Simply Dead

映画の感想文。

『The Equinox ...A Journey Into the Supernatural』(1967)

『The Equinox ...A Journey Into the Supernatural』(1967)

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〈おはなし〉
 精神病院に隔離されている青年デイヴィッド(スキップ・シャイマー)。何かを恐れるように心を閉ざす彼が語った体験談は、完全に常軌を逸したものだった……。

 1年前。デイヴィッドたち4人の男女は、車で人里離れた森へと出かけた。山小屋に引っ込んで音沙汰のないウォーターマン教授を訪ねるついでに、みんなでピクニックでもしようという算段だ。しかし、教授のコテージは天災にでも遭ったかのように、メチャクチャに破壊されていた。一行は教授の行方を探す途中、洞窟の奥から鳴り響く奇声を聞く。中へ進むと、薄気味悪いキチガイ老人が現れ、古文書のようなものを強引に手渡されてしまう。

 水辺で小休止する4人。そこに何者かが近付き、古文書を奪って逃げ出した。ウォーターマン教授だ! デイヴィッドらが追うと、教授は転倒した弾みに絶命。しばらくすると、今度は巨大な怪物が襲いかかってきた! どうやらこいつの狙いも古文書らしい。次々と奇怪な出来事に見舞われる中、彼らはこの森に、異形の者たちが現れる別世界との“境界線”があることを知る……。

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 『ジュラシック・パーク』(1993)で特撮映画史にひとつの金字塔を打ち立てたSFXアーティスト、デニス・ミューレン。彼が学生時代に友人のマーク・トーマス・マッギーらと制作したハンドメイドのモンスター映画、それが本作『The Equinox ...A Journey Into the Supernatural』だ。アラン・ルドルフ監督の同題映画もある「Equinox」という言葉は、昼夜平分時、つまり日本語でいう春分または秋分の意。昼と夜が対等になる時を、現世と異世界の境界に見立てている。

 撮影は65年から66年にかけて行われ、67年に完成。その後、B級映画プロデューサーのジャック・H・ハリスに買い取られ、追加撮影と再編集を経て『Equinox』という短縮タイトルで70年に劇場公開された。2006年にアメリカのクライテリオン社から発売されたDVDには、双方のバージョンが収められている。

 先に70年版を観ていたため、あまりいい印象を持っていなかったが、初めてオリジナル版を観て考えを改めた。70年版は珍妙なキャラクターが付け足され、冷笑的な悪意に満ちていたが、本来ミューレンたちが目指したものはもっとシンプルでシリアスなスリラーだったことが分かったし、70年版では霧消していた作り手のイノセンスも感じられた。ただしそれは、どんくさい怪獣映画マニアの屈託ない無邪気さとは違う、言い知れぬ不安を湛えたイノセンスだ。

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 考えてみたら、ベトナム戦争や公民権運動、ケネディ大統領暗殺といった世情の不安をダイレクトに受け止めてきた60年代アメリカの若者が、そんなにノーテンキな映画を作るわけがなかった。なんせ『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)の前年にできた映画だし……なんてコジツケはさておいても、ある時代の不穏なムードが反映されているのは確かだ。70年版はそれが悪ふざけ的なユーモアに消化されてしまったが、オリジナル版にはより素直な若者たちの「不安」が、通底音として刻まれている。何の変哲もない日常が、あるきっかけで噴出した暴力や悪意によって、完膚なきまでに破壊される予感。「異次元の扉が開いて怪物が溢れ出してくる」というラヴクラフト的な題材が、時代の気分と合致しているのだ。ひどくのどかな明るい映像、全編に漂う静けさ(ダビング処理が拙いせいだ)、そして素人俳優たちの邪気のない芝居が、余計に不穏なムードを際立たせている。前半のモラトリアム的な感じなんかはちょっと『バッド・チューニング』(1993)ぽい。←褒めすぎ?

 とはいえ、それは作者たちの無意識の産物だろうし、意識的にサスペンス醸成を試みた部分は、基本的にアマチュアの域を出ていない。最も力が入れられているのは、やはりストップモーションアニメによる特撮シーンだ。手がけたのはデニス・ミューレンと、デイヴィッド・アレン。アレンもまた後に『空の大怪獣Q』(1982)などの見応えある仕事で、特撮ファンに一目置かれるストップモーション・アニメーターだ。そして、すでにハリウッド作品で活躍していた先輩のジム・ダンフォースが、本作にはマットアーティストとして参加している(ついでにカースタントも担当)。オリジナル版では、彼らの才気溢れる仕事をふんだんに見ることができる。アラも多いが、センスが抜群にいい。特に素晴らしいのは終盤に登場する、羽を持った悪魔。その動きの生々しさ、見せ方の巧さはちょっと驚き。巨人が登場するシーンの特撮も見事だ。

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 サム・ライミ監督の出世作『死霊のはらわた』(1982)とのストーリー上の相似は、多くの文献で指摘されているとおり。映像的には、大部分が真っ昼間に裏山で撮ったようなチープなルックだが、たまに様子が変わるのが面白い。どぎつい色彩と大袈裟な構図でテンション高くたたみかける教授の回想シーンなどは、ECコミックス的な映像センスといい、どちらかというと『死霊のはらわた2』(1987)の方を思い出す。また、ある境界線を越えると赤色フィルターのかかった異世界が広がり、頭巾を被った亡者たちが悪魔に支配されている……という描写は、設定的にもビジュアル的にも、むしろ『ファンタズム』(1979)への影響を感じさせた。

 コアな映画マニアだけでなく、映画制作を志す人やアニメーター志望の若者が観れば、なんらかの刺激は得られると思う。デジタル全盛の時代に自主制作のアナログ特撮映画なんか観てもなぁ、とか思うならそれまで。発想力と意欲に溢れ、独学でこつこつ知識を蓄えた人間が、予算もスキルもない状態で、どれだけオリジナルな仕事をしているかを観るのが大事だから。

・DVD Fantasium
『Equinox』DVD(US盤)


製作・監督/デニス・ミューレン
脚本・共同監督/マーク・トーマス・マッギー
特殊効果撮影/デニス・ミューレン、デイヴィッド・アレン
マットアーティスト/ジム・ダンフォース
音楽/トゥルーマン・フィッシャー
出演/スキップ・シャイマー、バーバラ・ヒューイット、フランク・ボアーズJr.、ロビン・スナイダー、フリッツ・ライバー、ジム・デュロン

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