Simply Dead

映画の感想文。

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『秒速5センチメートル』(2007)

『秒速5センチメートル』(2007)

 厚顔無恥というのはこのことだなぁ、と半ば感心しながら観た。映画は三部構成のオムニバスになっていて、特に第1話の「桜花抄」が凄い。本当にスゴイ。

 小学校卒業と共に遠くへ引っ越してしまった好きな女の子に会うため、男の子が初めてのおつかいじゃなかった初めての遠出をする話。一人で旅をする不安や、電車が遅れて約束した時間に辿り着けない焦りや絶望を、丹念なディテール描写を積み重ねて描いていく。が、丹念に描いているようでもうひとつ突っ込んだリアリティがない。靴が濡れて気持ち悪いとか、乗り馴れないディーゼルカーの段差につまづくとか、肉体感覚がまるでないのだ。何か、頭のなかで考えただけの域にとどまっている感が濃厚にある。まあ、そこまではいい。

 夜中になってやっと田舎の駅に着いたら、女の子がちゃんと待っている。普通ならここで、「彼女はもういなかった」よりも悪い展開を思い浮かべるだろう。女の子の家にこっそり泊まろうとして、親に見つかって叱られるとか、なんか凄く気まずい話になるのかな? と思うと、そうはならない。もはや「捏造された記憶」としか思えない展開になっていく。そうか、妄想オチか! もう絶対そうなると信じて疑わなかった。というか、そうでなければ、いい歳をした作家が人様に見せる作品として、本当にどうかと思う。

 でも、映画は別の意味で悪い方向へ、ストレートに流れていく。

 雪の降る夜、ふたりは物置に隠れて夜を明かす。そのまま寄り添って何事もなく朝が来る。なんだこれは。その前の、小学生時代の回想シーンでも、「僕たちはたった2人で世界と戦っていた」みたいなことをサラリと言ってのける激安テイストにノックダウンさせられてしまうのだけど、後半の比ではない。もう憤死級。双方の親御さんは警察に行方不明届けを出したりして大変だろう。でも当然そんな場面は描かれない。だって世界には2人だけしかいないのだから。アホか。夢オチでないのなら、せめて「そのままヤッちゃった」ぐらいの展開が欲しかった。

 第2話「コスモナウト」は、別の女の子の視点から見た軽い失恋話で、まあこれも綺麗事の範疇から出ない作品ではあるが、1話のとんでもない内容に比べたらずっと好感の持てる出来。季節感や背景の描き込みも、こちらの方が優れている。リアリティのある生活描写を狙っているようで、四人家族なのにシチューの鍋が小さすぎるとか、細かいチョンボは多々ある。でも、わりと平気で観ていられた。宇宙開発のモチーフが控えめにアクセントとして使われているのも効いている。

 ところが第3話「秒速5センチメートル」になると、1話のこっぱずかしい作者の思い入れが再びぶり返してくる。さらに、後半は山崎まさよしの「One more time, one more chance」がまるまる1曲流れ、好きなようにPV作ってみました、という想像を絶する展開。それは映画の作り方としてあまりにズルい。1?2時間の作品のテーマ曲に使うならいざ知らず、たかだか10分くらいの短編にフルコーラス流しておいて、曲と違う題名を付けるなんて。これだけ音楽におんぶにだっこの作品なのに、何か倫理に外れてやしないか?

 3話には、1話の少女とその家族が出てくるが、「あの時は帰ってこなくて本当に心配したわよ」の一言もない。なぜだ。作劇としてそれはおかしい。

 美術の描き込みや繊細な演出には、確かに並々ならぬこだわりを感じる。だが作家としての視点があまりに幼稚で、狭量だ。淡い初恋の終焉や、思い通りにいかない人生を描いているからって、深みのあるドラマになっているかといえば全然そんなことはない。誰がどう見ても、頭で考えただけの「ひとりで作った映画」になっている。こんな甘い甘いお菓子みたいな他人の妄想夢物語を誰が喜んで観るんだ? と思ったら結構ヒットしているらしいので、みんな相当逞しいワンダーの持ち主なんだなあ、といたく感じ入った次第。


監督・原作・脚本/新海誠
キャラクターデザイン/西村貴世
作画監督/西村貴世
美術/丹治匠、馬島亮子
音楽/天門
声の出演/水橋研二、近藤好美、尾上綾華、花村怜美

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