Simply Dead

映画の感想文。

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『硫黄島からの手紙』(2006)

『硫黄島からの手紙』
原題:Letters from Iwo Jima(2006)

iwojimaposter.jpg

 クリント・イーストウッド監督による“硫黄島2部作”の日本編。米軍に予想外の苦戦を強いた、日本軍のゲリラ的戦略と熾烈な攻防をリアルに再現した作品なのかと思っていたら、役者の芝居を見せる淡々とした映画だった。戦闘シーンはごく僅かに抑えられ、摺鉢山の陥落も劇的なものではない。ロバート・アルドリッチ監督の『燃える戦場』(1970)のように、好敵手として日本軍を描くことは、この映画の眼目ではなかった。確かにアメリカの観客は次々と父親たちを撃ち倒していく日本人の活躍を見たいと思わないだろう。日本人のイメージを逆に害することになるのを避けた、という気遣いにも思える(あとで『父親たちの星条旗』を観て「こっちでスプラッタ描写はやりきってるからか」とも思ったが)。

 アクション的な見どころには乏しいが、軍人や一兵卒の心境を丹念に描いた映画としては、近頃の邦画の何倍も見応えがある。欧米の観客には顔の判別もつかないような日本兵たちの人生を、イーストウッドがこれほどまで真摯にじっくりと眼差しを向けていることに、素直に感動してしまう。

 その視線に応える役者たちの中では、落ちこぼれ兵士を演じた二宮和也が断トツでいい。『鉄コン筋クリート』のクロ役を見ても思ったが、ものすごくうまい。ふてぶてしさすら感じるほどの自然体で映画の中に存在し、キーの高い声にはユーモラスな味もある(妻帯者のパン職人にしては幼く見えすぎな気もするが)。その軽妙さや今風の滑舌は、考証的な正否を求める人には受け入れ難いかもしれない。しかし個人的には、まさかクリント・イーストウッドの映画で、日本人のこんな芝居が見られるとは! という驚きがあった。多分とんでもないクソ度胸の持ち主なんだろう。

letters_iwojima.jpg

 最も驚嘆すべきは、この映画が日本人のメンタリティを多くの部分で的確に描き出している点だ。過去のどんなアメリカ映画よりも理解の仕方が深く、不自然さを排除している(そもそも不明瞭な台詞がほとんどないのが凄い)。脚本を手掛けたアイリス・ヤマシタの功績も大きいだろう。中には憲兵と特高警察がゴッチャになってたりするチョンボもあるにはあるが、それでもこのレベルの高さはただ事ではない。はたして何人のアメリカ人が、アジア人しか出てこない全編字幕の戦争ドラマを観るというのか? というところから考えても、企画が成立したこと自体が驚きだ。

 本作を「今年の邦画ベスト1」と評する人も多いが、それも失礼な話だろう。プロダクションのスケールの違いもさることながら、カメラワークや編集の発想が根本から違う。やはり日本映画では有り得ない作品になっている。

 構成は『父親たちの星条旗』に比べてずっと分かりやすくされている。各登場人物のフラッシュバックも多く出てくるが、『父親たちの星条旗』の幻惑的なそれとは異なり、ストレートな回想シーン以上のものではない。そのシンプリシティが美しい。イーストウッドらしい私情を挟まない冷静さは、センチメンタリズムの抑制というかたちでうまく働いている。

 『硫黄島からの手紙』は、イーストウッドが日本に宛てて送る最後の手紙だ。《戦場という極限状況においても、人間性は生じうる。今度の映画ではそれを描きたかった》と監督が語っているのをテレビで見たことがある。本作は弧高のアメリカ人の目から“敵兵”と呼ばれた人々の人間性を穏やかに理解しようとした好編だ。映画としての面白さは『父親たちの星条旗』に譲るが、まずは必見の秀作と言える。


製作/スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ロバート・ロレンツ
監督/クリント・イーストウッド
脚本/アイリス・ヤマシタ
原案/アイリス・ヤマシタ、ポール・ハギス
撮影監督/トム・スターン
美術/ヘンリー・バムステッド、ジェームズ・J・ムラカミ
衣装/デボラ・ホッパー
編集/ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ
音楽/レニー・ニーハウス
出演/二宮和也、渡辺謙、加瀬亮、伊原剛志、中村獅童、松崎悠希

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