Simply Dead

映画の感想文。

『Payback - Straight Up:The Director's Cut』(1999)

『Payback - Straight Up:The Director's Cut』(1999)

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 びっくりした。本当に全然違う映画になっていた。みにくいあひるの子が白鳥に変わったわけじゃないけど、前よりずっとよくなったと思う。特に今回復活したオリジナルのクライマックスは凄くいい。メチャクチャかっこよかった!

 まず決定的に違うのは、色調。『ペイバック』公開版は現像時にブリーチ・バイパス(色抜き処理)をかけてモノクロに近いエッジの利いた映像を作り出していた。だが『Payback - Straight Up』の映像はカラフルで黒の強い、ハイコントラストではあるが色彩豊かなルックに変わっている。肌の色つやもストレートに出ており、全体的にとても明るい。だから印象がまるで異なるのだ。

 今回のバージョンを製作するにあたり、ヘルゲランドと編集のケヴィン・スティットは、新たにオリジナルネガから編集用ポジをプリントし直した。その際、思いのほかネガの保存状態がよく、非常に発色が優れていたので、監督は製作当時のイメージとは違ったトーンで『ペイバック』を蘇らせることに決めたのだ。監督自身、こんなに鮮やかな色で『ペイバック』を見るのは初めてだったという。撮影中のデイリー(ラッシュフィルム)も、公開版と同じようにブリーチ・バイパスをかけて現像していたからだ。撮影から9年あまりを経て、デジタルで色調整を施し直した『Payback - Straight up』は、それだけで誰も観たことがない映画に生まれ変わったと言っても、過言ではない。

 もちろん変わったのはそれだけにとどまらない。オープニング、音楽、悪役を演じる俳優、クライマックスなど、様々な点で公開版とは異なる。自分の目でそれを確かめたい人は、この先を読まないように。


『Payback - Straight Up:The Director's Cut』の大きな特徴は6つ。

◆色が違う。
◆音楽が違う。
◆クライマックスがまるっきり違う。
◆ナレーションがない。
◆主人公が死ぬ。
◆犬も死ぬ。


 その他、公開版で付け足された部分……モグリの医者が弾丸を摘出するオープニング、クリス・クリストファーソンが出演するシーン全て、彼の息子をポーターたちが誘拐するくだり、そして2つの爆破シーンなどが削除された。さらにヘルゲランドが演出した場面も、再編集を機にいくつか切り詰められ、結果的に90分というタイトな尺の作品に仕上がっている。

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 映画のオープニング・シークエンスでは、前置きや説明なしに、ポーターがどこからか街へと舞い戻ってきた姿が映し出される。さながら死んだはずの男が地獄から追い出されたかのように。その亡霊じみた異様な存在感の提示のしかたは、同じ原作を持つ『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(1967)の手触りに近い。

 主人公ポーターが裏切り者の妻リン(デボラ・カラ・アンガー)を訪ねる場面では、激情にかられて彼女をぶちのめすシーンが復活。ここで特筆すべきは、ポーターが拳を振るうきっかけが妻の注射痕だらけの腕を見たことであり、彼女もそれに対して果敢に反撃し、2人の距離が一挙に縮まる……ある意味、ロマンティックな活劇シーンであることだ(この取っ組み合いの撮影でアンガーは肋骨を折った)。本バージョン後半のとある場面でも、ドライな暴力を通してロマンスを描く場面がある。そうしたいびつでシリアスなラブロマンスの要素は、おそらくブライアン・ヘルゲランドの個性であり、公開版では見受けられなかったものだ。

 そして、クリス・クリストファーソンが演じた組織のボス、ブロンソンに扮しているのは誰だったか? なんと『M★A★S★H』(1970)のホット・リップスこと、サリー・ケラーマンなのだ!(ただし電話の声のみの出演)。いかつい名前で裏社会を統べる悪の元締めが、実は女だったというヘルゲランド脚本独自のツイストが、公開版では全く失われていた。この物語で主人公を死の淵へ追いやるのは常に女だ、とヘルゲランドは言う。

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 ルーシー・リュー率いる中国マフィアを片付けた後の展開は、まるまる初公開のクライマックス。ポーターは金を受けとるために地下鉄高架駅へと向かい、待ち伏せる組織のギャングたちを次々と始末していく。そしてまんまと14万ドルを手にするが……という流れが巧みに描かれていく。スリラー作劇の名手であるヘルゲランドの面目躍如という感じ。何よりメル・ギブソンの非情な殺しっぷりが痛快! 主人公がひたすら躊躇なく悪党どもを撃ち殺していく様は、ガンアクション好き、ハードボイルド好きにはたまらない見せ場だと思う(特に駅のトイレでの短い銃撃シーンが絶品)。メル・ギブソンの演技も素晴らしく、自身も弾を食らってよろめきつつ撃ちまくるあたりの動作が凄くいい。こんな最高の芝居を封印するなんて、もったいない話だ。

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 元々フィルムメイカー志望だった若手脚本家ブライアン・ヘルゲランドは、映画化のあてもなくリチャード・スタークの『悪党パーカー/人狩り』を基にしたシナリオ『ペイバック』を書き進めていた。そんな時、彼が脚本を手がけた『陰謀のセオリー』(1997)に主演したメル・ギブソンが、その台本に目を留めた。もし書き終えたらチャンスをやる、とギブソンは言い、ヘルゲランドが完成した第1稿を送ると、12週間で撮れるなら自分で監督しないか? と申し出た。ちなみにヘルゲランドは『陰謀のセオリー』撮影中ずっと監督のリチャード・ドナーのそばに張り付き、映画演出のなんたるかを徹底的にレクチャーされたのだとか。ギブソンとの交流を築いたのもその時だという。

 『ペイバック』はメル・ギブソンの映画会社アイコン・プロダクションで製作された。が、ファーストカットが完成した段階で、配給権を持つパラマウントとワーナーが難色を示し、再撮影が示唆された。問題となったのはダークなエンディングと、ポーターが容赦なくギャングを射殺する場面(ただしひねったラブシーンでもある)、そしてマリア・ベロ演じるロージーの飼っている犬が撃ち殺される場面だった。特に問題視されたのは3つ目。映画の中で犬を撃ち殺すなど、もってのほかだ!(じゃあ『遊星からの物体X』とか『ワンダー・ボーイズ』はどうなるのか?)

 スタジオと揉めている頃、ヘルゲランドはちょうど『L.A.コンフィデンシャル』(1997)でアカデミー脚色賞を受賞。これで風向きが変わるか? という願いもむなしく、数日後に彼はクビになった。ワーナー/パラマウントもいい度胸をしている。メル・ギブソンの罪は、そこで自分がチャンスを与えた若手監督を擁護せず、撮り直しを承諾してしまったことだ。ギブソンはヘルゲランドに、スタジオの要望どおりに再撮影する機会を与えたが、それはヘルゲランドにとって“チャンス”とは呼びがたいものだった。結局、追加部分のシナリオは『デッド・カーム/戦慄の航海』(1989)などで知られるオーストラリア人脚本家テリー・ヘイズによって書かれ、プロデューサーであるギブソンの指揮でリテイクが行われた。

 そして8年後、ヘルゲランドが目指した映画『ペイバック』はようやく陽の目を見た。少なくともヘルゲランドにとっては、これが真の意味での初公開だろう。ディレクターズ・カット版『ペイバック』はいくつかの映画祭で先行上映された後、2007年4月、米・パラマウント社からDVDがリリースされた。特典映像のインタビューには、監督や主演のギブソン、さらに原作者のリチャード・スターク(ことドナルド・E・ウェストレイク)まで登場する。ファン必携の1枚だ。

 個人的に気になっていたスコット・スタンブラーによる新録スコアは、別に大したものではない。むしろ、音楽自体はともかく、曲の入るタイミングが説明的でよくないと思う。ともあれ新生『ペイバック』に相応しいイメージをもたらすものにはなっている。ちなみに前に書いたウィリアム・ディヴェインの変な死に様は、やっぱり別テイクに差し替えられていた。残念。

▼監督のブライアン・ヘルゲランド(左)と、新たに音楽を担当したスコット・スタンブラー
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監督・脚本/ブライアン・ヘルゲランド
原作/リチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイク)
撮影/エリクソン・コア
美術/リチャード・フーヴァー
編集/ケヴィン・スティット
音楽/スコット・スタンブラー
出演/メル・ギブソン、グレッグ・ヘンリー、デボラ・カラ・アンガー、マリア・ベロ、ウィリアム・ディヴェイン、ルーシー・リュー、ジェームズ・コバーン、ビル・デューク、ジャック・コンリー、デイヴィッド・ペイマー、サリー・ケラーマン(声のみ)

・DVD Fantasium
『Payback - Straight Up:The Director's Cut』DVD(US盤)
・Amazon.co.jp
原作本『悪党パーカー 人狩り』
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コメント

ども!初めまして・・

最初に、どうも有難う!・・・と。
いや昔、地上波で放送された
ペイバックのあのOPの音楽が
聴きたくて、適当につべの動画を
漁っていたら、映画本編の動画も
upされていて、思い出しついでに
「10/10」(劇中最後~エンディング)
を観ていたら、な~んか昔オイラが
見たラストシーンと
全然違う訳です(笑)。ちょっと混乱
しましたが、ググって適当に見つけた
コチラのブログにその全容が
あがっていたので、助かりました!
ハリウッドの映画は何バージョンか
違うカットもあるってのは話には
聞いてましたが、こうも違う映画に
なるのもレアなケースなんでしょうねえ・・・いやぁ、ホントに有難う・・ヘタにググらないでほっといたら、一生モノの記憶の穴になるところでしたよw

はじめまして。コメントありがとうございます。
お役に立てたようで何よりです。ぼくも、最初に『Payback - Straight Up』を観た時は、ここまで中身が違うのか! と驚きました。なぜか日本ではいまだにリリースされていませんが、ハードボイルド作品やガンアクションものが好きな人にはぜひ観てもらいたいと思ってます。そうすれば絶対に再評価される作品だと思うので。
でも個人的には、OPの音楽も残しておいてほしかったです(笑)。

  • 2010/11/15(月) 17:55:45 |
  • URL |
  • グランバダ #h1buydM2
  • [ 編集]

ディレクターズカット版

劇場公開版の『ペイバック』をDVDで初めて観た時は、なんかありきたりなハリウッドアクションだと思ったのですが…

全然違う真正ペイバックが存在するなんてビックリです。なぜ日本で発売されないのでしょう。とにかく『殺しの分け前/ポイントブランク』の大ファンとしては、ディレクターズカット版『ペイバック』への期待が高まります

  • 2011/05/28(土) 16:41:21 |
  • URL |
  • ウォーカー #-
  • [ 編集]

いつも拝見させていただいております。
またおじゃまします。

  • 2012/05/14(月) 23:59:45 |
  • URL |
  • nasunomisoitame #-
  • [ 編集]

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