Simply Dead

映画の感想文。

『パパ/ずれてるゥ!』(1971)

『パパ/ずれてるゥ!』
原題:Taking Off(1971)
▼日本公開時のパンフレット
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 チェコ出身のミロス・フォアマン監督が初めてアメリカで撮った作品。どういうわけだかいまだにソフト化されていないが、最近、WOWOWで放映した時の録画テープを発掘したので観てみた。邦題はまるでディズニー制作のファミリー映画のようだけど、中身はかなりブラックな風刺劇。世代間の断絶を突き放したユーモアで描き、1971年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。

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〈おはなし〉
 少女ジーニー(リニア・ヒーコック)は歌のオーディションに出るため、親に黙って外出。娘が帰らないことを心配した母親リン(リン・カーリン)は、夫のラリー(バック・ヘンリー)に探しに行かせる。が、為す術のないラリーは友人とバーで飲んだくれる始末。夜になってジーニーは無事に帰宅し、酔っぱらって帰ってきた父親にぶたれる。今度こそ、ジーニーは本気で家出。

 娘を捜してニューヨークの町をさまようラリー。他人のウチの家出娘を見つけて騒動に巻き込まれたり、警察から保護したと通報があれば人違いだったり……すったもんだの末、ラリーとリン夫妻はひょんなことから「家出少年少女の親の会」の会合に出席する。当世の若者たちの気持ちを身をもって知るため、出席者全員でマリファナを吸うことに。

 ラリパッパ状態で帰宅したラリーとリンは、会合で意気投合した夫婦(オードラ・リンドリー、ポール・ベネディクト)と一緒にトランプでストリップゲームを始める。気がつくとラリーは素っ裸に剥かれ、リンもトップレスに。その時すでに、娘が帰っていたことも知らず……。

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 60年代、チェコスロヴァキア映画界に訪れた「新しい波」の中で、ミロス・フォアマン監督は『ブロンドの恋』(1965)や『火事だよ!カワイコちゃん』(1967)などの作品で頭角を現した。両作品はアカデミー外国語映画賞にノミネートされ、話題を呼んだものの、『火事だよ!カワイコちゃん』は社会風刺的な内容のため国内上映禁止処分に。さらに、チェコの民主改革運動(プラハの春)が軍事介入で叩き潰された事件を機に、フォアマンは故国を捨て、新天地アメリカで本作『パパ/ずれてるゥ!』を撮り上げる。元々はフランスのクロード・ベリ監督と共同で進めていた企画で、脚本にはルイス・ブニュエル作品で知られるジャン=クロード・カリエールが参加(カリエールはフォアマンの新作『Goya's Ghosts』(2006)の脚本も担当している)。

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 ヒッピー文化への疑念が渦巻く70年代初頭、世代間のカルチャーギャップを描いたコメディといえばありがちに聞こえるが、仕上がりは一筋縄ではいかない。どちらの世代にもモラルを託さない冷徹な態度は、いかにも初期のフォアマンらしい。どちらかというと親の世代のダメさ加減をじっと観察する、視点の鋭さとシュールさは、傑作『火事だよ!カワイコちゃん』でも発揮されていた。

 全編にうっすらと“笑えないユーモア”を漂わせながら、たまにものすごいギャグを仕掛けてくるのが、やっぱり異常に巧い。後の『ラグタイム』(1981)や『アマデウス』(1984)の重厚さと堅実な語り口を思うと面食らうだろうが、フォアマンのチェコ時代を知る観客ならすんなり納得できるはずだ。オープニングなんて『ブロンドの恋』と同じだし、素人の女の子たちを好んで見つめる視線も変わらない。また、流浪の民となってしまった東欧出身の若き喜劇作家が、およそ文化の異なるアメリカを客観視している分、辛辣さもメランコリーも、より増している。

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 オーディション会場で緊張しながら歌う女の子たち。右往左往と脱線を繰り返すダメな親たち。カットバックを多用した編集は、時代性も感じさせて面白い。台詞は少なく、説明は抑え、じわじわとタガの外れたシチュエーションを作り出していく演出は、完全にハリウッドのセンスとは程遠い。非人間的なほど落ち着いたリズムと、映像の質感が、独特のムードとおかしさを生み出している。チェコ時代からの仲である撮影監督ミロスラフ・オンドリチェクの功績も大きい。

 チェコ時代と明らかに違うのは、主演の女の子(リニア・ヒーコック)がすごーく可愛いこと。映画は本作にしか出てないそうだが、もったいない話だ。はてしなく冴えない父親をトンチキかつカンペキに演じているのは、『キャッチ22』(1970)などの脚本家でもあるバック・ヘンリー。この人がショボクレたおっさんでなかった時期があったのだろうか、と真剣に悩むことが年に2度ほどある。特にコミカルなオーバーアクトをしているわけではないが、ビミョーな表情が無茶苦茶おかしい。さすがプロの仕事という感じ。ちょっと神経衰弱気味の母親を演じるのは、名作『デッド・オブ・ナイト』(1972)のリン・カーリン。酔っぱらって夫に絡む芝居が最高だ。

 フォアマン作品の常連俳優ヴィンセント・スキァヴェリは本作から出演。子供に家出された親たちにマリファナの吸い方を伝授する怪しげな男を演じている。アレン・ガーフィールドが『ブロンドの恋』にも出てきたような中年ナンパ師を巧演。『マンディンゴ』(1976)にも出ていた、立派なアゴがトレードマークの名傍役、ポール・ベネディクトも出演している。

▼若き日のヴィンセント・スキァヴェリ
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 また、キャシー・ベイツがオーディション参加者の一人として映画デビューしており、自作の歌を披露。『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)のジェシカ・ハーパーも、同様にオーディション参加者としてチラリ登場(本名で呼ばれる)。娘探しに行き詰まった夫婦がナイトクラブへ行くシーンでは、いきなりアイク&ティナ・ターナーが出てきて、結構がっつりパフォーマンスを見せてくれる(DVD化されない理由はコレか?)。そういう部分でも見どころ十分だ。



監督/ミロス・フォアマン
脚本/ジョン・グアーレ、ミロス・フォアマン、ジャン=クロード・カリエール、ジョン・クライン
撮影/ミロスラフ・オンドリチェク
編集/ジョン・カーター
出演/リニア・ヒーコック、リン・カーリン、バック・ヘンリー、ジョージナ・エンジェル、トニー・ハーヴェイ、オードラ・リンドリー、ポール・ベネディクト、アレン・ガーフィールド、ヴィンセント・スキァヴェリ、キャシー・ベイツ
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  • 2007/05/25(金) 19:38:02 |
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