Simply Dead

映画の感想文。

『自虐の詩』(2007)

『自虐の詩』(2007)

 試写会で観た。駄作。当たり前の物差しでは測れない型破りな秀作を、ごく凡庸な人間が当たり前の物差しで映画化してしまった悪例。原作を先に読んでいる人が観たら、首を傾げずにいられないと思う。

 まず、舞台を大阪の西成界隈に変更した意味が分からない。「東池袋」という微妙なニュアンスはことごとく無視され、大阪下町人情ものというお決まりの図式に回収される(特に大阪独特の面白さを出せているわけでもない)。変えるにしても、せめて東上線沿線だろう。ヒロインの故郷も九州から宮城県の気仙沼に変えられている。つまりあの圧倒的なクライマックスのモノローグも、ベタな訛りでフィルターをかけられてしまうのだ。あれはストレートに標準語で訥々と聞かせるべきだった。そういった衝撃緩和装置が随所に働いているが、それは客を馬鹿にした態度だ。そんなに「分かりやすさ」とか「とっつきやすさ」が大事なら、流行りの難病ものでも作ってろ、と思う。

 というか、本当にこの映画の作り手は、原作のよさをちゃんと分かっているのか? と思うところが何度もあった。きしめんぐらい薄っぺらい堤幸彦の演出はいつもと同じだけど、それ以前に脚本が悪い。構成も凡庸だし、ギャグも冴えない。警察署の霊安室に寝かされた夫をヒロインが死んでると思い込むという冒頭のシークエンスなんか、見ていて何事かと思った。

 映画版では、常人には理解できない夫婦の関係を「分かる範囲」に引き寄せている感がある。そうじゃないだろう。なぜこのヒロインは無職で暴れん坊の夫に黙ってついていくのか、なぜ彼女はそれでもいいのか。どうして世の中にはこんな女性が多いのか、人間ってどうしてこうなのか。そこで引っ張らなくてはいけない話なのに、ヒロインが自身の不幸を嘆くナレーションとか平然と入れている時点で「違うんじゃねえか、それ」となる。本当に浅い。薄っぺらい。スッカスカのテレビドラマ。まあ堤幸彦だからしょうがないけど。

 主演にスターを使わなくちゃならないのは分かる。だけど、いかんせん中谷美紀では無理が生じる話なのだ(娼婦が似合ってる時点で違う)。熱演してるとは思うけど、どんくささが圧倒的に足りない。そして、阿部寛は意外にドスがきかない。回想シーンの扮装もスベッていた。あと、脇にやたらと豪華キャストを配しているのだけど、全員が無駄遣い。松尾スズキとか何で出てたんだろう。唯一、中華屋のオヤジを演じた遠藤憲一だけは素晴らしかった。この人のおかげで何とかなってる気がする。

 本当、凄い原作をつまんない人が寄ってたかってダメにするのは、やめてほしい。迷惑だから。映画から先に観てしまった人は、頼むからマンガの方も読んでほしい。

・Amazon.co.jp
本「自虐の詩/上」(文庫)
本「自虐の詩/下」(文庫)


原作/業田良家
監督/堤幸彦
脚本/関えり香、里中静流
撮影/唐沢悟
音楽/澤野弘之
出演/中谷美紀、阿部寛、遠藤憲一、カルーセル麻紀、西田敏行、岡珠希、丸岡知恵、竜雷太

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