Simply Dead

映画の感想文。

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『エレクション』(2005)

『エレクション』
原題:黒社會(2005)
英語題:Election

election_simon.jpg

 去年の東京フィルメックスで初めて観た後、封切2日目にテアトル新宿で再見。もう観たい人はみんな映画祭か公開初日か輸入DVDで観てしまったのか、客席の寂しさが気になった。

 『エレクション』は2度目の方が面白い。噛み締めるほどに、素晴らしさの伝わる映画だ。正直、初見の時は「こういう映画だったのか」という驚きと、人物関係を追い掛けるので精一杯だった。当初、この作品はジョニー・トー監督渾身の一大プロジェクトであり、香港黒社会の成立過程まで遡って描かれる一大叙事詩になる(かも)と伝えられていたので、こんなにタイトで簡潔な内容になるとは思ってなかったのだ。

 映画は香港最大の組織「和連勝会」で行われる会長選挙を巡って起こる、ほんの数日間のいざこざを中心に構成されている。登場人物は多いものの、主軸となるのは「組織のトップの象徴である“龍頭棍”の奪い合い」という、とてもシンプルなものだ。2度目の観賞ではどんな映画かも分かっていたし、キャラの配置も飲み込めていた分、作り込まれたビジュアルや構成の妙をじっくり楽しむことができた(単純に言えば、よくできた映画であることがよく分かった)。だからなるべく2回以上は観た方がいい。もちろん熱心なファンは黙って劇場へ日参するだろうけれど……何しろ続編『エレクション2/黒社會以和為貴』は現在、まったくの公開未定。これが当たらなければ劇場では観られないかもしれないのだ。

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 本作はジョニー・トーのノワール美学の集大成と言っていい。ほとんど全てのカットに、濃淡さまざまな陰影があしらわれている。ナイトシーンはもちろん、昼間だろうと室内だろうと、例外はない。場合によっては役者の顔さえ映さない徹底ぶりだ。しかし、その闇は次第にとてつもなく味わい深いものとなってくる。2度目に観る時など、細部までデザインされた闇の美しさにただただ酔いしれるばかりだ。それを彩るルオ・ダーの甘美な音楽もまた素晴らしい。

 無駄な描写を廃し、言葉少なに緊張感を保ちながら、私情を差し挟まず物語を映していくトー監督。その語り口は本作でさらにシンプルに、ドライに研ぎ澄まされている。意表を突くユーモアセンスも相変わらず、タチが悪い(笑)。スタイリッシュとかクールとかいった形容も超越した、無常観を湛えたその視線には、もはやクリント・イーストウッドにも近いものを感じた。あとでパンフレットを読んだら「ジャン=ピエール・メルヴィルを思わせる」と書いてあって、それも「なるほど」と思った。

election_leon.jpg

 佇まいだけで見せきるキャスティングは、今回も完璧。中でも、狂犬ヤクザのディーを怪演するレオン・カーファイがひときわ強烈な魅力を放っていた。前作『柔道龍虎榜』(2004)とは正反対のハイテンションな芝居で、これまでの物静かなイメージを完璧に払拭している。実はこの人こそジョニー・トーの最終兵器なのでは……と思わせるキレっぷりは、ファンならずとも必見である。対する“静かなる男”サイモン・ヤムの怖さと威圧感も素晴らしかった。その他、ルイス・クー、ニック・チョンら若手メンバーの好演も印象に残るが、特筆すべきは常連俳優のウォン・ティンラム。大変な巨体をキュートに揺らしながら、組織の長老タンを軽やかに演じる。殺気みなぎる本作にあって最高の癒しオーラを漂わせ、これまででいちばんいい役ではないかと思わせた。

 『エレクション』では、これまでジョニー・トー節とか形容されてきたガンアクションを一切封じ、ひたすら斬る・殴る・絞めるといった肉体的な暴力描写を徹底させている。香港のヤクザは銃を使わない、というのが地元のリアリティだそうで、ひたすら経済的かつ近接的なやり方で全てを解決する。地味だが怖い。特にクライマックスの凄絶なバイオレンスは、ちょっと夢に見そうなほどだ(対抗できるのは黒沢清監督の『カリスマ』ぐらいだろう)。より凄惨で殺伐とした恐怖をギャング映画定番の見せ場に用意しながら、その残酷描写がパク・チャヌク作品のように映画的快感として機能しないところは、現実の暴力を知るジョニー・トーの誠実さか、それとも筋金入りの底意地の悪さか?

 とにかく、早くスクリーンで続きが観たい!

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『エレクション』DVD


監督/ジョニー・トー
製作/デニス・ロー、ジョニー・トー
脚本/ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン
撮影監督/チェン・チュウキョン
音楽/ルオ・ダー
出演/サイモン・ヤム、レオン・カーフェイ、ルイス・クー、ニック・チョン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、ラム・カートン、ウォン・ティンラム、タム・ビンマン、マギー・シュー、デイヴィッド・チャン

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