Simply Dead

映画の感想文。

『レミーのおいしいレストラン』(2007)

『レミーのおいしいレストラン』
原題:Ratatouille(2007)

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 シェフを夢見るドブネズミのレミーと、彼と友情を築く見習い料理人リングイニの、キテレツなサクセスストーリーを描いたピクサー最新作。秀作短編『ゲーリーじいさんのチェス』(1997)のヤン・ピンカヴァが進めていたオリジナル長編企画を、ブラッド・バード監督が引き継いで完成させた。『Mr.インクレディブル』(2004)からわずか3年でバードの新作が観られるというのが驚きだったが、そのぶん内容には過度な期待をしないでおいた。

 実際の映画も、カメラワークやアニメートの巧さは光るが、それ以上の驚きはないウェルメイドな仕上がり。とはいえ、コック帽から見た主観ショットなどはさすがに天才児バードらしく冴えている。絵に描いたようなツンデレヒロインの造形も巧い。

 だがあくまでも本作は「引き継ぎ」。バードは「前任者のアイディアは素晴らしいと思ったが、自分で監督することが決まったら、2ページほど残してシナリオは全部書き換えてしまった」という。その自由濶達なストーリーテリングも、自身の温めてきた企画ではないからこその肩の力の抜け具合なのだろう。こういう箸休め的な作品を作るのも、ピクサーはやっぱり巧い。何しろ去年の『カーズ』(2006)が凄すぎたから、このくらいが普通だろうという気もした。

 ……などと思っていられたのも、途中までだった。

 ラスト30分は、文字通り泣かされ続けた。あるきっかけで思わず泣き出しちゃって、そこからずーっと止まらなくなった、みたいな感じ。

 始めてだ、こんなこと。

(この後、ネタバレ)


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 後半のある時点で、主人公が明らかに死を賭した行動に出るシーンがある。その不意の高まりにまず泣いたし、続く展開でネズミと人間のどうにも埋めようのない断絶が決定的に描かれる。つまり、ネズミといえど天才シェフなんだから仕方ないと認められ、みんなで仲良く老舗レストランの経営を続けていく、といった無難な話にはならないのだ。そこからどうするか? ……どうにかしてしまうのである、ブラッド・バードは。しかも、全く意表をつく展開で。

 それまではわりと「読める」ドラマを心地好く組み上げておいて、最後の最後に、先がどうなるか全く読めない状況を用意し、「よもや」という展開を畳み掛けるのである。そこでひたすら泣かせる。

 新しい手口だ。

 とにかく、あのクライマックスは本当に凄い。厨房にネズミ一匹いるだけでも大ごとなのに……ジェームズ・ハーバートの傑作ホラー小説『鼠』や、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『ノスフェラトゥ』(1979)の一場面を彷彿とさせる、ほとんどパニック映画のような戦慄必至の絵面を、ブラッド・バードはアナーキーなギャグと感動が入り混じる最高に愉快なシーンにしてしまう。全く無難なところに行かないストーリーテリングには、たまげるほかなかった。もちろん、この映画に出てくるのがマウス(小型の可愛いネズミ)ではなく、あくまでラット(ドブネズミ)であるということを、全編通じて丹念に描いているからこそ、衝撃は大きいのだ。

 さらに、料理評論家イーゴ(つまりエゴ。演じるピーター・オトゥールが絶品)というキャラクターを通して、こんなネットの片隅でちまちま屁理屈をこねている僕でさえ意識せざるを得ないような、「批評するということ」の真理が鋭く語られてしまうのだ。そんな重い言葉を、こんなにスマートに言われてしまったら、もう泣くしかない。『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)で「映画を分かっている」評論家を犬に食わせるしかなかったM・ナイト・シャマランは、きっと地団駄ふんで悔しがっただろう(あれは決して単なる敵意の表明ではなかったと思う)。

 また、題材が題材だけに、クライマックスには『食神』かよ! と思わせる描写もあって、そこでも烈しく笑い泣きさせてもらった。『Ratatouille』という原題は単なるダジャレではなかった!

 いや、本当に凄い体験だった。ブラッド・バード恐るべし。原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』(2007)を観ても思ったが、こういう思いきったことができて、しかも理屈抜きに成立させてしまう人というのは、やっぱり体に染み付いた“映画力”が違うのだ。

 さて、今回の併映短編は、アブダクションをテーマにした『リフテッド』。脚本・監督はゲイリー・リドストロム。去年の『ワン・マン・バンド』ほど魅力的じゃないけど、よくできている。2人出てくる宇宙人の片方が、アニメ『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』の水島精二監督ソックリでびっくりした。

▼ほんとそっくり! サムシング吉松さんにネタにしてほしい……
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・Amazon.co.jp
DVD『レミーのおいしいレストラン』

製作/ブラッド・ルイス
監督・脚本/ブラッド・バード
ストーリー原案/ヤン・ピンカヴァ、ジム・カポビアンコ、ブラッド・バード
製作総指揮/ジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン
プロダクションデザイン/ハーレイ・ジェサップ
音楽/マイケル・ジアッキーノ
声の出演/パットン・オズワルト、ルー・ロマーノ、イアン・ホルム、ジャニーン・ガロファロ、ブラッド・ギャレット、ピーター・オトゥール、ブライアン・デネヒー

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  • 2015/05/07(木) 17:34:43 |
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