Simply Dead

映画の感想文。

『ベティ・フィッシャー』(2001)

『ベティ・フィッシャー』
原題:Betty Fisher et autres histoires(2001)
英語題:Alias Betty

Betty_Fisher_poster.jpg

 ルース・レンデルの長編小説「身代りの樹」を、フランスのクロード・ミレール監督が映画化した群像スリラー。前からずっと観たかった作品で、たまたま「シネマナウ」というサイトで配信されているのを知り、字幕つきで観ることができた。

 日本でクロード・ミレールの代表作というと『なまいきシャルロット』(1985)とかになるのだろうけど、本当はサスペンスの名手でもある。長編デビュー作『一番うまい歩き方』(1976)から傑作『ニコラ』(1998)まで、日常に生まれる歪みや緊張感を焙り出すのが凄く巧い。本作もまた、ミレールの繊細な心理描写に基づくサスペンス演出に溢れ、およそ10人ものドラマが交錯するシナリオを、歯切れのいい語り口で捌ききる秀作だ。

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〈おはなし〉
 冬。作家として成功したベティ(サンドリーヌ・キベルラン)は、幼い息子ジョゼフと二人で、郊外の町に暮らしている。そこへ、外国に住む母マルゴ(ニコール・ガルシア)が持病の検査のために泊まりに来た。かつてベティは、発作を起こして精神不安定に陥ったマルゴに殺されかけた過去があった。

 そんな時、ジョゼフが2階の窓から転落。病院に運ばれるが、そのまま息を引き取ってしまう。ショックでその場にくずおれるベティ。

 病院の廊下に倒れたベティをしげしげと見つめる、ジョゼフとよく似た少年がいた。彼の名はジョゼ(アレクシス・シャトゥリアン)。手首の怪我を看てもらうため、母の恋人である黒人青年フランソワ(リュック・メルヴィル)に付き添われて病院に来ていた。彼の体には至るところに虐待の痕があったが、フランソワも医者もそれを知らない。

 ジョゼの母カロル(マティルド・セニエ)は、カフェでウェイトレスをしている。多情で野心に満ちた彼女は、常に男たちの目を引き、やがて金持ちのギャングとつるみ始める。フランソワとの仲も急速に冷えていった。

 3週間後――失意に暮れるベティの世話をする母マルゴは、どこか嬉々としている。ベティにはそれが疎ましい。そんな時、マルゴは知人から預かってきたという少年を家に連れて帰ってくる。ジョゼだった……。

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 映画は「ベティの物語」「フランソワの物語」「ジョゼの物語」など幾つも章立てされ、入れ替わり立ち代わり各キャラクターのドラマが映し出されていく。そこに登場するのは、誰もが身勝手だったり嫉妬深かったり冷酷だったりする「ろくでもない」人間ばかり。他人の子を誘拐してきたり、我が子を傷付けたり、元妻を脅迫したり。主人公ベティも、狂った母親が身代わりに連れてきた少年にいつしか愛着を抱き始め、かりそめの幸福へと逃避する。

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 誰が見ても破綻が約束された愚行へと突き進むアウトサイダー達。はたしてベティ・フィッシャーの行く末は……意外や、実に痛快な結末を迎えるのだった。細い糸で微かに繋がれていたそれぞれのドラマが一気に収束していくラストの展開は、それまでの痛ましさや寒々しさが霧散するカタルシスをもたらす。空港を舞台にしたクライマックスの高揚感は、なかなか類を見ない。「それでいいの!?」と思わせつつ、つい笑みがこぼれてしまうエンディングもいい。観客はそこで「そうか、これってクリスマスの話だったんだ」と思い出す仕掛け。

 様々なかたちで愛を失い、迷走する人々の物語を、ミレールはサスペンスフルな犯罪映画タッチで、軽いユーモアも加味して手際よく描いていく。緊張感と冷気を湛えた映像も見事だ。笑いの部分を一手に担う、ケチなパスポート偽造屋アレックスに扮するエドゥアール・ベアが儲け役。『ダニエラという女』(2005)でもそうだったが、男前のくせにものすごく情けない表情をするのが巧い。情緒不安定の母親マルゴを演じるニコール・ガルシアの演技も素晴らしかった。

▼左がアレックス役のエドゥアール・ベア
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 『ニコラ』ほどの完成度には達しないまでも、十分に面白い快作である。パソコン画面でしか観れないのは勿体ない。ちなみに現在公開中のクロード・シャブロル監督作品『石の微笑』(2004)も同じくレンデル原作で、こちらもかなりの秀作。


監督・脚本・台詞/クロード・ミレール
原作/ルース・レンデル「身代りの樹」
撮影/クリストフ・ポロック
編集/ヴェロニク・ランジュ
音楽/フランソワ・ドンピエール、トム・ヨーク
出演/サンドリーヌ・キベルラン、ニコール・ガルシア、マティルド・セニエ、リュック・メルヴィル、エドゥアール・ベア、ロシュディ・ゼム、アレクシス・シャトゥリアン、アルチュール・セボン

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