Simply Dead

映画の感想文。

『狼獣たちの熱い日』(1983)

『狼獣たちの熱い日』
原題:Canicule(1983)
英語題:Dog Day

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 狼獣と書いて「けだもの」と読ませる、フランス製の異常性愛サスペンス+クライムアクション。原題・英語題ともに「猛暑」という意味で、舞台は片田舎にある一軒の農家。そこで繰り広げられる狂った人間関係がこの映画のメインストーリーだ。

 セックス中毒気味の粗暴な主人、憎悪と欲求不満を溜めこんだ若妻、ギャング退治を夢見る悪ガキ、色情狂の中年女、その相手をさせられる黒人農夫、施設送りを異常に脅える老女……そんな爛れた地獄の家へ不運にも迷い込んだ老練なる銀行強盗リー・マーヴィンは、不思議の国にやって来たアリスのごとく異常な人々に翻弄され、悪夢から覚めることなく最低の格好でくたばる。最高じゃないか。

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 原作はジャン・ヴォートランの小説。本名はジャン・エルマンといい、この作品では共同脚本にも名を連ねている。映画好きには『さらば友よ』(1970)の監督として馴染みが深いだろう。監督業に見切りを付けて小説家ジャン・ヴォートランとして再出発してからは、集合団地を舞台にしたストレンジな群像劇ノワール『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』『鏡の中のブラッディ・マリー』といった異色の傑作群を発表。映画的な語り口のうまさと辛辣なユーモアで、低所得者階級のコミュニティに潜在する異常心理を描き、“ネオ・ポラール”と呼ばれる暗黒小説の新たな潮流を生みだした。余談になるが、僕がハンドルネームに使っている「グランバダ」という言葉も、前掲した2作の文中に出てくるデタラメなフレーズ。邦訳は少ないが、今のところ手軽に読めるのは『グルーム』(新潮文庫)。これも掛け値なしの傑作である。

 社会派イヴ・ボワッセが監督を務めた『狼獣たちの熱い日』は、ヴォートラン作品のエッセンスをかなり近いところまで映像化しようと試みた佳作だ。共同脚本・台詞を担当したのは、他の作品でもヴォートランと組むことの多かったベテラン脚本家のミシェル・オディアール。演出がやや平板で(日本版ビデオが英語吹替だから尚更かも)、フランシス・レイの音楽もダサいが、先の読めない無茶苦茶なストーリーだけでもカルト映画の資格充分。後半、あれよあれよと死体の山が築かれ、いいとこなしの老ギャングが無駄な抵抗を試みる辺りはかなり意地が悪くて面白い。

 しかも変態だらけの家族を演じるのが『夜よ、さようなら』(1979)のミュウ=ミュウに『ブリキの太鼓』(1979)のダヴィッド・ベネント、『私のように美しい娘』(1972)のベルナデット・ラフォンといった錚々たるキャスト。ミュウ=ミュウはクールな眼差しでヴォートラン世界のヒロインを見事に体現している。こまっしゃくれたガキを演じるダヴィッド・ベネントもイメージぴったり。

 中でもハリウッドの犯罪暴力映画の生ける伝説=リー・マーヴィンの起用は、本作のキーポイントだ。フランス人が抱く米国文化への浅はかな憧れを好んでモチーフにするヴォートランにとっては、望外の喜びだったに違いない。できるだけ“Cruel and Unusual”な死に様を用意しなければ、礼を欠くというものだ。広大な農場を走るスーツ姿のマーヴィンといえば、マイケル・リッチー監督の快作『ブラック・エース』(1972)の追跡シーンが否応なしに思い出される。

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 映画はあと一歩、俗を突き詰めた果ての聖性みたいな部分まで辿り着ければ完璧だったが、アクションスリラーとして作られている手前、なかなか難しいところ。筋運びがよすぎるきらいもあり、特にピンクのキャディラックを乗り回し、アフリカ行きを夢見るセックス奴隷の黒人農夫ドゥドゥのシーンが少ないのが残念(いかにもヴォートランらしいキャラなのに!)。知らない人にヴォートランの魅力を伝えるには、やや物足りない仕上がりではある。しかし、トンデモ映画とか一面的な評価で片付けてはいけない作品であることは間違いない。

 1985年に作られた『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』の映画化は、なんとミュージカルなんだとか。出来はともかく一度は観ておきたい。


製作/ノルベール・サーダ
監督/イヴ・ボワッセ
原作/ジャン・ヴォートラン
脚本/ミシェル・オディアール、ジャン・エルマン(ジャン・ヴォートラン)、イヴ・ボワッセ、ドミニク・ルレ
台詞/ミシェル・オディアール
撮影/ジャン・ボフェティ
音楽/フランシス・レイ
出演/リー・マーヴィン、ミュウ=ミュウ、ダヴィッド・ベネント、ジャン・カルメ、ベルナデット・ラフォン、グラース・ド・カピターニ、ピエール・クレマンティ、ジャン=クロード・ドレフュス
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