Simply Dead

映画の感想文。

『デス・プルーフinグラインドハウス』(2007)

『デス・プルーフ in グラインドハウス』
原題:Death Proof(2007)

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 何度も言うけど『デス・プルーフ』は本当に凄い。その衝撃は113分の単独公開版を観ても変わらなかった。個人的には、タイトに刈り込んだUSAバージョンの方が好きだし、飛躍も含めてちょうどいいバランスという気がする。それでも『デス・プルーフinグラインドハウス』は、タランティーノが苦手な人でさえ、今度こそ「こいつ凄い」と感じられる傑作だと思う。

 この単独公開版では、本作のトレードマークである女の子たちの会話シーンがさらに長くなり、ヒロインの1人であるバタフライがセクシーなラップダンスを披露する場面が「消失」せずに残り、中盤でロザリオ・ドーソン演じるアバナシーたちがコンビニに立ち寄るパートが追加されている(ここだけ唐突にフィルムが白黒になる)。その他、こまごまとした部分でUSAバージョンとは編集が違っており、体感時間もやや異なる。しかし、作品のハイライトである壮絶なカークラッシュと、終盤の手に汗握るカーチェイスに関しては手付かずで残されているので、傑作という印象は揺るがない。(でも正直、コンビニのシーンは要らなかったな……バーのシーンでの『ミーン・ストリート』を思わせるカメラワークも、なぜか長尺版ではインパクトが薄かった)

 恐るべき殺人鬼=スタントマン・マイクの膝の上で、褐色の美少女バタフライが豊かなヒップをグリグルリとひねり回すラップダンスの場面は、長尺版ならではのお楽しみだ。まさにグラインド・イン・ザ・ハウス! 全体に長くなった分、タランティーノ自ら撮影監督を務めるカメラの好色度も格段に上がっており、正直ちょっと胸焼けしてしまった。スラッシャー映画の法則上、なぜバタフライが生き残れなかったかも、こちらのバージョンでは明らかにされる。

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 実はいちばん気になっていたのは会話シーンの編集。あんまり長くなるとさすがにキツイかも、と思っていたけど、実際に観ると特に意味のないところを切っているだけなので、さほど印象は変わらなかった。よくなったとも思わないが、悪くなってもいない。やっぱり退屈一歩手前で観客の耳と目を捕え続けるテクが抜群に巧いのだ。

 『デス・プルーフ』で描かれる会話の面白さは、前にも書いたけど、まず台詞の言葉選びのセンス、役者たちの台詞回しの巧さ(B級映画にしてはみんな芝居ができすぎる)、そして「この会話は一体どこに行っちゃうんだろう?」というドキドキ感。着地点が見えないまま延々と続くガールズトークは、無駄を無駄とも思わないタランティーノの会話劇作家としての強い自負に裏付けられた試みであって、こんな思いきったことは他の娯楽映画監督にはできないだろう。よしんばオチなどなかったとしても、それはそれで驚かされるし、ぼんやり聞いているだけでも、女の子たちの会話に混じっているみたいで楽しい。

 ただ、誤解してならないのは、これらはタランティーノの脳内世界における「理想のイケてるギャル」の会話であるということ。こんなに下品でクレバーな言葉遣いがポンポン出てくるクールな女の子たちなんて、そうそういるわけない。ほとんど意味のない日常会話にも、よく聴けばタランティーノ節がガッツリ利いている。逆に言うと、『デス・プルーフ』ではタランティーノがこれまでの作品群で展開してきた台詞芸を、より自然なかたちへと落とし込んでいく作業に相当な労力が費やされている。だから、映画を観ながらタランティーノなりの現代アメリカ文学を読んでいるような目眩に陥るのだ。グラインドハウス映画なのに。

 そんな異形ぶりも含めて、本作は「グラインドハウス的」なのだ。監督自身、様々なインタビューで語っているように、グラインドハウスとは「自分の目の前で起きていることが信じられなくなる」ような、タガの外れた映画に出会う場所でもあった。例えばリノ・ディ・シルヴェストロ監督の諸作群……女囚ものがやりたいのかギャング映画がやりたいのか分からない『第7監房の女囚たち』(1974)とか、狼女が主役のはずなのに実は不憫な女性のサイコものだった『狼女の伝説』(1977)とか。同じような内容の映画ばかり観ている中で、突然ドキッとさせられる怪作にぶち当たるのも、グラインドハウス体験の醍醐味なのだ。

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 前の感想では書きそびれてしまったが、今回もやっぱり役者の揃え方が素晴らしい。というか、これまでとは一線を画したキャスティングになっていると思う。特に、出てくる女の子たちが(ロザリオ・ドーソンを除いて)いわゆるスターではなく、普通の存在感を醸し出せる顔ぶればかりで、その配役センスが本当に絶妙。しかも、クセのある台詞をスムースにセクシーに喋りこなす実力も兼ね備えている芸達者ばかり。中でも抜きん出ているのは、「よォ。俺、バリー」の一言で場をかっさらっていく女優マーシー役のマーシー・ハリエルではないか? まさに“バリー”としか呼びようのないテキサス男を即興で演じる彼女は、この映画に登場する誰よりも魅力的で最高におかしい「野郎」だった。素に戻る時の表情もえらいこと可愛い。

 2部構成をとる映画の前半でヒロインの1人“バタフライ”を演じるヴァネッサ・フェルリトは、あだっぽいルックスながら幼い可愛らしさと生真面目さも漂わせ、観客を魅了する。『チアガールVSテキサスコップ』(2005)のチョイ悪チアガールがこんな風に化けるとは……。前半のキャストの中ではいちばん魅力的に、というか、とても大事に撮られている気がした。「脚キャスティング」と思しきシドニー・タミーア・ポワティエは、DJ役というだけあって台詞回しに関しても芸能一家ならではの巧さを見せつける。これだけデキる子なのにお色気キャラで終わらせるのは可哀想だと思ったのか、タランティーノもわざわざ『ミッドナイト・クロス』(1981)の音楽を使ってロマンティックな場面を与え、役に奥行きを与えている(まるっきりギャグになってるけど)。

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 後半のキャストの中では、本人役で出演のスタントウーマン、ゾーイ・ベルの存在感が何しろ突出している。手に汗握る壮絶なカーチェイスシーンのスタントも凄まじいが、芝居の面でも秘めたる才能を発揮。友達のキムと口論する場面では、手の仕草など一挙手一投足が完璧にタランティーノ映画の主人公になっていて、凄くおかしかった。また、カーキチのキムに扮するトレイシー・トムズの快演も忘れがたい。『プラダを着た悪魔』(2006)の主人公の友人役も印象的だったが、本作では気の強いスタントドライバー役をパワフルに演じ、ハイテンションな芝居をのびのびと爆発させている。そして、観客の視点にいちばん近い立場であるアバナシー役のロザリオ・ドーソンも、いい意味でスターらしさを感じさせないナチュラルな表情が魅力的。このところの彼女の作品選びは素晴らしくて、ケヴィン・スミス監督の『クラークス2』(2006)にも出てるし、ロブ・ゾンビ監督の傑作『デビルズ・リジェクト』(2005)にも特別出演(残念ながら本編ではカット)。この3人が颯爽と反撃に向かうシーンは、もう涙なしには観られない。映画史に残る感動の名場面だと思う。

 だが本当の主役は、やはりスタントマン・マイクことカート・ラッセルだ。前半ではスネーク・プリスキンとジャック・バートンが混ざったような狂った男として登場し(おそらくスラッシャー映画史上最もよく喋る殺人鬼だろう)、後半では『トムとジェリー』のトムと化す(反撃されてヒドい目に遭うのもそっくり)。抱腹絶倒のラストでは、人間がこんなにマンガに近づくなんて! と感動してしまった。「よくもこんな役を引き受けたよなあ」と、その度量の大きさにはひたすら打たれるしかない。

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 そして音楽! デイヴ・ディー,ドージィ,ビーキィ,ミック&ティッチ!(あれ?) デイヴ・ディー,ドージィ,ビーキィ,ミック,ティッチ&ピート!(あれ?) 誰があの「Hold Tight」の邪悪なイントロを忘れられようか? バート・I・ゴードン監督の『Village of the Giants』(1965)から拝借したジャック・ニッチェ作曲のタイトルテーマも絶妙。衝撃的ラストを締めくくるエイプリル・マーチの「Chick Habit」も凄いインパクトだ(単独公開版には、サウンドトラックCDにも収録されていないオリジナルのフランス語で歌うパートが付いているので、ちょっとお得)。一緒に観に行った友達とも話したけど、これまではある種コマーシャル面を意識して選曲を行ってきたはずのタランティーノが、この映画に限っては徹底的に趣味性だけで音楽を構成している。その本気ぶりが映画をビッと引き締めている。

 USAバージョンは2回観て、今回初めて単独公開版を観たが、多分また劇場に足を運ぶと思う。ホント麻薬のような映画だ。川崎のシネコンで観た時は、600席ある劇場に20人ぐらいしか入っていない状況だったのに、ラストではやっぱり拍手と爆笑が巻き起こっていた。これはちょっと凄いことだと思う。

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CD『デス・プルーフ』サウンドトラック
ムック本『グラインドハウス映画入門』(洋泉社)



製作総指揮/ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン
製作/クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス、エリザベス・アヴェラン、エリカ・スタインバーグ
監督・脚本・撮影監督/クエンティン・タランティーノ
美術/スティーヴ・ジョイナー
衣装デザイン/ニナ・プロクター
編集/サリー・メンケ
出演/カート・ラッセル、ヴァネッサ・フェルリト、シドニー・タミーア・ポワティエ、ジョーダン・ラッド、ローズ・マッゴーワン、ゾーイ・ベル、トレイシー・トムズ、ロザリオ・ドーソン、メアリーエリザベス・ウィンステッド、マーシー・ハリエル、マーリー・シェルトン、マイケル・パークス、クエンティン・タランティーノ、イーライ・ロス

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コメント

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トラックバックさせていただきました。
いつも素晴らしい文章を読ませていただいています。
ありがとうございます。

そして、デスプルーフは本当に最高でしたね!

  • 2007/09/24(月) 02:12:09 |
  • URL |
  • toyotetsu #-
  • [ 編集]

トラックバックありがとうございます

本当に、『デス・プルーフ』は映画の奇跡に手が届いちゃってる映画ですよね。アバナシーが「バカ言ってんじゃないわよ、あたしも行くわよ!」って言うシーンは何度見ても泣きます。toyotetsuさんの文章も素晴らしかったです。
ブログのほうは最近あんまり更新できてませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

  • 2007/09/25(火) 00:17:28 |
  • URL |
  • グランバダ #-
  • [ 編集]

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