Simply Dead

映画の感想文。

『宇宙大征服』(1968)

『宇宙大征服』
原題:Countdown(1968)

countdown_poster.jpg

 大ヒット番組『コンバット!』などで活躍していた気鋭のテレビ演出家、ロバート・アルトマンが初めて大手映画スタジオのワーナー・ブラザーズで監督した劇場長編。アルトマンは以前に長編ドキュメンタリー『ジェイムス・ディーン物語』(1957)の演出を手がけた他、無軌道な若者たちを描いたいわゆるJD映画『The Delinquents』(1957)も監督しており、『宇宙大征服』は実に10余年ぶりの映画復帰作となった。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
〈おはなし〉
 アメリカとソ連が宇宙開発競争にしのぎを削る、1960年代──ソ連が有人宇宙船を月に向けて打ち上げた。焦ったアメリカはアポロ計画を一旦中止、月ロケット発射計画「ピルグリム」を始動させる。その実態は急ごしらえの粗末なもので、飛行士の安全面もまるで保障できないような危険なミッションだった。加えて、ソ連側ロケットの乗組員が民間人だったため、それまで飛行訓練を受けていた空軍大佐チズ(ロバート・デュヴァル)が任務から降ろされ、代わりに民間人のリー・ステグラー(ジェームズ・カーン)が“栄光の第一歩”を踏む者に選ばれた。怒り心頭のチズは渋々リーのサポートに回るが、その態度は厳しかった。

 そしてついにピルグリム・ロケット発射の日が迫る。数日先んじて、酸素や食料などの生存用物資を積み込んだシェルターが月面へと発射された。リーは月面着陸後の短い時間で、そのシェルターに避難しなければならない。もし着陸前にシェルターの位置を確認できなければ、すぐに諦めて引き返せ、という厳命が下されていた。

 そしてリーは宇宙へと旅立つ。チズの巧みなナビゲートで軌道に乗り、月面上空にまで辿り着くリー。だが、シェルターのビーコンは確認できない。その時、リーはある決断を下した……。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 この映画が製作されたのは、アポロ11号が月面着陸を成功させる1年前。まさにリアルタイムで進行していた宇宙進出計画を、アルトマンはありきたりな空想特撮映画調にはせず、リアリスティックな筆致で描いた。日本公開時の宣伝コピーは「征服者は果たして誰か? 想像をこえた人類最後の大戦争! 銀河せましと闘う宇宙大決戦!」というものだったが、当然そんな内容ではない。

 後半の宇宙飛行シークェンスは特筆もので、狭い宇宙船内と地上の管制ステーション以外、カメラが外に出ないのだ。よくある「宇宙空間に浮かぶロケット。地球ナメ。奥から太陽現れる」みたいな画は一切なし。ひたすらパイロットとナビゲーターの可視範囲にのみ視界を限定し、キューブリックのようにいきなり神の視点に立ったりはしない。もちろん宇宙空間も無音、月への軌道に乗るためのロケット噴射も単なる「船内の振動」としてのみ描写される徹底ぶり。絵面としてはものすごく地味だが、今までにない硬質のリアリズムを再現しようとする作り手の高い志を感じた。

countdown01.jpg

 宇宙飛行士たちの不安定な心情に寄り添う生々しいドラマも、当時のSF映画ジャンルのスタンダードからは外れている。ジェームズ・カーンが珍しく繊細な演技を見せていて、ちょっといい。常にテンションの高いロバート・デュヴァルとは好対照。彼らの同僚役でアルトマン映画の常連マイケル・マーフィーも助演している。

 また、2人以上の人物の会話をオーバーラップさせるという、後にアルトマン作品のトレードマークとなる演出スタイルも随所に見られる。それまでならNGの対象になってきたようなテイクが、アルトマンにとっての「リアリティある会話」だった。パーティの場面や、高官たちの言い争うシーンで、騒々しくて何を言ってるのか聞き取れない言葉の応酬がそのまま繰り広げられる。

 しかし、スタジオの社長ジャック・ワーナーは編集中のラッシュを見て激怒。アルトマンをスタジオから閉め出し、映画を再編集してしまった。結果、できあがったものはアルトマン曰く「子ども向き」のSF映画。主人公の死を匂わせる結末も、お手軽なハッピーエンドに変えられた。それでも、先に述べた型破りな演出は、劇中でかなり強烈な場面として残っているし、再編集でもごまかしきれないアルトマン・タッチは所々に散見できる。深く濃い影をあしらった室内照明のデザインは、翌年の作品『雨にぬれた舗道』(1969)で徹底された陰影礼賛への布石にも思える。さすがに鏡やガラス越しの撮影、ズームレンズの濫用などはまだしていないが。

countdown02.jpg

 お子様映画化に一役買っているのが、『コンバット!』も手がけたレナード・ローゼンマンの音楽。ベタベタな古典的スコアが画面の緊張感を見事に殺いでいる。いいところもあるが、基本的には型にハマったハリウッド映画スタイルなのがイタイ。

 当時としては抜きん出たリアリティと緊張感はあるものの、最後までは持続しない。ちょっと残念な作品ではあるが、アルトマンのファンなら興味深く観られるはずの1本。『コンバット!』の演出担当回などとも併せて観たい。


製作/ウィリアム・コンラッド
監督/ロバート・アルトマン
原作/ハンク・シールズ
脚本/ローリング・マンデル
撮影/ウィリアム・W・スペンサー
音楽/レナード・ローゼンマン
出演/ジェームズ・カーン、ジョアンナ・ムーア、ロバート・デュヴァル、バーバラ・バクスレイ、チャールズ・アイドマン、スティーヴ・イーナ、マイケル・マーフィー、テッド・ナイト

・Amazon.co.jp
本「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/183-ff86fd35
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad