Simply Dead

映画の感想文。

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『父親たちの星条旗』(2006)

『父親たちの星条旗』
原題:Flags of Our Fathers(2006)

flagsofourfathers_ryan.jpg

 クリント・イーストウッド監督による“硫黄島2部作”のアメリカ編。公開順とは逆に、日本軍側のドラマを描いた『硫黄島からの手紙』を先に観ていたせいか、こちらの方が遥かに映画として充実して見えた。戦争映画には不可欠な派手な戦闘シーンと、盛大に血肉が散らばる残酷描写がふんだんにありつつ、有名な摺鉢山頂上の写真をめぐる知られざる真実が、謎解き仕立てで淡々と綴られていく。幾つもの時制を行き来するストーリー構成で観客の興味を巧みに引っ張りながら、テクニカルなあざとさは感じさせない。少し不親切なくらいの語り口が、かえって画面への集中力を静かに高めていく。

 図らずもキャンペーンに利用される若い兵士たちの戸惑いや苦悩を切々と映し出すイーストウッドの演出は、声高でない哀しみと優しさを湛え、彼らへの共感を真摯に素朴に試みている(ただし、同情はまったくしない)。なぜ兵士たちが過酷な戦場で戦い抜くことができたか、ラストで穏やかに語られる結論は、イーストウッドらしく「大義」からは掛け離れた、等身大の真情だ。同じ戦争映画でも、日本人のメンタリティを考えるとこうはいかない。

 物語の中心を担う3人の兵士たちの“誰でもある”無名性は、この映画の肝だ。彼らの個性が際立たない分、観客は身を乗り出して兵士たちの行く末を見届けようとする。演じる俳優たちは、その実、いずれも無名ではない。ライアン・フィリップといえば『ゴスフォード・パーク』『誘拐犯』(共に2000)などの話題作にいくつも出ている若手スターだし、アダム・ビーチは戦争大作『ウィンドトーカーズ』(2002)に実質主演している。子役出身のジェシー・ブラッドフォードは、『チアーズ!』(2000)のボーイフレンド役や『ハッピー・エンディング』(2005)の破綻した映画青年役で強烈な印象を残した。そんな彼らが本作で演じているのは、一見して人となりが分かるような若者たちだ。要するに「ぴったりのハマリ役」を最小限の芝居で演じている。勘のいい役者にとっては、キャスティングされた時点で演技指導が終わっているようなものだ。演出やカメラワークも、過度な演技を要求しない。ジェイミー・ベルやバリー・ペッパー、メラニー・リンスキーにいたるまで、本作の出演者全員に同じことが言える。

FlagsofOurFathers_poster.jpg

 全アメリカ国民の士気を高揚させた一枚のシンボリックな写真を、「戦争の残虐性を正当化するために必要なもの」だったとさらりと語る率直さには、やはりアメリカを客観的に見続けてきたイーストウッド独自の視点を感じる。マカロニ西部劇のスターとしてヨーロッパでは名声を得ながら、アメリカではしばらく映画が公開されず、故国を遠くに見ていた時期があったことも影響していると思う。イーストウッドは常に冷徹さを欠かさずアメリカを見つめてきた。『父親たちの星条旗』は、イーストウッドだからこそできた率直な戦争回顧となっている。


製作/スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ロバート・ロレンツ
監督/クリント・イーストウッド
原作/ジェームズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ
脚本/ポール・ハギス、ウィリアム・ブロイルズJr.
撮影監督/トム・スターン
美術/ヘンリー・バムステッド
編集/ジョエル・コックス
音楽/クリント・イーストウッド
出演/ライアン・フィリップ、アダム・ビーチ、ジェシー・ブラッドフォード、バリー・ペッパー、ジェイミー・ベル、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー、メラニー・リンスキー、ハーヴ・プレスネル


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