
凄かった。想像をはるかに凌ぐ映画だった。もしほんの少しでも多感な時期に大林映画のお世話になったと思うなら、絶対に見逃してはならない。素直に傑作と呼べないほど衝撃的で、旧作とはまた違う深みを持った必見作だ。
大林宣彦監督の代表作であり、最高傑作である『転校生』(1982)。そのリメイクが大林監督自身によって作られたと聞いて、やんなきゃいいのに……なんて落胆を覚える仕上がりを想像したなら、それは完全な間違いである。
まず、観客はおなじみの「A MOVIE」のタイトルに感傷を覚える間もなく、次の瞬間にはひたすら生命力溢れる大林演出に振り回されることになる。ダイナミックかつ大胆なカメラワーク、畳み掛けられる膨大な台詞、めまぐるしいカッティング……おそらく日本中のどこを探しても、この若々しさに勝てる現役監督はいまい、という恐ろしい確信に襲われる。
少年少女から活き活きとした演技を引き出す演出手腕も、全く衰えていない。ヒロイン・斉藤一美(=カズオ)を演じる蓮佛美沙子の表情が何しろ魅力的で、手足の長い現代っ子のスレンダーな身体をもてあますような動作がとても目に楽しい。ボーイッシュな台詞回しも自然でキュート。萌える! というか、今や男と女が入れ替わらなくとも、こういうヒロインの造形は全然アリだ。むしろ女の子が強くて男の子がナヨナヨしてる構図の方が普通にリアルだろう。それでも今回の映画を観ると、原作のシンプルなアイディアが持つおかしさが、いまだに失われていないことが分かる。

斉藤一夫(=カズミ)役の森田直幸も巧演。クラシック好きでピアノも弾けるガサツな男子という、若干ムチャクチャなキャラクターを、冒頭10分で鮮やかに印象付ける。韓国映画『バンジージャンプする』(2001)のようなオリジナル展開では、男同士のキスシーンまで披露! 旧作でも感じることだが、『転校生』でカズミを演じる男の子は、演技プランが間違ってるんじゃないか? と思われてしまうのでちょっと損だ。それだけ蓮佛美沙子も小林聡美も、最初から男の子っぽさを魅力的に備えているからなのだけど。
主演のふたりをサポートするバイプレイヤーの顔ぶれも見どころ。清水美砂ってこんなにいい女優になってたのか! とか、田口トモロヲの異物感は健在だなぁ、とかいろいろ楽しませてくれる。けど、いちばんグッと来たのは旅役者に扮した宍戸錠と山田辰夫の競演。ふたりが放つニューロティックな香気が、意外なほど素晴らしい。あと、斉藤健一の本名で出演している芸人ヒロシが儲け役。あれを演技と呼んでいいかは微妙だけど、ファンは必ず観に行くように。
撮影監督・加藤雄大のエネルギッシュな仕事ぶりも凄まじい。全カットにわたって極端に傾いだ構図は、つい最近観たハル・ハートリー監督の『Fay Grim』(2006)を思い出させた。画的にも相当似ているが、新しいスタイルに挑戦せずにはいられない映画作家の前のめりな勢いという点では、大林監督の方が勝っている。
前半は、観ていて本気で「これは本当にひょっとして、2000年代の新たな青春映画の金字塔になるかも!」と思った。ストレートなリメイクとしてはいちばんの成功作じゃないか、と。ところが映画は後半、思いもよらない展開へと傾いていく。監督が今この作品をリメイクした理由は、そこで明らかになる。
〈以下、ネタバレ〉

もちろん『転校生』の主人公である少年少女は、ラストでお別れしなければならない。だが今回は……“別れ”ってそういうことか! 『転校生』を観に来てそんな展開に出会うのは、近年巷にはびこる難病ものを観るより、何百倍もショッキングだった。
でも、そこに有り体の悲劇性を持ち込まないのはさすが。優しくユーモラスに、主人公たちの運命を看取っていく。それこそが大林監督の凄みでもある。若さへのエールと、揺るぎない無常観が入り混じる作風を、残酷と呼ばずして何と言おう。10年前でも、ここまで凄い映画は撮れなかったと思う。年輪を重ねた大林監督だからこそ到達し得た境地だ。
とはいえ、心の片隅で「流行狙いか?」という失望がよぎらなかったと言えば嘘になる。だが映画が進むにつれて、大林監督が単純におなじみのストーリーに死の悲劇性を持ち込んだわけではないことが分かってくる。それが『転校生』の物語である以上、過酷な運命を背負うのは最愛のパートナーであり、また自分自身なのだ。オリジナル版にも死は微笑ましくも深刻なモチーフとして現れていたが、本作では文字通り恋人同士が「死を共有する」。悲恋ものとして、このアイディアは発明と言っていい。
だが、大林監督は死ぬこと自体の悲愴感をまったく押さない。少女(=少年)が健気に運命を引き受けていく姿を、淡々と映し出す。最近公開された某戦争賛美映画を揶喩するかのように、「僕は君のために死ねる」という取り扱い注意の台詞を、実に豊かに聞かせてしまう。そしてラストで起こる運命の逆転でも、主人公たちに決して狼狽させない。避けられない死をも、優しく穏やかに、清々しく描ききってしまうのだ。エピローグには、今や生と死を等しく見つめる大林監督のにこやかな表情が(凄みと共に)透けて見える。
本作は、これからを生きる少年少女たちに向けたメッセージであり、また、若くして旅立った者たちへのレクイエムでもある。そこには59歳で亡くなったオリジナル版『転校生』の脚本家、剣持亘も含まれているだろう。その思いを捧げるために、15歳のヒロインを“なんの悔いなく”旅立たせてしまう監督は、やっぱり鬼だと思うけど……。
だからこの映画を観た後は、否応なく考えてしまう。もし大林監督がいなくなったら? そしたら今度こそ自分は「人って必ず死ぬんだ」と思い知らされると思う(友達は深作欣二監督が亡くなった時に同じことを言っていた)。少なくともこの映画が「遺言」ではなく「鎮魂歌」であることには、少し安心したけど。
そうそう、主題歌も凄くよかった。映画中盤でヒロインがピアノを弾きながら歌うシーンはとても美しい。今、青春映画でそんな描写に感動できるとは思わなかった。
製作/黒井和夫
監督・編集/大林宣彦
原作/山中恒「おれがあいつで あいつがおれで」
脚本/剣持亘、内藤忠司、石森史郎、南柱根、大林宣彦
撮影監督/加藤雄大
美術/竹内公一
音楽/山下康介、學草太郎
出演/蓮佛美沙子、森田直幸、清水美砂、厚木拓郎、寺島咲、石田ひかり、犬塚弘、古手川祐子、田口トモロヲ、宍戸錠、山田辰夫、斉藤健一、細山田隆人、長門裕之
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原作本『おれがあいつであいつがおれで』

