Simply Dead

映画の感想文。

『ブラック・パンサー』(1977)

『ブラック・パンサー』(1977)
原題:The Black Panther

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 ブラック・パンサーといっても、有名なアメリカの黒人解放運動組織のことではない。1972年から1975年の間、イギリスで強盗殺人を繰り返した元軍人の凶悪犯ドナルド・ニールソンの異名である。本作はその犯行を生々しいタッチで描いた実録犯罪スリラー映画。これが監督デビュー作となったイアン・メリックの演出は、陰湿さと寒々しさに溢れ、英国スリージーホラーの味わいとソリッドな実録犯罪映画のテイストを併せ持っている。残念ながらイギリス国内での公開当時はマスコミに「病的」と酷評され、興行的にも振るわなかった。

 日本では『ブラック・パンサー』または『ブラック・ハンター/16歳少女戦慄の全裸死体』という題でTV放映。本国イギリスでも長らく映画史の闇に葬り去られていたが、昨年、Bfi videoの旧作発掘レーベル「Flipside」からBlu-ray & DVDのカップリング盤が発売された。モデルとなったドナルド・ニールソンが2011年に獄中死したのも、ソフト化できた理由のひとつだろう。

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 ドナルド・ニールソンはかつて英国軍特殊部隊の一員として国家に身を捧げ、情け知らずの殺人マシーンとして育て上げられた男。除隊して起業したあとも軍隊式の自主トレを続け、家庭内では妻と娘に対して強権的なスパルタ親父を演じている。が、実は事業に失敗し、現在は無職。自室にこもって強盗計画を練り上げ、夜になると黒づくめの武装スタイルで獲物を狩りに行くのだった。

 映画は、ニールソンが犯行を重ねていく数年間の行動をつぶさに描いていく。監督のイアン・メリックは、いわゆるエクスプロイテーション映画寄りの脚色は避け、事実を淡々と追うスタイルを貫くよう脚本家に指示。かくしてシナリオの3分の1は犯人の下準備とトレーニングの描写に割かれ、構成は極めてシンプルに、台詞もとことん切り詰められた。全編に冷徹な観察眼が貫かれ、犯人はもちろん、被害者にも司法にも肩入れすることはない。

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 面白いのは、犯人がどれだけ用意周到・準備万端で犯行に臨もうと、実際にその場で起こる「不測の事態」にはまるっきり対処できず、毎回パニックと勝手な逆ギレを繰り返し、無用な人死にを出しまくるという描写だ。過剰な武装スタイルで民家や郵便局に押し入り、居合わせた人間を慌てて殺してしまうくだりの唖然とするようなドタバタ感。女子高生を誘拐して身代金をせしめようとするが、単純な計画ミスで金の受け取りに失敗してしまう、どうしようもない残念感(それゆえ少女は殺風景な貯水タンクのなかで殺されることになる)。そこには、間抜けさゆえの生々しいリアリティがある。

 軍隊仕込みの殺人スキルも、実社会ではまるで役に立たない。ニールソンは、兵士としては有能だった自分の能力を誇示するかのように、プロ意識をもって「完璧な計画」を組み立て、犯行に臨む。それが浅はかな素人考えでしかないことには気づかぬまま。いくら靴の中にカミソリを仕込んでみたり、銃を改造してズボンの中に隠してみたりしてみても、所詮はボンクラの一人遊びにすぎない(鏡の前で射撃練習をするシーンは『タクシードライバー』を意識した演出だろう)。あげく、誘拐殺人という最悪の結果を招くことになる。

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 偶然の積み重ねによって(といっても十分に予想できる範囲内のことばかりなのだが)むざむざ計画が失敗に終わったとき、子供が駄々をこねるようにわめきちらすニールソンの姿は、本当に恐ろしい。こんなバカバカしいことで取り返しのつかない惨劇が起きてしまうのか……というショックと、こんな人、世の中にたくさんいるんだろうな……という戦慄だ。主演のドナルド・サンプターは終始ピリピリした雰囲気を放ちながらニールソンを怪演。軍隊によって作り上げられた殺人マシーンのなれの果てともいえるキャラクターには、『フルメタル・ジャケット』(1987)にも通じる恐ろしさと物悲しさが漂う。

 本作の陰鬱なムードと寒々しいルックは、イアン・メリック監督曰く、当時のイギリス社会を覆っていた不穏な空気を反映してもいるそうだ。深刻な政情不安と経済不況が、どんづまりの息苦しさを映画に付与することに貢献している。つまり、いまの日本でも楽々作れるということだ。不景気風にあてられすぎて殺気立ったニールソン予備軍はそこらじゅうに溢れている(反韓デモに集まる奴らとか)。

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 ジョアンヌ・レイトンの草稿をもとに脚本を執筆したのは、マイケル・アームストロング(またの名をセルジオ・カストナー)。デイヴィッド・ボウイが出演した短編映画『The Image』(1967)で監督デビューし、拷問映画のクラシック『残酷!女刑罰史』(1970)の監督・脚本を手がけた。その他の脚本作品に『魔人館』(1983)や『スペースバンパイア』(1985/ノークレジット)などがある。撮影を手がけたのは『スクワーム』(1976)『アリゲーター』(1980)『ジャンク・イン・ザ・ダーク』(1982)のジョー(ジョゼフ)・マンジン。ビデオバブル時代の生んだ駄作と悪名高い『ネオン・マニアックス』(1986)の監督でもある。ホラー映画界の名士たちが顔を揃えているものの、ジャンル愛好家を喜ばせるような茶目っ気は、本作にはない。

 製作・監督のイアン・メリックは、アメリカで独立系映画製作者としてジョン・G・アヴィルドセン監督の『泣く女』(1971/ビデオ題:ピンク・ハードボイルド アブノーマル殺人事件)などをプロデュースしていた人物。彼は故郷イギリスでも低予算インディペンデント映画の製作システムを確立するべく、本作『ブラック・パンサー』の製作に着手。しかし、作品の興行的・批評的失敗によって、英国内でのビジネスからは撤退を余儀なくされる。その後はアメリカに戻り、フランシス・フォード・コッポラ主宰のアメリカン・ゾエトロープ社や、ヘムデール社などで働いていたそうだ。

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映画秘宝8月号!(『バーニー みんなが愛した殺人者』『高速ばぁば』)

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 ドキュメンタリー『アイ アム ブルース・リー』と伝記映画『李小龍 マイブラザー』の日本公開も間近いブルース・リー先生が「考えるな、読め!」とおっしゃる「映画秘宝 2013年8月号」は、本日6/21発売。ぼくは今回、短い記事をふたつほど担当しました。奇しくも両方の原稿で「ババア」連発してますが、おばあさんが嫌いというわけではありません。むしろ慕っております。

 まずは、リチャード・リンクレイター監督とジャック・ブラックが『スクール・オブ・ロック』以来8年ぶりにタッグを組んだ新作『バーニー みんなが愛した殺人者』(7/13公開)の紹介記事。テキサス州にあるスモールタウン、カーセージで実際に起きた殺人事件をもとにした実録犯罪映画ですが、そこは異能派リンクレイターなので、妙にほのぼのしたムードが漂うヒューマンコメディに仕上がっています。柳下さんが『デヴィッド・バーンのトゥルー・ストーリー』っぽいと評されていましたが、まさに然り。実際にこの街に住む住民たちの証言(ゴシップ)を織り交ぜながら、事件のあらましとともにカーセージという町の全体像まで浮かび上がってくる構成が非常に巧みな秀作です。もちろんジャック・ブラックの完璧すぎて怪しい善人ぶりも秀逸。

 そして「DEVILPRESS」では、内藤瑛亮監督の商業長編デビュー作『高速ばぁば』(7/27公開)について短いレビューを書かせてもらいました。白石晃士監督の『カルト』、鶴田法男監督の『トーク・トゥ・ザ・デッド』とともに「ネクストホラー」というレーベルの1本として公開される作品。いろいろ撮影条件も厳しかったと思うし、いつもの内藤作品らしいカッコよさが迸る部分もあるんですが、正直『牛乳王子』『先生を流産させる会』に比べるとしんどい出来。でも、次に撮った短編『救済』は素晴らしい内容だったので、このままどんどん前に進んでいってもらいたいと思います。内藤組ならできる!

 それと、7月発売予定の「まんが秘宝 男のための青春まんがクロニクル」と、「映画秘宝EX 映画の必修科目07」にも、ちょこちょこ原稿を書いております。詳細はまた今度。お楽しみに!

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