Simply Dead

映画の感想文。

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『Night at The Golden Eagle』(2002)

『Night at The Golden Eagle』(2002)

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 ハリウッドで脚本家・監督として活動しているアダム・リフキンが、完全なインディペンデント体制で撮り上げた傑作。ニューヨークのゴミ溜めのような安ホテルを舞台に、残酷なペーソスに満ちた群像劇が綴られる。多彩なキャスト、リアリティ溢れる美術、それらを捉えるダークな映像美が素晴らしい。何の予備知識もなく米国盤DVDで観て、あまりの傑作ぶりに打ちのめされ、震えた。アダム・リフキンがこんな渋い映画を撮ってたなんて!

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〈おはなし〉
 7年ぶりに刑務所から出てきた犯罪者トミー(ドニー・モンテマラーノ)。すっかり老いぼれた彼を出迎えたのは、相棒のミッキー(ヴィニー・アーギロ)だ。再会の喜びをかみしめる間もなく、2人はミッキーの住む「ゴールデンイーグル」という古ぼけたホテルへと向かう。そこは娼婦とヤク中と独居老人たちの掃きだめだった。トミーは汚らしい住みかのようすに呆れるが、ミッキーは浮き足立っている。明日にはこのゴミ溜めをおん出て、トミーと一緒にバスでラスベガスへ引っ越す手筈なのだ。

 トミーとミッキーは近所のダイナーでささやかな祝宴を上げる。その後、ミッキーは最後の夜勤へ。トミーは先にホテルへ戻り、階下にたむろしていた若い娼婦の一人アンバー(ナターシャ・リオン)を部屋に連れ込む。しばらくして、ミッキーが仕事を終えて部屋に戻ると、そこには下着姿のトミーと、死んだ娼婦が待っていた……。

 一方、家出少女のロリーアン(ニコール・ジェイコブス)は、やり手のポン引き(ヴィニー・ジョーンズ)にかどわかされ、ゴールデンイーグルホテルへと連れて行かれる。自分の運命も知らないまま、彼女は先輩の娼婦サリー(アン・マグナソン)の指導を受けることになるが……。

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 アダム・リフキンというと、屈託のないコメディ作家という印象があったので、最初はてっきりドツボにはまった老犯罪者コンビの奮闘を描くブラックコメディなのかと思った。しかし、映画はだんだんとヘヴィーかつシリアスな展開へと傾いていく。もちろん、リフキンらしい軽みも随所に活きていて、やる気のないホテルのフロント係と住人たちの掛け合いなど、ユーモラスな場面も多い。だが、この映画の観客は最終的に、胸をえぐるような悲劇のカタルシスへと連れていかれるのだ。

 リフキンが『Night at The Golden Eagle』でスポットを当てるのは、引退を夢見る老犯罪者、娼婦、ポン引き、元芸人、ホームレスの女性など、世間から見放された者ばかり。幸福を掴むチャンスを逃した人々が、さらなる暗黒へ堕ちていく人生の苦さを、時にセンチメンタルに、苛烈に映し出す。「せめてこの人だけは助かってほしい」などと思っても、その願いはスクリーンの向こうには通用しない。

 観客の心を逆なでするようなシーンも多い。ポン引きは娼婦の顔面を本気で殴りつける。誤って娼婦を殺した老ギャングは「たかが売女の1人や2人、死んだところで誰も気にしないさ」と何度も口走る。女優を夢みて家出した少女は、見知らぬ男に犯される。たとえ彼らが悪人でなかったとしても、ここには自分に嘘をついて生きている人間しか出てこない。その容赦のなさは徹底している。

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 『Night at The Golden Eagle』は、ひたすらやるせなく、救いのない、世界の真実を的確に切り取った悲しい映画だ。今のアメリカ映画界で、ここまで徹底して悲劇的な傑作を作り上げたこと自体、偉業と言っていい。アダム・リフキンは『真夜中のカウボーイ』や『スケアクロウ』といった人生の苦みを描いたアメリカン・ニューシネマへのオマージュを、この映画に込めているという。そこには哀切なペーソスと、人物への深い愛情がある。救いはないがファンタジックな結末は、だからこそ観る者の胸を烈しく締めつけるのだ。

 どぎつい陰影を強調し、人物の表情に肉薄するシネマスコープの映像は、強烈なインパクトを与える。グロテスクでありながらたまらなく美しいルックを作り出したのは、撮影監督のチェッコ・ヴァレーゼ。元々はミュージックビデオや短編を手がけていた人物で、リフキン直々の誘いで本作に参加したという。

 セットデザインも本作の主役。古ぼけたホテルの色褪せた品格と、生々しい汚濁が入り混じる退廃的な空気感を、陰影に満ちた映像と相まって見事に作り上げている。実在のホテルで撮影されているので、一部の汚れやらゴミやらは本物をそのまま活かしていると思われる。

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 年老いた犯罪者コンビを演じる2人は、この映画が初主演。ミッキー役のヴィニー・アルジロは、TVドラマや映画の端役を数多く演じてきたベテラン脇役俳優。そして見るからにタフな元ギャング、トミーを演じたドニー・モンテマラーノは、これが役者デビュー作で、とても演技初経験とは思えないほど堂々とした存在感を放っている。それもそのはずで、彼はニューヨークの5大マフィア組織“コーザ・ノストラ”のひとつ、コロンボ・ファミリーの一員だったのだ(つまりホンモノ)。だから激昂した彼がナターシャ・リオン演じる娼婦を殺すシーンは本当に怖い。時折見せる鬼迫に満ちた表情、眼光の鋭さは、その本業を知らない人が見ても震え上がるほどの迫力である。

 そもそもこの映画の企画自体、アルジロとモンテマラーノが原作者みたいなものなのだという。ある時、リフキンがプロデューサーに呼ばれて行ったポーカーの集まりで2人に出会い、そこで聞いた会話が元になっているのだとか。だから劇中でアルジロとモンテマラーノが醸し出す、気の置けない友人同士の雰囲気もホンモノなのだ。(ちなみにモンテマラーノは本作完成後、朝帰りした恋人を死ぬほど殴りつけた容疑で、齢64にして4年の実刑判決を食らった……そのまんまやないか)

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 脇を固めるキャストの顔ぶれも見逃せない。リフキンの監督作『デトロイト・ロック・シティ』(1999)でヒロインを演じたナターシャ・リオンは、劇中の大部分で死体役を熱演(変な言い方だけど)。リフキン作品の常連マイルス・ドゥーガルは、映画の中で息抜き的な存在となるフロント係を軽妙に演じている。ベテラン娼婦役の中堅女優アン・マグナソンの表情も忘れがたく、本作でデビューしたニコール・ジェイコブスの初々しさもいい。

 また、ホテルの住人役でソウルデュオ「サム&デイヴ」のサム・ムーアが顔を見せるほか、実際に1930年代からヴォードヴィリアンとして活躍していたファイヤード・ニコラスも、過去の栄光に浸る元芸人役で味わい深い芝居を披露する。そしてホームレスの女性役を演じているのは、ラス・メイヤー作品でおなじみ、巨乳女優のキトゥン・ナティヴィダッドだ。アダム・リフキンは監督になる前、車で信号待ちをしている時に隣の車に彼女が乗っていることに気付き、「握手してください!」と叫んだことがあるとか。

 いつだか輸入DVDの在庫放出セールか何かで拾って、しばらく放ったらかしていたのだけど、まさかこんないい映画だったとは……。もっと多くの人に見られて然るべき傑作だと思う。

・DVD Fantasium
DVD『Night at The Golden Eagle』(米国盤)


製作/スティーヴ・ビング、アダム・リフキン
監督・脚本/アダム・リフキン
撮影/チェッコ・ヴァレーゼ
プロダクションデザイン/シャーマン・ウィリアムズ
編集/ピーター・シンク
音楽/タイラー・ベイツ
出演/ドニー・モンテマラーノ、ヴィニー・アルジロ、ナターシャ・リオン、アン・マグナソン、ヴィニー・ジョーンズ、ニコール・ジェイコブス、マイルス・ドゥーガル、サム・ムーア、ファイヤード・ニコラス、キトゥン・ナティヴィダッド、ロン・ジェレミー、ジェームズ・カーン(ノークレジット)

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