Simply Dead

映画の感想文。

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『ラベンダー・ヒル・モブ』(1951)

『ラベンダー・ヒル・モブ』
原題:The Lavender Hill Mob(1951)

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 戦前からあるイギリスの映画会社イーリング・スタジオは、数々のコメディ作品で名を馳せ、映画ファンに“イーリング・コメディ”の愛称で親しまれた。その特徴は、クールで乾いた人間観。笑いの質は基本的に不埒で無邪気。ちょっぴり冷酷で、アンチソーシャルな匂いも漂うブラックユーモア。そこではモラルから解放された登場人物たちが、しれっと暴挙や悪事を繰り広げる。心温まる人情喜劇などを期待すると痛い目を見ることも……イーリング・コメディの代表作と名高い『マダムと泥棒』(1955)のように、時にはホラー映画とも見紛う不気味さへとエスカレートする。それだけに、癖になるとやめられない。

 『戦場にかける橋』(1957)の名優アレック・ギネスは、イーリング作品にも数多く出演し、ロン・チャニィばりの百面相で様々な怪演を披露した。本作『ラベンダー・ヒル・モブ』もその1本である。ロンドンの銀行で金塊運搬の仕事をしていた主人公が、ある土産物業者と知り合ったことから、かねてより温めていた金塊強奪計画を実行に移す……という犯罪コメディだ。

 T・E・B・クラークによるオリジナル脚本が、何しろよくできている。金塊は盗みおおせたところでイギリス国内では売り捌けない。だから主人公たちはそれをいちど高炉で溶かし、エッフェル塔型の文鎮に変えて、フランスに持ち出そうと画策する。プロの泥棒を雇い入れた強盗作戦や、パリで起きる予想外のトラブル、活劇調のクライマックスなどがテンポよく描かれ、上映時間78分があっという間に過ぎていく。ドタバタ喜劇的なシーンやカーチェイスもあり、仲間同士の連帯感をしんみりと描くヒューマニズムも適度に盛り込まれた快作だ。監督は『乱闘街』(1947)や『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(1987)など、長年にわたってイギリス映画界で活躍し続けたチャールズ・クライトン。出てくるのは気のいいキャラクターばかりで、イーリング作品としては大分マイルドだが、そこに通常の社会倫理はない。

LavenderHillMob_Holland.jpg

 アレック・ギネスは本作で凝ったメイクなどはしないものの、都会の片隅で地味に生きるカタブツ中年男をリアルに演じ、なりきり俳優ぶりを存分に発揮している。ちょっと病的な非人間性も漂わせながら、それでいてチャーミングな表情も出すことができる。コメディアンとして、やっぱりピーター・セラーズごときじゃ敵わない凄味があるよな、と思った。相棒役のスタンリーホロウェイも、知的で柔和なゼロ・モステルといった趣きで、人間味のないギネスと息の合ったところを見せている。

 劇中で特に印象深いのは、エッフェル塔での追っかけシークェンス。間違って黄金製のエッフェル塔文鎮を買ってしまった女学生たちを追って、主人公2人が展望台かららせん階段を猛スピードでグルグル降りていくうち、ものすごくハイになってしまうという爆笑シーンだ。ここはビジュアル的にも面白い場面にもなっていて、エッフェル塔の鉄骨を幾何学模様のように見せ、トリッピーな画面効果を生み出している。巧みな合成を駆使した特撮シーンとしても完成度が高い。こういうファンタジックな描写に思いがけず出くわすのも、イギリス喜劇映画を観る楽しみのひとつ。

 撮影はキューブリック作品なども手がけた名手、ダグラス・スローカム。編集を担当したセス・ホルトは後に映画監督となり、ハマー・プロで『恐怖』(1961)や『妖婆の家』(1966)といったシンプルなスリラーの佳作を残した。また、本作はブレイク前のオードリー・ヘップバーンの出演作としても知られている。冒頭でほんの少し顔を見せるだけだが、その魅力はすでにはっきりと開花しており、そこに目をつけなかったイーリング・スタジオの失策は手痛い(結局、その後のイーリングは『マダムと泥棒』を超えるヒット作に恵まれず、撮影所はテレビ局に買収されてしまった)。

 『カインド・ハート』(1949)と併せて、日本ではあまり観る機会のなかったイーリング・コメディの代表作が、今年になってユニバーサルから続けてDVD化されたのは素直に嬉しい。ただもうちょっと字幕が見やすければいいのにな、とは思った(翻訳は生真面目なくらいちゃんとしてるんだけど)。

・Amazon.co.jp
DVD『ラベンダー・ヒル・モブ』



監督/チャールズ・クライトン
脚本/T・E・B・クラーク
撮影/ダグラス・スローカム
編集/セス・ホルト
音楽/ジョルジュ・オーリック
出演/アレック・ギネス、スタンリー・ホロウェイ、シド・ジェームズ、アルフィー・バス

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