Simply Dead

映画の感想文。

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『プロポジション ─血の誓約─』(2005)

『プロポジション ─血の誓約─』
原題:The Proposition(2005)

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 西部劇風のストーリーで、オーストラリア開拓時代の実情を描いた異色作。いかにしてヨーロッパの白人文化が「最果ての地」で疲弊し、傷ついていったかを、リアルなガンアクションと凄絶な暴力描写を交えながら、ドラマティックに映し出す。監督は『亡霊の檻』(1988)のジョン・ヒルコート。同作に主演したミュージシャンのニック・ケイヴが、音楽とともに脚本も手がけている。

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〈おはなし〉
 19世紀、開拓時代のオーストラリア。ならず者のガンマン、チャーリー・バーンズ(ガイ・ピアース)は、末弟のマイクとともに警察隊長スタンリー(レイ・ウィンストン)に捕えられ、荒れ地に潜む長兄アーサーの捕縛を強要される。アーサー率いる一味は町に潜入してある家族を惨殺し、そのときに殺された妊娠中の妻は、隊長の妻の親友であった。

 弟を人質にとられたチャーリーは、袂を別った兄の行方を追って奥地へと入っていく。そして、ついに再会したアーサー(ダニー・ヒューストン)は、今や悟りを開いた野獣と化していた。弱肉強食の掟に沿って生きる彼は、自らの“約束の地”をこの荒涼とした世界に見い出したのだ。

 一方、スタンリーは傷ついたマイクを連れて町へと戻るが、怒りに燃える住民たちはリンチを要求する。バーンズ兄弟の復讐を恐れるスタンリーはそれを撥ねつけるが、妻マーサ(エミリー・ワトソン)もまた彼の処刑を望んでいた。やむなく鞭打ちが行われ、乾いた地面におびただしい血が流れる。その頃、チャーリーとアーサーたちは町へと向かっていた……。

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 オーストラリアに移住した白人たちは、故郷ヨーロッパの環境とはあまりに違う異世界のなかで、想像を絶する過酷な生活を強いられた。イギリス政府は内陸部の調査・開発を奨励したが、そこはまさに「地の果て」であり、生命の侵入を拒む厳しい世界であった。また、そもそもオーストラリアは犯罪者の流刑地でもあり、荒くれ者がはびこる無法の地でもあった。食糧難、病気の流行、治安の悪化などにより、多くの人間が命を落としたという。環境に順応できず酒に溺れて死んだり、自殺した者も少なくない。

 もちろん先住民に対する問答無用の暴力、蹂躙も日常茶飯事だった。何しろここは英国領なのだから、彼らは「不法居住者」なのである。一部には両者が友好的に生活していた地域もあるらしいが、奴隷化は英国人にとって当然の政策であり、平然と虐殺が行われた史跡もあるという。

 近代的な文化を築いて久しい今でも、オーストラリア映画に見られる強迫神経症的な要素は、こうした陰惨な歴史、文明とは決して相容れない大自然への恐れ、先住民に対する罪悪感などが礎になっていると思う。『ロング・ウィークエンド』(1978)や、初期のピーター・ウィアー作品に顕著な自己破滅的ムードだ。

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 『プロポジション』では、そんな当時のささくれ立った状況が、ふたつの家族の悲劇を軸に、生々しく映し出される。暴力によってこの世の地獄を生き抜こうとする無法者兄弟、地の果てにあって人間的尊厳を保とうと苦闘する警察隊長とその妻。ヒリヒリと灼けつくような苛烈なドラマを、ニック・ケイヴはものすごくしっかりしたキャラクター造形で、詩情豊かに描ききる。正直、こんな才能があったのかと驚いた。

 それでも結局は、白人の視点でしか描かれていないという不満も残る。隊長夫妻の葛藤に多くの時間を割くぐらいなら、先住民のメインキャラクターを一人ぐらいドラマに入れてほしかった。ジョン・ヒルコート監督は「アウトバックを舞台にした、真にアボリジニ的な世界観の映画を撮りたかった」というが、そのわりには……。

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 しかし、役者陣の鬼気迫る熱演、パワフルな演出もあって、パンチの利いた作品に仕上がっている。特に、無法者兄弟の兄を演じるダニー・ヒューストンの存在感が凄い。社会のルールや善悪の概念から解き放たれ、己の“コード”に従って生きる男の奇妙な人間性と残酷性を、異様な迫力で演じている(こんな恐ろしい人だったっけ?)。『ホワイト・アイズ/隠れた狂気』(1987)のデイヴィッド・キースや、『無限の住人』の天津影久を思い出した。アボリジニ俳優のなかでは最も著名な名優の一人、デイヴィッド・ガルピリルも出演している。

 ケイヴがウォーレン・エリスと共同で手がけた音楽も素晴らしい。サントラだけでひとつの物語を形作っているというか、映画を思い出す時は必ず音楽も蘇ってくる。なかなかここまでのクオリティに達した映画音楽も珍しい。これを聴くだけでも必見の作品だ。

 もちろんバイオレンス描写も見どころ。冒頭の銃撃戦はかなりかっこいいので、ぜひ大音量で観てほしい。本当はもっと長かったっぽいけど(顔も分からないほどの役でノア・テイラーが出演している)。

▼脚本・音楽のニック・ケイヴ(左)と、監督のジョン・ヒルコート
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・Amazon.co.jp
DVD『プロポジション ─血の誓約─』
CD『The Proposition』サウンドトラック(輸入盤)


監督/ジョン・ヒルコート
脚本/ニック・ケイヴ
撮影/ブノワ・ドゥローム
音楽/ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
出演/ガイ・ピアース、レイ・ウィンストン、ダニー・ヒューストン、エミリー・ワトソン、ジョン・ハート、リチャード・ウィルソン、トム・バッジ、トム・E・ルイス、デイヴィッド・ウェンハム、デイヴィッド・ガルピリル

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