Simply Dead

映画の感想文。

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『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』(1986)

『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』
原題:Manhunter(1986)

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 トマス・ハリスの小説『レッド・ドラゴン』の最初の映画化。製作は『フラッシュ・ゴードン』や『デューン/砂の惑星』の大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティス。監督・脚本を務めたマイケル・マンは、ボリュームのある原作をうまくまとめつつ、自身の趣味を全編に行き渡らせた見応えある力作に仕上げた。ラウレンティスがイタリアから呼び寄せた撮影監督、ダンテ・スピノッティがもたらしたスタイリッシュな色遣いも大きな効果を上げている。

 監督のこだわりは、ロケーションや美術、衣装や小道具など、画面に映り込む全ての要素に注がれた。モノトーンだがゴージャスなスタイル主義は、すでに本作でとことん貫かれている。硬質で渋く、ラグジュアリーな「男の美学」。服にも家にも車にも、腕時計にもオフィスの内装にも、自分の趣味を貫くためならいくら金を使っても構わない。貧乏くささは徹底的に排除する。そんなモテオヤジ的感覚が臆面もなく炸裂しているのがマン作品の特徴だ。だから「マイケル・マンが描く男の美学っていいよね?」とは、ちょっと個人的に恥ずかしくて言えない。金持ちのおっさんに憧れてるみたいで。映画版『マイアミ・バイス』(2006)でも、そうした80年代マネー感覚が濃密に(やや時代錯誤的に)漂っていて、もはや眩暈すら覚えるほどだった。が、どんどん感性が貧乏くさくなっていく映画界において、そんな風情を醸し出せる監督はもういないと思うので、あまりリアル主義に傾倒していってほしくないな、とは思う。

 同じくマン独特のファンタジーの中に、過剰なロマンティシズムというのもある。本作も例外ではない(特にこの時期は念願の企画『ヒート』実現のためにマンのテンションも上がりまくっていた頃だ)。異常殺人犯“トゥース・フェアリー”を追う元FBI捜査官ウィル・グレアムの手に汗握る推理劇も、マイケル・マンの手にかかれば、いつしか男の尊厳をかけた熱い闘いになっていく。原作にもそうした要素はなくはないが、この映画では間違いなく増幅されている。この強固な脚色のオリジナリティに触れてしまうと、リメイク版『レッド・ドラゴン』がいかに面白みのない凡作だったか、思い知ろうにも思い出せない。

 そして、プロフェッショナルたちのチームワークをかっこよく描かせたら、マイケル・マンの右に出る者はいない。『ヒート』しかり、『マイアミ・バイス』しかり。犯罪者だろうと司法側だろうと、マンが描くチームへのリスペクトはひたすら熱い。『レッド・ドラゴン』でも観ていていちばん燃えるのは、ダラハイドがレクター博士に宛てて書いた手紙を、FBIの鑑識スタッフが数時間というリミットの中で解析するシークェンスだ。ちなみにここで鑑識員の一人を演じているのは、後にコメディ俳優として『メリーに首ったけ』(1999)などの作品で活躍するクリス・エリオット。

 また、80年代のマイケル・マンは、ちょっと変わったカッティングやカメラワークにも意欲的で、細かくコマ抜きしたり、撮影スピードを変えたりといった技巧を随所に施している。その最たるものが、クライマックスのダラハイド邸における銃撃戦だろう。撮影監督スピノッティによれば、ほとんどのカットで異なるスピード調整がなされているという。他にも『ザ・キープ』(1983)で使ったような超現実的な視覚効果も、要所要所で観ることができる。今のマン作品にはない要素なので、なかなか貴重だ。

 キャスティングも今にして思えばかなり豪華で、中でもダラハイド役のトム・ヌーナンが強烈なインパクトを与える。彼が全身に彫った“赤き龍”の刺青を誇示するシーンが切られてしまったのはいかにも惜しい(ディレクターズ・カット版でも同様)。本作では『ゾディアック』(2007)のブライアン・コックスがレクター博士を演じているが、アンソニー・ホプキンズの異常性や知的なムードとは違い、飄々とした不良性が漂っていて個人的には好きだ。

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 とはいえ、『羊たちの沈黙』(1991)のヒットがなければ、明らかに忘れられ、埋もれていた作品だろう。マイケル・マン監督の初期代表作として認知されるのも、当分先のことだったはず。当時は『レッド・ドラゴン』という原作どおりのタイトルにすれば間違いなくカンフー映画だと思われる時代だったため、『Manhunter』などという余計にチープなタイトルを付けられるという不幸もあり、興行・批評の両面で失敗。日本では『刑事グラハム/凍りついた欲望』という新宿ローヤルがよく似合う題名にされたため、ほとんど誰も観なかった(新しい邦題の『レクター博士の沈黙』もサイテーだと思うが)。しかし当時の惹句はかなり正鵠を射ていて素晴らしい。

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・Amazon.co.jp
DVD『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』
本『レッド・ドラゴン 決定版〈上〉』
本『レッド・ドラゴン 決定版〈下〉』


製作/リチャード・ロス
監督・脚本/マイケル・マン
原作/トマス・ハリス
撮影監督/ダンテ・スピノッティ
カメラオペレーター/エンリコ・ルチディ、マイケル・マン
プロダクションデザイナー/メル・ボーン
衣装/コリーン・アトウッド
編集/ダヴ・ホーニグ
音楽/ザ・レッズ、ミッシェル・ルビーニ
出演/ウィリアム・ピーターセン、トム・ヌーナン、ブライアン・コックス、デニス・ファリーナ、ジョアン・アレン、キム・グレイスト、スティーヴン・ラング

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