Simply Dead

映画の感想文。

『暗渠』(1983)

『暗渠』(1983)
英語題:Men from the Gutter

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 麻薬問題をテーマにした犯罪アクションスリラー『跳灰』(1976)を皮切りに、現代香港社会の病巣を鋭く抉りだし、過激なまでのバイオレンス描写に溢れた作品群を数多く生み出した「香港ニューウェーブ」。そのムーブメントの強い影響下に作られた本作『暗渠』は、のちに『RIKI-OH/力王』(1991)などを手がける奇才ラン・ナイチョイの初期作である。彼の名前は一瀬隆重プロデューサーと組んだ『孔雀王』(1988)や『帝都大戦』(1989)といった作品でも知られているだろう。老舗映画会社ショウ・ブラザーズで撮り上げた『暗渠』は、パワフルかつ切れ味鋭い語り口が魅力的なクライム・ムービーの快作だ。

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〈おはなし〉
 刑務所で知り合ったクァンタイ(パークマン・ウォン)、アロン(ロン・ティンサン)、そして“脳なし”(ビリー・ロウ)の若者3人は、密売屋から拳銃を手に入れ、現金輸送車強盗を計画。誤って警官を射殺し、賭博場でもヤクザ相手にトラブルを起こしてしまった彼らに、もはや失敗は許されなかった。自分たちの居場所も未来も見つけられない香港にいるより、南の島で幸せに暮らすんだ! 3人は、クァンタイの恋人リリー(チェン・ペイシー)を運転手役に、白昼堂々カージャックに挑む。だが、その行動をキウ刑事(ミウ・キウワイ)率いる捜査班にマークされているとは知る由もなかった……。

 一方、キウ刑事はスポーツクラブで起きた暴行殺害事件の捜査にあたり、その背後に麻薬ビジネスの元締めと目されているスー社長(ウォン・ユン)が関与していると睨む。真犯人は、かつてスー社長たちに大量のヤクを盗まれ、兄貴分の命まで奪われた男ジァン(バイ・ピョウ)だった。自らも殺されかけ、命からがら逃げ出した彼は、全てに落とし前をつけるため香港に戻ってきたのだ。復讐の鬼と化したジァンは、ギャングたちの非情な追跡をくぐり抜け、犯罪の決定的証拠となるテープをエサに社長を倉庫街に呼び出す。そこには数十人もの社長の配下、そしてキウ刑事たちが待ち構えていた……。

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 無軌道な若者グループの犯罪計画と、怒りに燃える一匹狼の復讐劇。ふたつのドラマが同時進行で展開するので「どこかで交錯するのかな?」と思ったら、最後まで無関係だったという構成にはひっくり返らざるを得ない。が、双方とも同じくらいの比重でドラマチックに描かれるため、全体の見応えはかなりのもの。良質の社会派刑事アクションドラマを2本立てで観たような満足感というべきか。

 どちらの物語の主人公たちも社会の表通りから疎外された者であり、タイトルどおり「暗渠(地上からは見えないように覆われた地下水路)」から這い出てきたような人々だ。法の執行者たる刑事たちも彼らを必死で追いながら、彼らを犯行へと駆り立てる「本当の悪」の存在を意識せざるを得ず、常に葛藤や逡巡を覚えずにいられない。単純な勧善懲悪の図式を越えたドラマが、ずっしりとした余韻をもたらす。

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 とはいえ、本作最大の見どころはダイナミックなアクションシーンの数々。俳優たちの体を張ったスタント、大胆なカメラワーク、そしてシャープな編集が相まって、手に汗握る映像となっている(本作はアジア太平洋映画祭で編集賞を獲得した)。武術指導を務めたのは『カンフー・ハッスル』(2004)のユン・ワーと、ジョニー・トー作品にも数多く参加しているユン・ブンの「七小福」コンビだ。

 白昼の市街地で展開する現金輸送車襲撃シーンと銃撃戦、そして夜の倉庫街で繰り広げられる復讐者ジァンとギャングと刑事たちの攻防戦は、凄まじい見応え。クライマックス、倉庫の天井から吊り下げられた貨物を鉄球クレーンのごとく相手めがけてぶつけるというヤケクソなダイナミズムが圧巻だ。また、社長の暗殺に失敗したジァンが高層マンションの窓から逃走し、ロープを切られて落下、バイクに乗って刑事たちの追跡から逃れるという一連のアクションも大変な迫力。

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 俳優陣の中では、復讐に身をやつす男ジァン役のバイ・ピョウが見せる熱演が圧倒的。パンチパーマ頭にメガネにヒゲという、いわゆるカッコよさとは程遠い外見ながら、思わず男惚れせずにはいられないキャラクターを見事に演じきっている。彼が全編通して繰り広げる体当たりアクションの数々は壮絶の一言。まず、スポーツクラブで屈強な筋肉ハゲ(功夫映画ファンにはおなじみ、リー・ホイサン)にスカッシュ対決を挑み、反則連発の大乱闘の末に血祭りに上げる。高層マンションからの逃走シーンではロープ1本でベランダから脱出し、バイクで垣根を大ジャンプ。終盤では、機関銃を担いで倉庫のせまい足場を飛び回りながら、何十人ものギャングを相手に殲滅戦を繰り広げる。その人間離れした活躍ぶりには驚愕しつつ感動を禁じえない。彼の思いつめた表情には、たとえ命と引き換えになってでも本懐を遂げようとする男の執念と、深い哀愁が漂う。ホテルの鏡をパチンコで意味もなく割るシーンは、いつ溢れ出すか分からない男の激しい怒りが表れていて印象的だ。満身創痍になりながら仇を追いつめていくクライマックスでは、誰もが彼を応援してしまうだろう。

 強盗トリオのリーダーを演じるパークマン・ウォンの悲愴な表情も強く印象に残る。東南アジア系の血が入ったような顔立ちから、おそらく物心ついた時から差別を受けてきたであろうことを匂わせる秀逸なキャスティング。3人のうちではコメディリリーフ的な存在にあたる「脳なし」(なんちゅうニックネームだ)に扮するのは、『霊幻道士』シリーズでもおなじみのビリー・ロウ。へえ、こんなにピュアで瑞々しい演技もしてたんだ、と思うような好演を披露している。ドでかいメガネをかけた刑事役のミウ・キウワイも、犯人たちに比べると存在感は控えめながら、なかなかカッコイイ。

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 貧民街から高級レストランまで、香港の様々な表情を切り取ったロケーションも多大な効果を上げている。スモークたなびく夜の裏路地に1台のタクシーがフレームインしてくる、スコセッシ・オマージュ全開のオープニングからして雰囲気たっぷり。名キャメラマン西本正を師匠にもつ撮影部出身のラン・ナイチョイは、前作『城寨出来者』(1982)でも実際に九龍城砦でロケ撮影を敢行し、無法地帯のリアルな空気を切り取った。リアリズムと過剰な映画的表現の融合は、明らかに『CID』『ICAC』『獅子山下』などのTVドラマ、『香港極道・警察〈サツ〉』(1979)や『ミッドナイト・エンジェル/暴力の掟』(1980)といった香港ニューウェーブ作品の強い影響によるものだ。

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 この時代の香港映画がもっと観たい。スタジオを飛び出して、汚濁と矛盾を抱えた社会の現実を凝視しつつ、過剰な映像表現でそれまでの映画史を更新しようとする気概と勢いに満ちた映画たち。その後、急速にフランチャイズ化されていく香港映画からは淘汰された「闇」が感じられるのがいい。

・Yesasia.com
『暗渠』DVD(香港盤・英語字幕つき・リージョン3)

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映画秘宝8月号! 映画の必修科目03 異次元SF映画100!

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 6/21発売の「映画秘宝 2012年8月号」は、スカーレット・ヨハンソン演じるブラック・ウィドウが表紙を飾る『アベンジャーズ』大特集号。ぼくは今回、3つほど記事を担当しております。まず、『ホット・ファズ』『宇宙人ポール』などでおなじみの人気俳優ニック・フロストに直撃インタビュー! 新鋭ジョー・コーニッシュ監督のSFモンスターパニック活劇『アタック・ザ・ブロック』(6/23公開)で、終始マイペースのマリファナ栽培人を演じた彼が、役作りのために某SF映画の主役キャラクターを参考にした話などを聞いております。

 そして、DEVILPRESSコーナーにて『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(6/30公開)のフレデリック・ワイズマン監督のインタビュー記事も掲載。別冊秘宝編集長の田野辺さんといっしょに、ドキュメンタリー映画の歴史を変えた巨匠に対して「おっぱい派ですか? それともお尻派?」などのチャイルディッシュな質問ばかりしてきました。監督は旅の疲れで眠そうでしたが、時折ジョークも交えながら最後までにこやかに答えてくれました。

 また、脱獄したプロの強盗と連続殺人鬼の対決を描いたフレンチアクションスリラー『プレイ/獲物』(6/30公開)のレビューも書いております。主演は『ベルニー』『Enfermes Dehors』のアルベール・デュポンテル。出演作もいいけど、このおっさん本来の危険な魅力が光りまくる監督作も日本公開希望!

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 6/25には「映画秘宝EX 映画の必修科目03 異次元SF映画100」が発売。これから映画にどっぷりハマりたい若い読者に向けて、秘宝的にマストな作品を紹介する「映画の必修科目」シリーズの第3弾です。今回は監修にムービーウェポンアナリストとしてもおなじみの青井邦夫さんを迎え、SF映画を大特集。1968年公開の『2001年宇宙の旅』以降に作られた名作群をメインに、秘宝読者ならずとも映画ファンなら外せない必見作の数々が紹介されております。『猿の惑星』『エイリアン』『ブレードランナー』『マトリックス』などの定番タイトルと並んで、エディ・マーフィ主演の『デイブは宇宙船』や、マイク・ジャッジ監督の『26世紀青年』といった隠れた逸品も取り上げられているあたりが映画秘宝ならではのセレクト。

 ぼくは今回、『地球爆破作戦』『未来惑星ザルドス』『ブラジルから来た少年』『マッドマックス』『トロン』『デューン/砂の惑星』『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』『未来世紀ブラジル』『ダークシティ』『スキャナー・ダークリー』『トゥモロー・ワールド』以上11作品のレビューと、【SF偉人伝:ウィル・スミス】というコラムを担当しました。子供の頃は中子真治さんの「フィルム・ファンタスティック」や、菊地秀行さんの「魔界シネマ館」などを参考にSF・ホラー映画を見まくっていたので、その当時の気分を思い出しながら書きました。

 ガイドブックとしても便利だし、いろんなライターさんの蘊蓄も楽しい「買い」の一冊です。SF・ホラーはジャンルの華!

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