Simply Dead

映画の感想文。

『ブレードランナー ファイナル・カット』(1982-2007)

『ブレードランナー ファイナル・カット』
原題:Blade Runner(1982-2007)

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なんでもいいからさっさと劇場で観た方がいい。凄いから。と、いきなり結論から書いてしまったけど、善は急げということで。劇場では2週間の限定公開だそうなので。

 僕は仕事明けに、新宿バルト9の深夜上映で観た。もう何度も観ている映画だし、1992年の『最終版』公開時のようなハシャいだ気持ちもないし、ビール飲みながら軽い気持ちで観始めたのだけど、いざ始まったら酒を口に運ぶのも忘れて、最後まで見入ってしまった。

 何しろ、DLP映写による画がおそろしく綺麗。まずオープニングショットの緻密なディテールと奥行きに驚き、フィルム感を損なわないシャープな明暗に嬉しくなり、デジタル特有の違和感を最後まで感じなかったことに安堵した。観ながら思ったのは、1992年の『最終版』に望んでいた映像はまさにこれだったんだ、ということ。今はなき旧渋谷東急で『最終版』を観た時は、フィルム品質保持の限界、35mmシネスコ映写の難しさを思い知らされた(12歳でもそのくらい分かる)。だがその落胆は今回、完全に霧消した。映画の修復技術・上映技術の進歩には、素直に感嘆するしかない。

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 今回のデジタル化がもたらした最も素晴らしい功績は、ショーン・ヤングの美しさが強烈に際立ったことだ。大袈裟でなく毛穴まで見えるほど鮮明な映像でも、彼女の神がかり的な美しさはなおさら引き立っている。そして一気に細かい話になるが、エンドクレジットがあんなにはっきり読めることにも感動した。ゾーラのヌードもくっきり見えたし。

 ただ、これほど素晴らしいクオリティをスクリーン上に再現できたのは、『ブレードランナー』が当時からその鮮明さに堪えうるフィルムとして、しっかり撮られているからだ。何が凄いって撮影監督のジョーダン・クローネンウェスが凄いのである。2007年の現時点で、デジタルで撮ってデジタル映写する作品のほとんどは、このクオリティに遥か遠く及ばないだろう。

 デジタルで蘇った『ブレードランナー』を観てつくづく思い知らされるのは、当時のスタッフの桁外れな力量だ。撮影スタッフ、美術スタッフ、SFXスタッフの仕事が凄まじいレベルに到達しているからこそ、高画質映像でもそれらが引き立つのだ。そのことは忘れてならない。

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 分かりきったことだけど、映画としても本当に面白い。主人公デッカードを演じるハリソン・フォードは実際、素晴らしいと思う。「元凄腕だったけど今はカンが戻りきってない」ハードボイルド・ヒーローにうまくハマッている(確かに現場がイヤでイヤで仕方ないという顔にも見えるけど)。聞き込みに行った先のバーで、レイチェルに電話して一緒に飲もうと誘ったら断られて、一人で飲んだくれるシーンが好き。

 さて『ファイナル・カット』というだけあって、編集違いもファンとしては気になるところ。個人的に嬉しかったのは、『完全版』の残酷シーンがちゃんと含まれていたことだ(なぜか『最終版』ではカットされていた)。特に、ロイが素手でタイレル社長の眼球を潰すシーンは、今回初めて大スクリーンで観たけど、エグい! しかもDLPの高画質で観せられるもんだから、思っていたよりずっとショッキングな印象だった。初公開時にカットされたのもちょっと頷ける。ロイが手に釘を突き刺すシーンも同様。プリスがデッカードを殺そうとする場面では、鼻に指を突っ込んで持ち上げる痛快ショットが復活。ここではマジでハリソン・フォードに鼻血を吹き出させたという。文字どおり怒髪天を突いた状態のプリスは、『エル・トポ』(1970)後半のホドロフスキーっぽい。

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 そして『ファイナル・カット』独自の変更点として、分かりやすいところでは「ホッケーマスクを被った街頭ディスプレイ・ダンサーのショット追加」、「ゾーラのスタントの差し替え」、「飛び立つハトの背景差し替え」などがある。いちばん驚いたのは、タイレル社長を殺した後にセバスチャンを追うロイが、「Sorry, Sebastian.」と呟く台詞が新たに加えられていたこと。やっぱり可哀想だと思ったのか(個人的にはいらないと思う)。その他、細かい画面修正などはいちいち見ていたらキリがないので、あんまり気にしなかった。「デジタルくせー」とか思うところも、ほんのちょっとしかない。

 音響デザインもクリアーに整理され、SEもディテールアップされていながら、台詞の音質はちゃんと80年代クオリティにとどめてあるのがよかった。映画を観ている、という気分にさせてくれるから。でも、ゾーラを追跡するシーンで、雑踏SEを何度も使い回している(男が日本語で「なんか変なもの落としていったぜ」とか言う)のがそのまま残っていたのは、ちょっぴり残念。まあ日本人でなけりゃ気にならない箇所だろうけど。

 今回の『ファイナル・カット』でも、『最終版』同様、大まかな編集はあまり変わっていない。いじる必要がないからだ。『ブレードランナー』はカッティングが魅力的な映画でもあると思う。冒頭のホールデンを射殺するシーン、リオンがデッカードの銃を弾き飛ばすショットのコマ抜き処理、逃げるデッカードにロイが屋上で追いつく場面などには、初期のリドリー・スコットが得意とした省略のセンスが絶妙に活きている。『ファイナル・カット』でもその辺は手つかずのままだったので安心した。これに比べると、マイケル・マンが『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』(1986)でやっていたカッティング・テクニックは全然ヘタクソだなあ、と思ってしまう。

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 印象としては、まさに『ファイナル・カット』と呼ぶに相応しいバージョンだったと思う。これから初めて『ブレードランナー』を観るという人には、この『ファイナル・カット』だけ観てもらえば十分、と言えるくらい。ホント、素直に素晴らしかった。

 12月に発売される国内盤DVD(もしくは発売延期されたBlu-ray・HD-DVDのリリース)を心待ちにしている人も多いだろう。家でじっくり観るから今回は映画館まで行かなくてもいい、と考えている人もたくさんいると思う。だがそんなことは一先ず忘れて、さっさと劇場で観てきた方がいいに決まってる。せっかく『ブレードランナー』が真の意味で「絶対にスクリーンで観るべき傑作」として復活したんだから。


監督/リドリー・スコット
原作/フィリップ・K・ディック
脚本/ハンプトン・ファンチャー、デイヴィッド・ピープルズ
製作/マイケル・ディーリー
撮影監督/ジョーダン・クローネンウェス
プロダクションデザイン/ローレンス・G・ポール
アートディレクター/デイヴィッド・スナイダー
衣装デザイン/チャールズ・ノード、マイケル・カプラン、ジャン“メビウス”ジロー(ノークレジット)
特殊撮影効果監修/ダグラス・トランブル、リチャード・ユーリシッチ、デイヴィッド・ドライヤー
ヴィジュアル・フューチャリスト/シド・ミード
マットペインティング/マシュー・ユーリシッチ
編集監修/テリー・ローリングス
音楽/ヴァンゲリス
出演/ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ、ウィリアム・サンダーソン、ジョアンナ・キャシディ、ブライオン・ジェームズ、ジョー・ターケル、エドワード・ジェームズ・オルモス、M・エメット・ウォルシュ、ハイ・パイク、ジェームズ・ホン、モーガン・ポール

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本「メイキング・オブ・ブレードランナー」ポール・M・サモン(品川四郎・訳)

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