Simply Dead

映画の感想文。

『エレクション2』(2006)

『エレクション2』
原題:黒社會以和爲貴(2006)
英語題:Election2

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 劇場で『エレクション』を観たその日に、結局ガマンできず香港盤DVDを購入。観たらこれまた「絶対にスクリーンで観直さねば!」と思わせるシャープな快作だった。

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〈おはなし〉
 前作から2年後。和連勝会の幹部ジミー(ルイス・クー)は中国本土に進出し、ビジネスマンとして大きな取引を動かしていた。そんな折、香港では再び会長選挙の時期となり、幹部連からは信望も厚く商才にも秀でたジミーを推す声が高まる。しかし、彼自身は会長職に興味を持てないでいた。そこで現会長のロク(サイモン・ヤム)はしきたりを破り、自らの再選をもくろむのだった。

 だが、ジミーはのっぴきならない事情から、次期会長に立候補することに。全力でそれを阻止しようとするロク。非情な戦いの火蓋が再び切って落とされた……。

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 『エレクション2』はルイス・クーの映画である。1作目には彼演ずるジミーが経済学の授業を受けているシーンが出てきたが、それは本作に至る重要な伏線だった(単なるインテリヤクザとして再登場するわけではないのだ)。望まぬ地位のために命がけの戦いを強いられる苦渋を、ルイス・クーは見事に演じきっている。最も感情的に揺れる役ながら、最後までキャラクターがブレないのは、不敵な面構えを崩さない抑制のきいた演技の賜物。ニック・チョン演じるジェットとの微妙な絆を描いた部分も切なくていい。

 ロクを演じるサイモン・ヤムは、権力に執着する男の静かな狂気をここでも怪演。ジョニー・トー作品における「物言わぬ凶暴性」といえばこの人、みたいな存在感になってしまった。前作のラストで完璧にトラウマを植え付けられた彼の息子のその後も描かれる。

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 1作目では対照的な男同士の対立が組織内にうねりを生んでいく様をテキパキと描いたが、今回はいかにしてジミーとロクの対立構図が出来上がっていくかを丹念なサスペンスで積み上げていく。その図式が完成してしまえば、あとは一気呵成。生きるか死ぬかしか答えがないことを分かっている両者は、迷いなく非情な殺し合いへと雪崩れ込む。得票のための駆け引きなどはすっ飛ばされ、血で血を洗う戦いを突き進めるより他にない。ヤケクソ気味のバイオレンスは前作を凌ぐ凄惨さだ(ワンちゃん大活躍)。

 平行して、大陸に進出したジミーが中国公安に翻弄される姿を通し、返還後の香港で結社が直面せざるをえない変容を突きつける。そこには『デッドポイント/黒社会捜査線』(1998)や『PTU』(2003)で本土から来た犯罪者たちを不可解な怪物として描いてきたトー監督の“大陸嫌い”の一面が窺えた。

 黒社会を取り巻く状況の変化が描かれる『エレクション2』では、ルック自体1作目とは若干異なる。相変わらず素晴らしい闇(ノワール)が描かれる一方、明るい昼間のシーンも多く映し出される。白昼の下の緊迫感というのは、これまでのジョニー・トー作品のトレードマークといえる演出であった。本作でも突発的な暴力を描く際、トーはいつもの得意技を復活させている。それらの緊迫した見せ場以外にも、本作には均質な光にさらされた場面が多い。黒社会が闇の中だけにとどまる時代が終り、公的な場にも進出していく混沌を示しているようにも見える。

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 あまりに深く美しい緑の中で、主人公の人生が皮肉な展開を迎えるクライマックスは絶品だ。権力に呑まれた者が必ず「山の上に登る」という約束事も、ジョニー・トー監督ならではの美しいシンプリシティ。この場面だけでも劇場の大画面で再見したいという興奮に駆られた。

 新たに加わった出演者の中では、金でジミーに雇われる助っ人ヤクザ役のマーク・チェンがいい。渋い中年の凄味をきかせながら、ずっと追加料金のことしか言わない(笑)という意外な和みキャラを好演。鉈を手に激しい立ち回りも見せてくれる。アンディ・オンはほとんど出た意味があるのかないのか分からない悲惨な末路で思わず呆然。また、前作で“不動の恰幅”を示したウォン・ティンラム翁が、今回かなり悲惨な目に遭うので、ファンはハンカチのご用意を。

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 ただ、映画としてすっきりした分、1作目にあったコクのようなものが減ったように感じた(これもやはり何度も重ねて観ねばなるまい)。それは演出スタイルの変化以外にも、編集・音楽スタッフが前作と異なるからかもしれない。パトリック・タムがおそらく監督作『父子』(2006)の作業で編集から外れ、入れ替わりに『父子』組からロバート・エリス=ゲイガーが音楽に参加している。

 副題の「以和爲貴(和をもって貴しとなす)」は、孔子の『論語』からの引用。聖徳太子の憲法十七條・第一条として知っている人も多いかもしれない。原文ではその後、「先王之道斯爲美(だからこそ先王の行いも美しかった)」と続くそうで、これはジョニー・トー流のアイロニカルな嘆きだろう。


※追記:2010年『エレクション?死の報復?』のタイトルでDVD発売。

・Amazon.co.jp
DVD『エレクション?死の報復?』


監督/ジョニー・トー
製作/デニス・ロー、ジョニー・トー
脚本/ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン
撮影監督/チェン・チュウキョン
音楽/ロバート・エリス=ゲイガー
オリジナルテーマ音楽/ルオ・ダー
出演/ルイス・クー、サイモン・ヤム、マーク・チェン、ニック・チョン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、ラム・カートン、ウォン・ティンラム、ヨウ・ヨン、タム・ビンマン、アンディ・オン、パン・ユートン

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