Simply Dead

映画の感想文。

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『悪魔の沼』(1976)

『悪魔の沼』
原題:Eaten Alive(1976)

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 トビー・フーパー監督の初期2作品、『悪魔のいけにえ』(1974)と『悪魔の沼』(1976)が、DVDリリースを前にして劇場公開される。もちろん『いけにえ』は放っておいても熱狂的ファンが駆けつけるだろうが、ここで声を大にして言いたいのは、絶対に見逃してならないのは『悪魔の沼』の方だということ。これまでこの作品は「インディーズで才気を爆発させたフーパー監督の毒が、ハリウッド商業主義の中で薄まってしまった凡作」という評価を受けてきた。はたしてそうだろうか?

▼日本公開時のチラシ
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 ロケ中心のニューシネマ・スタイルが定着した時代に、フーパーは敢えて古典的なスタジオ撮影に立ち返る。オールセット撮影によって作り出された濃密な怪奇映画ムードは、明らかに非凡な才能の産物だ。マリオ・バーヴァ並に強烈な色彩美、深い闇を内包したハイコントラストの照明設計がもたらす人工的映像の禍々しさは、ある意味『いけにえ』とは比較にならない。その上でフーパーは、前作から受け継ぐ新たなホラー映画演出の実践に挑んでいる。メル・ファーラーやネヴィル・ブランドといったベテラン俳優を使い、ムードたっぷりの虚構空間で繰り広げられるのは、どこを切ってもフーパー液がほとばしる「現代」のアメリカン・ノイジー・ホラーだ。

 『悪魔のいけにえ』で特に鮮烈だったのは、レザーフェイスが窓辺に座り、落ち着きなく思案を巡らせるシーンだった。殺伐とした異常性が立ちこめる映画の中で、狂った怪物の日常的時間をこんなにも美しく豊かに切り取ってしまったという、あの衝撃。そんな殺人鬼の狼狽を、フーパーはこの『悪魔の沼』で、よりたっぷりと引き延ばして描いている。たった1日で次々と人を殺す羽目になったオヤジが、所在なさげに室内をうろつく姿をしつこく映すカメラの視線は、およそ通常のサスペンス醸成とは真逆の方面を向いている(俯瞰からのアングルがようやく行きすぎた共感を押しとどめているようだ)。もはや作り手が被害者と殺人者のどちらに肩入れしているか決定的に露呈しており、『いけにえ』以上にフーパー個人の内面を強く感じてしまう。この映画で最も観客の同情を集めるのは他でもない、ネヴィル・ブランド扮する殺人オヤジなのだ。

 また、前作でも顕著だった煮詰まった家族関係の描写は、さらにねちっこく(本筋からも外れる勢いで)描かれる。なんたって険悪な仲の夫婦を演じるのが『いけにえ』唯一の生存者ことマリリン・バーンズと、『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)のウィリアム・フィンレイだ。パッと見で「この二人ギリギリだな」と思わせる絶妙なキャスティングである。常に脆弱さを抱えた家族の絆が、キチガイや怪物によってズタズタに蹂躙されるというのは、フーパー作品おなじみのモチーフだ。行方知れずの娘を捜しに来たメル・ファーラーの沈痛な思いも、なんら報われることはない。フーパーが抱き続ける「家族」への懐疑的視線は、公式サイトの監督プロフィール(必読!)でも指摘されている。『いけにえ』や『ファンハウス/惨劇の館』(1981)では、加害者もまた倒錯した血縁関係の業を背負っているのだ。

 異様なキャラクターのオンパレードである本作中で、特に強烈なインパクトを与えるのが、サンバイザーを被った遣り手ババア役のキャロリン・ジョーンズである。この突き抜けたトラッシュ感のリアリティは、他の追随を許さない。どこの素人をつかまえてきたのかと思うかもしれないが、実は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)にも出演していたベテラン女優である。唯一まともなヒロインであるクリスティン・シンクレアの美しさも見どころだ。本作以外の出演作だとカーティス・ハリントン監督の『Ruby』(1977)ぐらいしか知らない。

 神経質かつ無骨という独特の手触りをさらにささくれ立たせるのが、フーパーとウェイン・ベルによる電子音楽。これがもう『いけにえ』以上に狂い果てている。もし製作者の要請で『サイコ』まがいのベタなBGMでもつけられていたら、あるいは今より本作もすんなり受け入れられたかもしれない。だがフーパーは全編に、殺人鬼の平穏な日常をかき乱す不安の音色をあしらった。それは良くも悪くも、この映画の個性を決定づける強烈な要素となっている。

 かつての娯楽映画のスタイルと、新たな映画表現をミックスし、ニューシネマの終焉を告げた作品としては、『悪魔の沼』はちょうど『ジョーズ』(1975)と『スター・ウォーズ』(1977)の間に生まれている。その成果はどの映画にも似ておらず、意欲的な実験と前衛性に満ちていたため(額面通りに単なる古典回帰と受け取られたせいもあり)、きわめてマイナーな評価を受けることになった。が、今なら言える。『悪魔の沼』は、隅々までフーパーの高い志が見て取れる作品なのだ。劇場で再見する日が今から待ち遠しい。

▼2007年再公開版『悪魔の沼』ポスタービジュアル。クール!
eatenalive_jpposter.jpg



製作/マーディ・ラスタム
監督/トビー・フーパー
脚本/アルヴィン・L・ファスト、マーディ・ラスタム
脚色/キム・ヘンケル
撮影/ロバート・カラミコ
美術/マーシャル・リード
特殊メイク/クレイグ・リアドン、ベス・ロジャース
音楽/ウェイン・ベル、トビー・フーパー
出演/ネヴィル・ブランド、メル・ファーラー、マリリン・バーンズ、カイル・リチャーズ、ウィリアム・フィンレイ、ステュアート・ホイットマン、ロバート・イングランド、クリスティン・シンクレア

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『悪魔の沼 デラックス・エディション』DVD
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