メインイベントは、新会長の座をめぐる選挙戦。83歳という高齢にして信じがたい美貌を保つエスター・ブリル(ローレン・バコール)と、理知的な改革論者イザベラ・ガーネル(グレンダ・ジャクソン)の一騎打ちが始まろうとしていた。TVショー司会者のディック・キャヴェットも、中継クルーと共に会場に乗り込み、取材を開始する。

 そこに、ホワイトハウスから大統領の激励の言葉を携えて、政府のオブザーバーとしてグロリア(キャロル・バーネット)がやってきた。彼女はエスター陣営の指揮をとっているのが前夫ハリー(ジェームズ・ガーナー)だと知ってびっくり。さらにエスターが頻繁に気絶状態を繰り返す完全な病人で、言動も支離滅裂であることも知る。が、ハリーはその事実をひた隠す。グロリアはイザベラこそが会長になるべきだと考えるようになるが、彼女にも驚愕の疑惑が浮上。「健康的」とは程遠いスキャンダラスな選挙戦の行方は?
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 全米健康協会のトップをめぐる選挙の行方を、アルトマンは翻弄されやすいヒロイン・グロリアを中心に、馬鹿げた茶番劇として描きのめす。健康ブームの宗教じみた不健全さや、政治の場にたかるうさんくさい人々が標的だ。2人の候補の争いは、50年代のアメリカ大統領選で繰り広げられたドワイト・アイゼンハワーとアドレイ・スティーヴンソンの対決を模しているという。アイゼンハワーにあたるローレン・バコールは、保守派の人気者だが完全なボケ老人で、傀儡にしかなりえない。一方スティーヴンソンにあたるグレンダ・ジャクソンは、高尚な理想主義と巧みな弁舌でインテリ層にアピールするが、巧いことを言いたいだけで実力が伴わないようにも見える。アルトマン自身はスティーヴンソンを支持していたというが、映画の中ではどちらにも等しく皮肉な視線を向けている。安易にリベラル派へ傾くヒロインも、結局は政治にウブな素人であると喝破するのがアルトマンらしい。

 バカバカしく悪趣味なサタイアがユル?く展開する本作だが、時には心胆寒からしめる強烈なシーンも登場する。ひとけのない夜の展示場で、ヒロインが影の実力者を名乗るコディ少佐に恫喝される場面がそれだ。曰く「この国を動かしているのは我々ロビイストだ。大統領じゃない。トップが誰になろうと関係ないが、この選挙は我々が勝つ。一体お前は何様のつもりだ? 全米ライフル協会に連絡して葬ってやる!」。少佐を演じるドナルド・モファットの迫力もあって、このシーンは凄く恐い。映画ではこの後、拍子抜けするようなオチがつくものの、政治の醜悪な実態をつきつけるアルトマンの意図は本気だ。この場面だけでも、『ヘルス』はストレートなアメリカ政治批判として生々しく通用する作品だと思う。

 別にこの映画を幻の傑作だとか必見の名画だとか言うつもりはない。アルトマン作品としてはそこそこ面白いぐらいの佳編である。だからこそ、気楽に見られない現状が逆にもったいない。自称83歳の半壊レディを嬉々として演じる大女優ローレン・バコール、憑かれたようなキャラへの没入度で他を圧倒する個性派グレンダ・ジャクソン、そしてキュートな表情を見せるキャロル・バーネットの好演は、もうちょっと人目に触れてもいいと思う。デビューしたてのアルフレ・ウッダードが演じる、妙にかっこいいホテルの責任者も印象的。

 ちなみに『ヘルス』のオクラ入りを救ったマイク・カプランは、MGMの宣伝部長時代に『BIRD★SHT バード・シット』(1970)で初めてアルトマン作品に関わり、その後も公私ともに交流を保ち続けた。20世紀フォックスでアルトマンが製作した作品には全て携わり、『ビッグ・アメリカン』(1976)では俳優として出演している。後に『ショート・カッツ』(1994)の製作を手がけ、メイキング・ドキュメンタリー「Luck, Trust & Ketchup: Robert Altman in Carver Country」の監督も務めた。また、イギリスで黙殺されかけたマイク・ホッジス監督の傑作『ルール・オブ・デス/カジノの死角』(1998)をアメリカに紹介し、成功に導いたのも彼。同作を観たアルトマンは、主演俳優クライヴ・オーウェンを『ゴスフォード・パーク』(2002)に抜擢し、スターダムにのし上げた。


製作・監督/ロバート・アルトマン
脚本/フランク・バーハイト、ロバート・アルトマン、ポール・ドゥーリー
撮影/エドモンド・L・クーンズ
音楽/ジョゼフ・バード、アラン・ニコルズ
出演/キャロル・バーネット、ローレン・バコール、グレンダ・ジャクソン、ジェームズ・ガーナー、ヘンリー・ギブソン、ポール・ドゥーリー、ドナルド・モファット、ディック・キャヴェット、ダイアン・スティルウェル、アルフレ・ウッダード

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