Simply Dead

映画の感想文。

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『雨にぬれた舗道』(1969)

『雨にぬれた舗道』
原題:That Cold Day in The Park(1969)

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〈おはなし〉
 秋のヴァンクーヴァー。高級アパートに暮らす32歳の独身女性フランシス(サンディ・デニス)は、ある雨の日、公園のベンチに座ってずぶ濡れになっている少年(マイケル・バーンズ)の姿を目に留める。彼女は少年を自宅に招き入れ、濡れた体を拭き、風呂に入れてやる。彼は一言も喋らなかったが、耳は聞こえるようだった。フランシスは一方的に少年に語りかけ、彼をベッドに寝かせ、部屋に鍵をかけた。朝になると食事を用意し、甲斐がいしく世話を焼いた。

 ところが少年はしばらくして部屋の窓からあっさり出ていく。自宅に帰ると、姉(スザンヌ・ベントン)と恋人がセックスの真っ最中。荒れた生活環境で育った少年は、唖でもなんでもなく、いつまででも黙っていられる「特技」の持ち主だった。少年は姉たちのベッドに潜り込み、ここ数日の顛末を語る。「今まであんな人に会ったことないよ……とにかくよく喋るんだ」

 翌朝、フランシスは少年が部屋を去ったことを知る。また灰色の孤独な日常が始まる……。その時、少年が部屋に戻ってきた。

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 ロバート・アルトマン監督が『M★A★S★H』(1970)で名を馳せる前に手がけた、スリラータッチのシリアスドラマ。様々な抑圧を抱えて生きる孤独な三十代女性と、行き場をなくした少年が出逢い、残酷なすれちがいの末、衝撃的なラストを迎えるまでを描く。

 静かに狂気を孕んでいくヒロイン、サンディ・デニスの鬼気迫る演技が何しろ圧巻。スターらしい華はないが、品のいい美しさがキャラクターに一役買っている。特に素晴らしいのは、暗闇の中、寝ている少年に自分の孤独な心情を吐露する場面だ。自分に言い寄ってくる年輩の男への不満をこぼしながら、「あなたがセックスしたい時は言ってね……私と寝たいなら自由にしていいの……あなたの好きなように……お願い、抱いて」と言って、ベッドに忍び寄る。このシーンは観ていて本当に胸が締め付けられる(オチがまた残酷)。当初はエリザベス・テイラーが想定されていたという役を、サンディ・デニスは最低限の感情表現で、切々と、だが強烈に演じきっている。時折、動きがダンスのように機械的になる瞬間があって、ゾクッとさせられた。

 演出はファーストシーンから十分うまいが、後のアルトマンらしさはあまり感じられない。だがそのうち、窓の外から覗き見るようなカメラアングルや、エキストラの台詞をSEのように聞かせる演出が表れ始めると、「おお、これはまさしく!」と思わずにはいられない。特にヒロインが産婦人科に行くシーンの撮影設計が秀逸。半地下階にある病院の待合室を、上にある採光窓から覗くように捉え、ヒロインの動きに合わせてドリー移動する。同室で待つ若い母親たちの歓談に耐えきれなくなった彼女は、部屋の隣にあるトイレに移動するが、ここでカメラも隣室へついていくのだ。TVから映画に乗り込んだばかりのアルトマンの才気がうかがえる、スリリングな名演出だ。

 大部分が深い闇に包まれたルックも、アルトマンにとっては「映画にしかできない素晴らしい利点のひとつ」だったのだろう。とにかく、暗い。ここまで思いっきり画面の暗い映画も、当時としては珍しかったと思う。撮影は同年『イージー・ライダー』(1969)も手がけたラズロ・コヴァックス。陰鬱さを通り越して硬質なサスペンスを生む闇、ひたすらシャープなカメラワークが凄い。型破りな映画作りに対応できるコヴァックスとの出会いは、アルトマンにとって幸運だっただろう。サンディ・デニスの特徴的な口元だけに光を当てる演出も印象的。

 映画がある種のピークに達するのは、ヒロインが少年に娼婦をあてがうため、夜の街に出てポン引きを訪ねる場面。ロケ撮影と思しき、薄汚い地下のダイナーが舞台となるのだが、その怪しい空気感が無茶苦茶リアルなのだ。店内の明度といい、すすけた内装といい、エキストラの存在感といい、凄まじい生々しさ。ここまでリアルな感触は後のアルトマン作品でも見当たらないほどだ。ちなみにヒロインをポン引きに紹介する男を演じているのは、常連俳優のマイケル・マーフィである。

 といって、暗鬱なばかりの映画ではない。ヒロインと少年の交流や、少年とその姉が泡風呂の中でじゃれ合う場面など、息抜きも多くある。終盤は確かにホラーだが、全体には安易なジャンル分けを許さない、繊細で叙情的な人間ドラマだ。

▼日本版の原作文庫本
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 しかし、この内容から翌年の『M★A★S★H』へ、さらに『BIRD★SHT』へと振り切っていく作風の転換は、今考えると凄いものがある。現在開催中のPFFの特集「はじめましてアルトマン」でも、ぜひ上映してほしかった。この『雨にぬれた舗道』は本国ではDVD化されておらず、日本でも観るチャンスがほとんどない(僕はリパブリック社から出ていたVHSをたまたま入手して観た)。紀伊国屋書店さんあたりが頑張ってくれないかなぁ……。


製作/ドナルド・ファクター、レオン・ミレル
監督/ロバート・アルトマン
原作/リチャード・マイルス
脚本/ギリアン・フリーマン
撮影/ラズロ・コヴァックス
美術/レオン・エリクソン
音楽/ジョニー・マンデル
出演/サンディ・デニス、マイケル・バーンズ、スザンヌ・ベントン、ジョン・ガーフィールドJr.、マイケル・マーフィ

・Amazon.co.jp
本「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」


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