Simply Dead

映画の感想文。

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『丼池』(1963)

『丼池』(1963)

 傑作川崎市市民ミュージアムの「人情派バンザイ! 映画監督・久松静児」で観てきた。浅草東宝なき後、こういう特集はつくづく貴重。

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〈おはなし〉
 大阪中心部に位置する繊維街・丼池〈どぶいけ〉で、高利貸を営む2人の女。片や、持ち前のがめつさで戦後のどさくさを逞しく生き抜いてきた丼池筋の顔、平 松子(三益愛子)。そして、自ら“信念”をもって消費者金融業を始めた大学出の美しき才媛、室井カツミ(司葉子)。彼女の父は商人だったが、戦後のモラルなき生存競争のなかで真っ先に食い物にされ、自殺した。カツミの信念とは、父を死に追い込んだ新興商人たちへの復讐だった。だが、合理主義を標榜しながら、中途半端な甘さは捨てきれない。

 かつてカツミと婚約していた青年・定彦(佐田啓二)は、やはり大店の跡取りだったが没落し、今は丼池の老舗洋品店「園忠」の番頭をしている。表向きは繁盛しているように見えたが、内情は火の車。株に手を出して盛り返しを図る店主(中村鴈治郎)は、松子やカツミに融資を求めるが、松子はこれを機に「園忠」を潰そうと画策する。そうはさせじと妨害を始めるカツミ。定彦の制止も聞かず、2人の火花散る対決が幕を開ける。さらに、店主の愛人・ウメ(新珠三千代)の巧妙な乗っとり計画まで絡んできて……。

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 久松静児作品の魅力に気付いたのは最近のことだ。ビデオで永井荷風原作の『渡り鳥いつ帰る』(1955)を観て、胸打たれたのが最初。市井を舞台にした人間ドラマを数多く手がけているせいか、今回の特集でも「人情派」などと冠されているが、その人間観は人生の苛烈さをクールにわきまえたヒューマニストの姿勢ともいうべきもので、ベタついたところがなく、快い。『飛びっちょ勘太郎』(1959)のように、善意に満ちたストーリーを口当たりのいい演出で描く手腕にも秀でているが、実は本作や『渡り鳥?』のように、人間の悪意や弱さを見据えた辛辣なドラマを面白おかしく活写するときが最高だ。

 圧巻なのは、そのスピーディで澱みない語り口。ヒロイン司葉子が破産した商店を差し押さえ、泣き叫ぶ店主相手にとくとくと自身の理想を語るアヴァンタイトルから、いい予感がみなぎっている。矢継ぎ早に繰り出される大阪弁の台詞の応酬で、場面場面を手際よく繋いでいく演出の巧さには、目を見張らずにいられない。カメラワークと音楽のマッチングも素晴らしい。中でも、因業な金貸し婆の三益愛子が猛然と町を横切る姿を追ったドリーショットと、ブラシを使ったリズミカルなドラムソロの掛け合いが最高だ。

「あんたの言いたいこと、大体分かったわ」と軽く言い放つ三益愛子の迫力、満身創痍になるまで追い込まれる司葉子の薄幸の魅力、佐田啓二の「ただ見守るしかない」男前の侘まい。どれもが素晴らしい。ほとんどアドリブのような巧みな台詞回しで、狂言回しのように映画を引っ張る森光子の芸達者ぶりも強烈に印象に残る。鴈治郎の娘役・田村奈巳の出演も個人的に嬉しかった。

 意外だったのは、助演に回った新珠三千代の快演。まったく悪びれもせず男を食い物にする若女将を、コケティッシュに実に活き活きと演じている。言っちゃなんだが、こういう人でなしの可愛い悪女役が本当によく似合うと思う。本作のように、軽快に弾けた彼女の演技がもっと見直されればいいのに。

 脚色は藤本義一。心ない登場人物たちの歯切れ良い台詞が、安易なヒューマニズムを快く蹴り上げる。同じく藤本脚本と相性のよかった川島雄三のようなケレンはないが、突き放し方は近い。


監督/久松静児
原作/菊田一夫
脚本/藤本義一
撮影/黒田徳三
照明/下村一夫
美術/加藤雅俊
編集/庵原周一
音楽/広瀬健次郎
出演/司葉子、三益愛子、新珠三千代、佐田啓二、森光子、田村奈巳、浪花千栄子、中村鴈治郎
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