Simply Dead

映画の感想文。

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『Moonlighting』(1982)

『Moonlighting』(1982)

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〈おはなし〉
 1981年の冬。ノヴァク(ジェレミー・アイアンズ)ら4人のポーランド人労働者が、ロンドンへ出稼ぎにやってくる。彼らが請け負った仕事は、とある民家の改築作業。4人はその家に住み込みながら、黙々と内部を破壊していく。1人だけ英語が喋れるノヴァクは、世話役として忙しく立ち回るが、祖国に残してきた恋人(と、彼は思い込んでいる)アンナのことが気にかかって仕方がない。

 ところがある時、ポーランドで戒厳令がしかれ、国外からは音信不通状態に。途方に暮れるノヴァクだったが、他の3人にはその事実を伝えることができない。彼は3人を作業に集中させるため、外部との接触を禁じ、さらなる重労働を強いる。生活費を切り詰めるために万引きを繰り返すなど、搾取・検閲・犯罪・欺瞞に染まっていくノヴァク。はたして彼は真実を伝えることができるのだろうか。そして今、祖国はどうなっているのか……。

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 ポーランド出身の奇才、イエジー・スコリモフスキー監督がイギリスで撮り上げた傑作。前年に起きたポーランド民主化運動の軍事的弾圧をモチーフに、異邦人として取り残された人々の姿をサタイア風に描いた、アクチュアルなドラマだ。スコリモフスキーは本作でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞。主演のジェレミー・アイアンズも高く評価された。原題の『Moonlighting』とは「不法労働」の意。

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 冒頭の入国手続きの場面で、主人公が旅行目的と嘘をついて入国許可を得た後、審査官から「〈連帯〉のメンバーか?」と問われるシーンがある。ノヴァクは「いいえ」と答え、次にこんなモノローグが続く。「その時に答えた言葉の中で、それだけが唯一本当のことだった」。

 〈連帯〉とは、ポーランド民主化を目指して80年に結成された、国内初の自主管理労働組合のこと。しかし、1981年12月の戒厳令で、初代議長レフ・ヴァウェンサらが拘禁され、その活動は軍によって弾圧されてしまう。この事件は西側諸国からの批判を浴び、スコリモフスキーはすぐに本作『Moonlighting』の脚本を書き上げ、翌年には映画を完成させた。そのフットワークの軽さと創作力には驚いてしまうが、そのスピードこそが企画の要だったのだろう。かつて『手を上げろ』(1967)で描いた政治風刺が検閲を受けたことで、自国ポーランドを捨てざるを得なかったスコリモフスキーにとっては、何が何でもすぐに映画化するべき題材だったはずだ。やっと芽生えかけた祖国の自由化が、またしても権力に叩き潰されたのだから。

 だが、この映画はバカ正直にポーランド政府を批判し、〈連帯〉を支援するような内容ではない。スコリモフスキーの映画だからだ。

 主人公ノヴァクは、冒頭で自ら語るように〈連帯〉の一員ではなく、最後まで自由とか正義に目覚めたりしない。どちらかというと社会のシステムに従順で、支配されることに甘んじているタイプだ。そんな男が、異国の地で統制を失った瞬間から、怪物的な愚かさを発揮していくさまを、スコリモフスキーは巧みな語り口で描いていく。自己判断能力にまるっきり欠け、嘘の上塗りを続けていればなんとかなると信じている主人公の姿には、抑圧的体制とそれに浸かりきった人民に対する痛烈なアイロニーが込められている。

 ジェレミー・アイアンズの滑稽かつ真に迫った演技が素晴らしい。全編を通して淡々と語られるモノローグが実に秀逸で、「私は英語が喋れるという理由からこの仕事に選ばれたが、その実、言葉の意味はよく分からなかった」など、忘れがたい名台詞がたくさん登場する。また、仲間たちに見つからないよう、主人公が〈連帯〉を応援する街頭ポスターを片っ端から剥がしていく場面なども、すごく可笑しい。

 括りとしては社会派作品になるのかもしれないが、そこはやはりスコリモフスキー作品なので、本作もシュールなユーモアに充ち満ちている。おっさんたちが異国語を喋りながらひたすら家屋をぶっ壊していく(自分たちが住んでるのに)という絵面からして、文字通りアナーキー。他にも細かいギャグが満載で、みんなでスーパーから段ボール箱を持ち帰るシーンでは1人が頭に箱を被っていたり(安部公房か!)、通行人のエキストラが巨大なパンダのぬいぐるみを担いでいたり。たまに冗談とも本気ともつかない謎めいた展開で観客を翻弄するスコリモフスキーの映画の中では、もっとも明解なコメディなのではないだろうか。上映時間も97分と相変わらずコンパクトで、凄く巧くまとまっている。なんで日本公開されなかったのか不思議だ(81年にはレフ・ヴァウェンサが来日だってしてるのに)。

 撮影はジェームズアイヴォリー作品を多く手がけているトニー・ピアース・ロバーツ。音楽は多作で知られるベテランのスタンリー・マイヤーズが作曲し、重たく不穏なシンセ音で映画を彩っている。彼はスコリモフスキーの『キング、クイーン、ジャック』(1974)や『Success is the Best Revenge』(1984)のスコアも手がけている。ちなみに本作の電子楽器奏者を務めたのは、後に売れっ子作曲家となるハンス・ジマーだ。

 時同じくして、イギリスの劇作家トム・ストッパードは〈連帯〉の活動をドラマ化。旧来の社会主義と西側の民主主義の折り合いをつけ、新たな社会を作ろうと試みたヴァウェンサたちの姿を追った物語を、彼は『Squaring the Circle』(1984)と題した。その円と同面積の四角形を求めよ、つまり「不可能なことに挑む」という意味合いである。だが、後に〈連帯〉の活動は合法化され、89年に行われた部分的自由選挙では旧来の統一労働者党を破って〈連帯〉が圧勝。90年には初の国民選挙でヴァウェンサがポーランド共和国大統領に選ばれた。スコリモフスキーもようやく祖国で映画を撮る環境が整い、およそ25年ぶりに監督作『Ferdydurke(30 Door Key)』(1991)をポーランドで撮影した。

▼『Moonlighting』撮影中のイエジー・スコリモフスキ(右手前)と、ジェレミー・アイアンズ(左奥)
moonlighting_skolimowski.jpg


【追記(2011.5.26)】
 その後、イエジー・スコリモフスキ(ここ最近は「スコリモフスキ」表記のほうが一般化)は17年ぶりの監督作『アンナと過ごした4日間』(2008)を発表し、映画作家として完全復活を遂げた。日本ではポーランド時代の初期作品4本の特集上映も行われ、関連書籍も次々に出版。あまり事情の分からなかった製作時のバックグランドなども分かるようになった(詳しくは「イエジー・スコリモフスキ 紀伊國屋映画叢書・1」と、「エッセンス・オブ・スコリモフスキ」を参照のこと)。上記の『Ferdydurke(30 Door Key)』についての記述は間違いで、スコリモフスキはすでに『手を挙げろ!』(1967-1981)の追加撮影部分でポーランドでの撮影を敢行している。『Ferdydurke』はスコリモフスキにとって不満の残る出来だったらしく、彼が長い沈黙期間に入るきっかけとなった。いずれ、これらの作品についても書いておきたい。現在は、ヴィンセント・ギャロを主演に招いた最新作『エッセンシャル・キリング』(2010)が公開待機中である。

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製作/マイケル・ホワイト、マーク・シヴァス、イエジー・スコリモフスキー
監督・脚本/イエジー・スコリモフスキー
脚本協力/バリー・ヴィンス、ボレスラフ・スリク、ダヌタ&ヴィトルド・ストク
撮影監督/トニー・ピアース・ロバーツ
美術/トニー・ウーラード
編集/バリー・ヴィンス
音楽/スタンリー・マイヤーズ
電子楽器奏者/ハンス・ジマー
出演/ジェレミー・アイアンズ、ユージーン・リピンスキー、イジィ・スタニスラフ、ユージェニウス・ハツキウィッツ、デニス・ホームズ、ジェニー・シーグローヴ

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