Simply Dead

映画の感想文。

『ハロルド・ピンター/誰もいない国』(1978)

『ハロルド・ピンター/誰もいない国』
原題:No Man's Land(1978)

 ハロルド・ピンターが自らの代表的戯曲を脚色したTVムービー。日本では日本クラウンからビデオが出ていた(現在は廃盤)。1975年の初演版キャストが引き続き出演し、イギリスを代表する名優2人、ジョン・ギールグッドとラルフ・リチャードソンがそれぞれ怪人物を悠々と演じる。共演のマイケル・キッチンは、マイク・ホッジス監督のTVミニシリーズ『Dandelion Dead』(1992)で主人公を印象的に演じた人。

▼初演版の一場面より、ギールグッドとリチャードソン
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〈おはなし〉
 豪奢な屋敷の居間で酒を酌み交す二人の老人。屋敷の主ハースト(ラルフ・リチャードソン)はすでに酩酊状態。客のスプーナー(ジョン・ギールグッド)は自らを詩人と名乗り、卑屈なのか図々しいのかよく分からない態度で喋り続ける。彼らはその夜、たまたま散歩中に出会い、意気投合したらしい。インテリぶった口調で切目なく語るスプーナーを、ハーストは鬱陶しく思うでもなく追い出すでもなく、やがて這うようにして寝室へ。

 そこに、いかにも育ちの悪そうな二人の男がやってくる。彼らは屋敷の主ハーストが成功した文豪で、その世話役を仰せつかっているといい、スプーナーの身元を問いただす……。

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 ジュリアン・エイミーズの演出(カメラワークとスイッチング)がおっそろしく凡庸なせいで損しているが、魅力的な顔合わせを楽しめる貴重な映像であることには違いない。特にギールグッドのうさんくさいボヘミアン詩人ぶりは絶品。こういう役もできる人だったのか。

 まったく見知らぬ者同士だった二人の老人が、どうやら因縁浅からぬ仲だということが中盤のやりとりで明かされる。が、片やアル中で半ばボケの入った老人、片や口から先に生まれたような詐欺師まがいの詩人。その会話にはなんの信憑性もない。しかし、そこには嘘とも言い切れない複数名の「記憶の合致」が存在する……。ピンターは、ミステリアスで力強い“老人力”というギミックを使って、真偽の定かでない混沌とした状況をきわめてシンプルに現出させる。劇はディテール豊かに饒舌に進みながらも、明確な状況はまったく把握できない。ひと部屋に集う人々は、現実にいながらおぼろげな世界(原題にも重なるような)に身を置く漂流者たちだ。それは観ているこちら側も同じ……。

 ハロルド・ピンターの演劇というと、不条理とかコミュニケーション不全とか現代の不安といった小難しい形容がつきまとうが、確かにそういうテーマを扱っていても、基本的には喜劇の名手だ。それもとてつもなく黒い、たちの悪い笑い。ピンター本人がいたってふざけたオヤジであることは、ジョン・ブアマン監督の映画『テイラー・オブ・パナマ』(2001)の「主人公にしか見えない叔父さん役」で確認できた。この『誰もいない国』も、言ってることがメチャクチャな人たちが繰り広げる『the office』みたいなコメディだと思って観れば取っ付きやすい。実際、近年の再演版ではピンター自身がハースト役をコミカルに演じ、客席に笑いを巻き起こしていたという。

 映像作品としては、舞台公演の記録映像ならもっと面白かったかも、という感じ。


演出/ジュリアン・エイミーズ
原作・脚色/ハロルド・ピンター
出演/ラルフ・リチャードソン、ジョン・ギールグッド、マイケル・キッチン、テレンス・リグビー

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